【事案】
30代の男性。バイクで自動車と衝突、救急搬送され即入院、目立った脳の損傷はなく、意識も朦朧としていた程度だったので1週間後に退院となった。しかし、めまい・ふらつき、見当識・記憶障害に悩まされる。改善なく高次脳機能障害として後遺障害を申請するも否定され、めまい・ふらつきのみの評価で12級認定されるのみ。
【問題点】
受傷初期において普通に会話ができ、歩ける姿を見て、主治医は早々に退院を指示、めまいは経過観察とされる。また、記憶障害、認知障害などは事故のショックのせいと考えられ、家族も深刻に捉えず、また当時の婚約者とも予定通り結婚する。異常がなかなか治らないことに気付くも、妻は妊娠・出産で障害の立証どころではなくなってしまった。こうして高次脳機能障害が見逃されたまま月日が流れ、時効が迫る。
【立証】
受任後、時効を止めるため連携弁護士がただちに訴訟を提起、並行して2年の間にのべ18回の検査通院(うち12回同行)を行った。受傷初期の意識障害、画像所見はいずれも微妙であったが、専門医の協力のもと神経心理学検査のやり直しと画像鑑定を進める。データから認知、記憶、注意機能、遂行能力の障害が顕在化する。
しかし裁判上での異議申立てで、自賠責の回答はまたしても「前回通り12級」。相手損保の代理人も、「高次脳機能障害ではなく、元々知能が低い」等、えげつない反論を展開する。
結局、判決まで突っ走り、法廷で本人と家族の口頭陳述、審問を経てようやく5級を勝ち取る。その後相手損保が控訴したが、高裁でほぼ地裁判決通りの和解となった。
なぜこのような苦しい道となったのか・・・最初の病院で医師が高次脳機能障害の予断をしなかったことに尽きます。主治医は事故前の患者の性格・能力を知りません。繊細な変化は捉えづらいのです。また家族も本人の様子が多少おかしくても、普通に歩けたり話ができれば、時間の経過とともに回復するはずと判断してしまいます。確かに多くの患者は回復するでしょう。しかしこのように主治医、家族から見逃される被害者も存在するのです。
【後日談】
一般的な就労に制限があるこの被害者は現在、家族で田舎に転居し農家の手伝いをしています。障害を抱えながらも、妻と二人の子供を力強く養っています。何か困ったことがあればいつでも駆け付けようと思っています。
(平成25年7月)