治療経緯が迷走した件は、およそ14級を取りこぼします。まず、症状の一貫性や信憑性が疑われます。また、受傷機転に比べて症状が重い場合は、元々の症状=既往症、あるいは単に「大げさ」と判断されます。だからこそ、治療経緯に疑いをもたれないよう、正しく進めねばなりません。

 本件は、その治療経緯を取り繕う作業でした。2年も経ってからではなく、できれば、最初から相談に来てほしいものです。

おきて破り、相手損保と示談解決後の認定となりました。     

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 複合靭帯損傷(ふくごうじんたいそんしょう)   (1)病態

 膝関節の安定性は、靭帯で制御されています。まず、それぞれの靭帯の役割を整理します。    膝関節には、4つの主要靭帯、   ① ACL前十字靭帯、② PCL後十字靭帯、③ MCL内側側副靭帯、④ LCL外側側副靭帯、があり、   ⑤ PLS膝関節後外側支持機構と共に、膝の安定性を保持、正しい運動軌跡を誘導しています。   続きを読む »

 PLS 膝関節後外側支持機構損傷(ひざかんせつこうがいそくしじきこう)

(1)病態

 PLSは、LCL外側側副靱帯、膝窩筋腱と膝窩腓骨靱帯で構成されています。PLSは、主に膝の外側の安定性、外旋安定性に寄与している重要な靱帯と腱の複合体です。

 PLS損傷は、膝の靱帯損傷では少ない症例ですが、交通事故に代表される高エネルギー外傷では、複合靱帯損傷の形態で発症しています。

 単独損傷は少なく、特に、後十字靱帯損傷、膝関節の脱臼を合併したときは、膝窩動脈損傷、腓骨神経断裂などの血管・神経損傷が危惧され、重症例となります。   (2)症状

 急性期のPLS損傷は、膝外側部に圧痛を認め、広範な腫れと皮下血腫を認めます。PCL損傷、半月板損傷を合併しているときは、関節内血腫を伴います。

 PLS損傷では、内反動揺性と回旋動揺性のいずれか、あるいは両方が見られます。これらの動揺性を確認することにより、どの靱帯を損傷しているかが分かります。   (3)診断と治療

 何よりMRI検査ですが、損傷を正確に読み取ることは、膝関節の専門医でなければ無理です。内半・回旋動揺性がみられたら、早期に専門外来へ行くべきです。    内反ストレステストは、被害者を仰臥位で、完全伸展位と30°の屈曲位で行います。30°屈曲位のみで関節裂隙が開大するときは、LCL単独損傷が疑われます。完全伸展位でも、関節裂隙の開大が認められるときは、PLSの広範な損傷やPCL損傷の合併を疑うことになります。

〇 ...

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LCL 外側々副靭帯損傷(がいそくそくふくじんたいそんしょう)

(1)病態

 LCL外側々副靭帯は、ACL、PCL、MCL靱帯に比較すると、損傷する頻度は少ないのですが、交通事故に代表される高エネルギー外傷においては、PCL後十字靱帯損傷や腓骨神経麻痺を合併することもあり、重篤な後遺障害を残すことがあります。

 交通事故では、膝の内側からの打撃、膝を内側に捻ったときに断裂することがあります。単独損傷はほとんど発生していません。多くは、後方の関節包、PLS膝関節後外側支持機構という領域を含む複合損傷を来します。   (2)症状

 LCL外側々副靭帯損傷では、靭帯が断裂または引き伸ばされることによる膝外側部の疼痛、外側半月板周囲の膝の激痛と運動制限を生じます。

 膝の左右の不安定感もハッキリしており、膝が外れる、膝が抜けるなどの感覚を伴います。Grade III(靱帯の完全断裂)では、腓骨神経麻痺による下腿から足先の麻痺、膝窩筋腱領域に広がる膝外側から膝裏にかけての広範な疼痛と不安定性が見られます。   (3)診断と治療

 LCL外側々副靭帯は、膝が内側に向かないように制御している靭帯です。LCL外側々副靭帯損傷は、徒手検査で外側不安定性を認めることで、診断可能です(外反・内半テスト)。

 さらに、ストレスXP撮影で、動揺性、靭帯の緩みを確認してグレードを判別することができます。MRIでは、骨挫傷、軟骨損傷、その他の靭帯や半月板損傷など、合併損傷がないかを検証します。とくに、後十字靭帯損傷を合併していることが多く、Grade II以上の不安定性を認めるときは、MRI検査で、それらを検証しなければなりません。

 膝外側側副靭帯損傷の治療は、原則的にはリハビリを中心とした保存療法が中心ですが、Grade IIIで重度な不安定性が見られるときは、靱帯再建術が必要となり、膝関節の専門医の出番です。   続きを読む »

MCL 内側々副靱帯損傷(ないそくそくふくじんたいそんしょう)

(1)病態

 少々乱暴ですが、靭帯とは、膝を締め付けているベルトであると理解して下さい。膝の左右の内・外側々副靭帯と、前後の十字靭帯というベルトで膝を強固に固定しているのです。

 このベルトが伸びきったり、部分断裂したり、全部が断裂すると、当然に、膝はガクビキ状態、膝崩れを発症、これを医学では、動揺関節と呼んでいるのです。

 MCLは浅層、深層、後斜靱帯の3層構造となっており、長さ10cm、幅3cmの範囲で膝関節内側部の大腿骨内上顆から脛骨内側部にかけて走行しています。MCL損傷は、靭帯損傷の中でも最も多発する症例で、交通事故では、膝の外側から大きな衝撃が加えられたときに生じます。

 側副靭帯は、内側と外側にあるのですが、交通事故でも、スキー・サッカー・相撲でも、圧倒的に内側々副靭帯の損傷です。限界を超えて膝が外側に押し出されると、また外側に向けて捻ると、このMCLが断裂するのです。   (2)症状

 膝関節内は出血し、ポンポンに腫れ、強烈に痛く、ある被害者は、受傷直後は、アクセルを踏むことすらできなかったと話していました。

 逆に、腫れや歩けない程の激痛がなく、自転車をこいで家に帰った、そのまま運転して会社に行ったなど、事故での損傷を自ら否定することになります。後で画像で損傷が見つかった!としても、陳旧性の損傷が濃厚です。陳旧性とは古傷、あるいは経年性の靭帯の変性です。   (3)診断と治療

 診断では、膝の内側靭帯が断裂しているので、膝をまっすぐに伸ばした状態で、脛骨を外側に反らす外反動揺性テストを行うと、膝がぐにゃと横に曲がります。普通、膝関節は横に曲がりません。

 損傷のレベルを知るために、単純XP、CTスキャン、関節造影、MRIなどの検査が実施されます。靭帯損傷の検査、一昔前はエコーでしたが、近年、3.0テスラに高精度化したMRIが有効です。   続きを読む »

PCL 後十字靱帯損傷(こうじゅうじじんたいそんしょう)

(1)病態

 ACL前十字靱帯とPCL後十字靱帯は、共に、膝関節の中にある靭帯で、大腿骨と脛骨をつなぎ、膝関節における前後の動揺性を防止している重要な靱帯です。交通事故では膝をダッシュボードで打ちつけて発症することが多く、ダッシュボードインジュリィ(dashboard injury)と呼んでいますが、PCLだけの単独損傷は、ほとんどありません。

 多くは、膝蓋骨骨折、脛骨顆部骨折、MCL損傷を合併するので、実に厄介な外傷となるのです。運転席や助手席で膝を曲げた状態のまま、ダッシュボードに外力・衝撃などによって、膝を打ちつけ、𦙾骨が90°曲がったまま後方に押しやられ、PCL後十字靱帯損傷となるのです。同時に、膝蓋骨骨折、脛骨顆部骨折などに合併して生じることが多いのです。

  (2)症状

 後十字靭帯損傷は、前十字靭帯損傷と比べ、機能障害の自覚や痛みが少ないのが特徴です。前十字靭帯損傷に比して、痛みや機能障害の自覚が小さいものの、痛みや腫れは出現します。訴えは、膝蓋骨骨折などの痛みが中心となります。   (3)診断と治療

 後十字靭帯損傷とは、靭帯が部分断裂したレベルであり、単独損傷では、大腿四頭筋訓練を中心とした保存療法の適用となります。

 自覚症状としては、受傷初期は痛みがありますが、そう長びかないようです。問題は、靭帯が断裂、あるいは部分断裂で伸びてしまうと、膝がぐらつきます。まず、ぐらつきの特性を診断する必要があります。症状をしっかり医師に伝え、その異常に早く気付いてもらわなければなりません。    ◆ この治療を得意としているのは、膝の専門外来、スポーツ外来で、専門医が配置されています。ACL損傷に同じく、PCL損傷も徒手テストと画像から診断をおこないます。町の整形外科医では、湿布だけ出して帰らされることがあります。往々にして、診断が遅れることがありますので注意です。   ① MRI

 まずは、損傷の程度を確認、診断名につなげます。骨折を伴う場合は、当然に単純X線写真とCTは実施しているはずです。靭帯を精査するには、加えてMRI(場合によっては関節造影)検査を行います。

 ただし、骨折を伴う場合、骨折部に金属(プレート・スクリュー)で固定すると、すぐには検査できません。ハレーション(金属が反射して筋状の線が写る)が起きて、患部が観えなくなってしまうからです。骨折の癒合が優先されますから、毎度、抜釘するまでMRIはお預けとなります。    ② 後方引き出しテスト(posterior sag)

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(4)後遺障害のポイント   Ⅰ. 経験則では、医師にオペの自信がなく、保存療法に終始した被害者さんが少なくありません。つまり、膝関節に動揺性が認められ、日常や仕事上に大きな支障が認められる状況です。

 通常歩行に、常時、装具の必要性のある場合は、1関節の用廃で8級7号が認定されます。現在、靭帯再建術の向上から、8級はほとんどみなくなりました。多くは手術の改善により、10級か12級に下がります。     Ⅱ.

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 半月板損傷(はんげつばんそんしょう)  

(1)病態

 膝関節には、関節を支え、左右前後のズレを防止している靭帯の他に、関節の動きを滑らかにし、クッションの役目を担当する半月板という組織があります。

 大腿骨と脛骨の間に存在し、紋甲イカの刺身をイメージさせる色と硬さの軟骨のクッション、上下の圧力を分散し、関節軟骨を保護しているのです。医学的には、細胞外線維性基質と呼ばれる軟骨の一種です。

 交通事故では、横方向からの衝撃で、膝をひねったときに、半月板が大腿骨と脛骨の間に挟まれて、損傷、断裂するのです。はね飛ばされ、着地する際に、膝関節が屈曲しつつひねりが加わると、水平方向のストレスが加わり、そのストレスで、半月板を部分的、あるいは全体的に断裂しています。   (2)症状

 受傷直後は、疼痛が主症状であり、膝を伸ばすと、一瞬、引っかかるような違和感が常にあります。大きな断裂で、関節内に半月板の一部がはまり込んだときは、関節がある角度から伸展できない状態、ロッキング症状となり、激痛と可動域制限で、歩行ができなくなります。

 半月板の辺縁部には血管があり、損傷が血管の辺縁部まで達したときは、関節内に出血します。半月板の損傷部位に一致して膝関節部に圧痛や運動時痛が認められます。内側半月板損傷のほうが、外側半月板損傷より5倍も多く発生すると報告されています。   (3)診断と治療   ① マクマレー・テスト

 仰向けで、膝を最大屈曲させ、ゆっくり足を動かすと、膝に激痛やグキグキの異常音が聞こえます。   ② ...

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 今夜はお誘いで赤坂まで。メトロから地上に上がるとTBSが目の前に。その向かい、Bizタワーのワインバルでイタリアンをつまみにワインを空けました。      甘めのメルローに合わせたのは、ロースト肉4連弾。ラムチョップ、伊風豚ハム、牛ハラミ、牛ロースのラインナップ。締めは秋のキノコが溢れるピッツァでした。    オープンテラスは、まだちょっと暑いかな。それでも、時折、涼風がビルを縫って走ります。確実に秋へ近づいているようです。    続きを読む »

 山梨♨シリーズ、この夏、未湯多い南アルプスを攻めました。    今年の酷暑には、ぬる湯が一番、1時間も浸かっていられるからです。まず、県南屈指のぬる湯、下部温泉の染み通るようなアルカリ性単純泉、一瞬冷たさを感じますが、PH8.4の滑らかな湯がほのかに体温を保ちます。何より、古湯坊 源泉館さんは足元湧出! 生まれたての泉との接触は、地球との一体感を生むものです。(写真はHPから転載させて頂きました)

   さて、今回の南アルプス最大の目的地に移ります。下部温泉から一日に数本の県営バスで1時間10分揺られながら、早川沿いをダムまで遡上、そのどん詰まりにある奈良田集落に到着します。ダム湖を見下ろす斜面に、温泉界でもその泉質が軒並み最高評価とされる、奈良田温泉・白根館が鎮座しています。(写真はダム湖)

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脳脊髄液減少症

   脳脊髄液漏出症 → 脳脊髄液減少症 → 低随液圧症候群 ・・呼称も変遷しています(順番はさだかではないですが)。タイトルは一番馴染み深い(たくさんの相談者がみえられた)、「脳脊髄液減少症」としました。

 この症例の変遷ですが、平成24年6月厚生労働省により「脳脊髄液漏出症の疾患概念と画像診断基準」がまとめられ、硬膜外自家血注入療法(ブラッドパッチ療法)が先進医療扱いに定められました(お医者さんが儲かる自由診療ですね)。さらに、平成28年4月脳脊髄液漏出症に対して、硬膜外自家血注入療法(ブラッドパッチ療法)が保険適用となりました。   (1)症状

 脳脊髄液腔から脳脊髄液(髄液)が持続的、もしくは断続的に漏出することによって脳脊髄液が減少し、頭痛、頚部痛、めまい、耳鳴り、視聴覚機能障害、倦怠などが生じます。一連の神経症状はバレ・リュー症候群とよく似ています。それ等の症状は、横になっているときは軽減していますが、座位・立位で苦痛が増大するようです。

 画像診断についてはMRI、ミエログラフィーなどがありますが、参考的な所見に留まります。より精度を高めるには、RI脳槽・脊髄液腔シンチグラムのような専門的な手法がとられるため、確定診断も非常に稀な病態です。    診断基準について詳しく 👉 脳脊髄液減少症(CSFH) の診断基準   (2)治療

1,まずは保存療法、そして輸液(生理的食塩水/血液)を行います。食塩水や血液を使い、硬膜に外側から圧力をかけて髄液の漏出を抑えます。   2,専門外来の多くで主流となっている、硬膜外自家血注入療法(ブラッドパッチ療法)が施行されます。自身の血液を20~30CC採取して、脳脊髄液の漏出部分に注射します。簡単に言いますと、かさぶたで漏出部を塞ぐのです。専門外来として、その筆頭は山王病院で、ここ数年、ブラッドパッチを実施する病院はかなり増えました。ある病院のHPによると、ブラッドパッチの効果として、「2割が回復、5割が改善傾向、3割が効果なし」との統計を発表しています。リスクとして、硬膜外に血糊を入れるのですから、硬膜外血腫を指摘されています。回数を1~3回に留めている理由と思います。   (3)後遺障害

 そもそも、医学的に研究年月も症例も少なく、病態の存在自体を疑問視する医師も多いのです。一部の医師が積極的に臨床先行で治療・研究を推進していますが、傷病名が変わる度、健保扱いが変わったり・・どうも政治的な臭いもします。

 診断基準も厳しく、それに合致する患者はごくわずかです。自賠責保険としては、直接の診断名からの認定ではなく、神経症状の一環として、14級9号の判断でお茶を濁しています。

 その為か、後遺障害認定のために活動する団体がいくつか設立されました。主に宗教団体後援のグループが多いようです。症状に応じて、就労が困難となる7~3級や、介護状態の1~2級を訴えるのです。ただし、エビデンス(医学的な証拠)や他覚的所見に乏しいものですから、自賠責は高い等級の認定はしません。もっとも、訴える患者の数が減ったのか、最近はその活動も下火になったように思います。

 自賠責や労災で認定されない場合、裁判での判断になりますが、認定された判例は少なく、賠償金も3~5割減額など灰色解決的なものが多くを占めています。医者がわからないのだから、裁判官もわかるはずがないのです。    交通事故相談の現場では、病名が独り歩きしているのか、第一に「低髄圧液症候群です」、次いで「MTBIです」、「RSDかも?」と、自己診断する方が後を絶ちません。どうも、心身症っぽい?と見受けられる被害者さんも多いのです。その場合、私達の仕事の範囲を超えます。14級9号をとって、相応の解決を図ることが限界なのです。数年前は、脳脊髄液減少症の訴訟に注力する弁護士先生を見ましたが、結果が芳しくないのか、次々に撤退したように思います。    世の中には、現代の医学が追い付かない、難病・奇病が少なからず存在しているのです。

 

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 胸郭出口症候群、脳脊髄液減少症・・むち打ちの分類から外れますが、むち打ちを契機に、これらの診断名が付けられる被害者さんも多いものです。「むち打ち」を広義に捉え、解説に加えたいと思います。   

胸郭出口症候群

(1)症状

 頚部痛だけではなく、主に片側の上肢にしびれと冷感が生じます。人によっては、肩こり、倦怠感、様々な症状を起こします。症状はかなり広範囲のようです。

 原因ですが、少し長くなります。腕の神経は頚部から両上肢に左右にそれぞれ5本ずつ走行しています。その通り道に、胸の鎖骨下、第一肋骨に前・中・後斜角筋、斜角筋、鎖骨下筋、小胸筋が存在しています。 それらの組織の損傷、変形で血管や神経の通り道が狭くなり、血管や神経が圧迫されたり、引っ張られたりする結果、知覚鈍麻・筋力低下の神経障害が発生してくるのです。

 神経根型は頚椎の位置によってしびれる箇所が分かれますが、胸郭出口症候群は肩の動きや角度でしびれが変わることが特徴です。

 ただし、胸部の組織が、必ずしも事故の衝撃で壊れたとは言えません。加齢に従って変性をきたすケースが普通だからです。それが、事故の衝撃をきっかけに発症するのですから、損害賠償上、ややグレーな印象となります。   ◆ 引き金論

 むち打ちによる障害、その全般がグレーと言えます。事故を契機に発症し、その後半年、症状の一貫性があれば、元々の変性があったとしても、事故の衝撃で何等かの神経障害が惹起されたはず・・・。「事故が引き金となった障害」、私達はそう解釈しています。    (2)検査と治療

 簡単にできる検査は以下の通りです。

  〇 Morleyテスト  鎖骨上窩を圧迫すると、上肢が痛みます。   続きを読む »

 そもそも、むち打ちは自覚症状(痛み、しびれ等々)のみで、画像所見は不明瞭、神経学的所見もあいまい、医師も「頚椎捻挫ですから安静にしていれば治ります」となるケースが多いのです。これが保険会社が「賠償病」と暗に軽視する理由です。

 しつこく症状を訴える患者に対し、医師も最後には「精神的なものです」と言って心療内科への紹介状を渡します。医師も保険会社も、はたまた家族も、誰も自身の症状を信じてくれません。この段階で「どうしたらいいでしょうか?」と、相談者が後を絶ちません。お気持はわかりますが、その境遇を打開するのは自分です。つまり、正しい診断・治療へ辿りつく努力が必要です。    

バレ・リュー症候群

(1)症状

 例えば、痛み・しびれはもちろん、めまいやふらつき、頭痛、吐き気、耳鳴り、不眠、疲れ易い、ぼーっとするなどの異常が長期間に及ぶ場合、バレ・リュー症候群の可能性があります。

 

 1925年にフランスの神経学者バレ博士が、「頚部の疾患、外傷でありながら頭部や顔面に頑固な自覚症状を訴える症例があり、これらの症例は頚部の交感神経機能と密接な関わりを持つ」と発表したものです。さらに「深部交感神経(椎骨神経)が責任部位であり自覚的所見が症状のほとんどを占める」と続きます。つまり「自覚症状だけ!?」なのです。そんな無責任な!と言いたいですが、バレ博士の教え子リュー氏(だからバレ・リューか!)が多くの症例を集め研究を引継ぎましたが、完全解明されず現在に至ります。臨床上、その存在は知られていますが、原因や根治療法は確立していません。   (2)治療

 これは整形外科の分野から外れます。牽引や電気治療を続けても効果は望めません。早めに神経内科、ペインクリニック等専門医に診てもうらう必要があります。症状の緩和には神経ブロック(※)が有効です。その種類・方法は専門医に判断を仰ぎます。

 硬膜外ブロック、K点ブロック、星状神経節ブロックなど、注射を打つ場所は頚部になります。薬剤はキシロカイン、カルボカイン等の麻酔薬が主で、この注射は神経科の領域になります。最近では、ペインクリニックの呼称で個人開業医でも施行しています。    ※ 神経ブロック 👉 神経ブロックとは?     受傷直後は安静が大事ですが、過度の安静は頚部・肩関節の関節拘縮や、抑うつ傾向によって痛みを強めてしまうので、ポリネックでの固定は避けたほうが良いとされています。この辺が、単なる頚椎捻挫の治療と一緒にできないところです。   続きを読む »

【3】脊髄症型(正中型)

 椎間板や骨棘が、脊髄を圧迫するものです。左右の神経根への圧迫と区別して、正中型とも呼ばれます。   (1)症状

 事故後、頚部痛どころか、上肢や下肢までひどい”しびれ”が生じている場合です。例えば上肢については、両手で顔を洗うときに両手が上手く動かない、ボタンがかけずらい、歯ブラシが上手くできない、ボタンがはめられない・・。下肢については、しびれで長時間の歩行でだるさを伴い、階段昇降で痛みが走る・・。神経根圧迫であれば片側の上肢のみに症状がでることに対し、両上肢、あるいは下肢にまで及ぶ場合、(重度の)脊髄損傷か(軽度の)脊髄症型を疑うべきです。   (2)治療

 まずレントゲンで頚椎の損傷がないか確認します。次いで、MRIでヘルニアの脊髄圧迫なのか、脊髄そのものに損傷があるのかを判断します。ヘルニアの圧迫であれば神経根型と類似の治療となります。脊髄に損傷がある場合、必ずT2(高輝度所見)で撮影します。この場合は脊髄に不自然に白く光る病変部が移ります。造影剤を使うこともあります。脊髄に高輝度所見が現れた場合、脊髄損傷は確定的です。これは、「むち打ち」どころの騒ぎではなくなります。

 受傷直後は安静が第一ですが、積極的な処置として、やはり神経ブロックが有用です。症状に応じて硬膜外ブロック、星状神経節ブロックを選択します。このブロック注射は手術扱いで点数(治療費)の高さから、一部の整形外科で積極的に採用しています。しかし、腕の差がかなりでる技術なので医師選びが重要です。

 医師によっては、ステロイド治療に積極的です。副作用が強い薬剤なので、自身の症状と比べて、慎重な判断が望まれます。

 画像に現れるほどの脊髄損傷ならば、残念ながらほぼ不可逆的です。神経線維の切断された脊髄は、手術での回復は見込めません。最新の電極を埋め込む術式(脊髄刺激電極埋め込み術)も、完全ではありません。

 対して、脊髄圧迫に留まる場合でも、麻痺が進行しているケースでは手術適用となります。前方固定術が代表的で、この手術は脊髄を圧迫している椎間板を除去し、腸骨の骨片を空いた隙間に埋め込みます。こでれ、脊柱の隙間が広がり、脊髄への圧迫が除去されます。脊柱管狭窄症でも、この術式が用いられます。これも、執刀する医師により判断したいところです。 続きを読む »

【2】神経根型

   神経根型とは、上図のように脊髄から左右に派生する、神経の通る鞘(さや)に、椎間板や骨棘の圧迫が生じる状態です。左右両方への圧迫もありますが、多くは左右どちらかの圧迫で、圧迫側の上肢に放散痛(腕を走るようなビリビリしたしびれ)が発症します。スパーリングテストとは、わざと首を横に倒して、神経根への圧迫を強め、その放散痛を誘発させるものです。

右に倒すと、右腕~指がビリビリ

 これは、左右の神経根が鎖骨下の上腕神経を経由して、腕の3本の神経(橈骨神経、正中神経、尺骨神経)を経て、指先の抹消神経までつながっているからです。このように、通常の頚椎捻挫に比べて、神経症状が明らかに説明できます。     (1)症状

 肩から手指にかけてしびれを自覚します。首を曲げるとピリピリとした感覚が走ります。先の説明の通り「放散痛」が主な症状です。この状態はMRIで視認できます。薬は単なる痛み止めから、神経性疼痛に対処する「リリカ(プレガバリン)」に変更されます。それでも効かない場合、「トラムセット」など、オピオイド系(麻薬の成分入り)になります。    神経性疼痛の痛み止め薬 👉 続きを読む »

(0)エピローグ

 最初に「むち打ち」被害に遭った被害者さんに、むち打ちの概要と、解決までの道筋を説明します。     交通事故外傷の実に60%は「むち打ち」です。「むち打ち」とは俗称であり、正式にはいくつかの病態に分かれます。いずれも、治療方法が確立されたとは言い難いもので、その理学療法は、電気治療、牽引、ホットパックなど、対処療法の域をでません。痛みには、痛み止め薬が処方されます。また、徒手による整復、マッサージも有効です。頚部~肩への過緊張をとることも改善につながります。この施術、整骨院・接骨院が人気の理由と思います。     多くは安静を続ければ、一定の回復が図れます。よって、保険会社は3カ月で治療費を打ち切る算段をしています。また、仮に後遺障害14級9号が認められても、逸失利益(将来にわたる損害)を2~3年と少なくみる理由は、「いずれ、むち打ちは治るのだから・・」です。    確かに、被害者意識と相まって、症状を重く感じ、治療が長期化するケースは多いものです。被害者さん側も、ある程度の治療を経て、それでよしとする潔さは必要です。ただし、一定数の方は単なる打撲・捻挫と言った筋肉の炎症に収まらず、頚部神経への衝撃から、神経症状に陥ります。すると、痛みに留まらず、上肢のしびれ、頚から肩にかけて重だるい、頭痛、めまい、吐き気、耳鳴り、疲労感など、不定愁訴(ふていしゅうそ)と呼ばれる「なんだか調子悪い」状態が数か月続きます。    それでも、相手損保は何か月も治療費をみてくれないでしょう。だって「たかが捻挫」と思っているからです。およそ、3カ月での打ち切りを予定しています。その場合、”単なる捻挫ではない神経症状”を訴えて、なんとか6カ月までみてもらい、症状固定とします。すぐさま後遺障害を申請、14級9号の認定を得ます。14級とは言え、弁護士に交渉を依頼すれば、主婦でも300万円を超える賠償金になります。その後、自費、あるいは健保で治療をするには、十分な資金を確保できるのです。     損保と延々と治療費を巡って争うことに「利」はありません。「離」あるのみです。予後の治療費を賠償金で確保、つまり、実利ある解決に舵を切ります。一日も早く交通事故を終わりにさせ、平穏な日常生活を取り戻すのです。いつまでも被害事故に捕らわれる日常こそ、最大の損害と思います。    対する相手損保の担当者も、早期に治療費を打切り、解決させたいのです。解決のスピードこそ、保険会社の優先事項だからです。    さて、「むち打ち」の症状は病態によって大きな幅があります。数日で軽快する軽傷から、手術を要する重症まで、症状の個人差もあり、その差は広大です。まず、自らの病態を把握し、適切な医師の治療を受ける必要があります。併せて、症状固定時に間違いのない後遺症診断と、後遺障害・等級認定が得られるよう、周到に計画・準備をします。

 その後、交通事故に長けた弁護士に委任して交渉解決、あるいは「交通事故紛争処理センター」の斡旋で解決させます。速やかに交通事故から卒業しましょう。  

【1】頚椎捻挫型

(1)症状

 多くは追突事故を受けた後に頚部に違和感が生じます。当日はレントゲンで「骨に異常ないですね」と言われ、痛み止めの薬(ロキソニン、カロナールなど)、湿布やモーラステープ、ロキソニンハップが処方されて帰ります。翌日~3日後位になると、痛みに加え、こわばり、肩が重だるい、腕から手指にかけてしびれを感じるようになります。    薬 👉 ロキソニン 湿布&モーラステープ   (2)治療

 安静が第一です。無理に動かしたりせず、痛みが和らぐのを待ちます。町の整形外科で理学療法を続けても良いでしょう。   (3)後遺障害

 医師や保険会社の言う通り、多くは「治る」ものです。したがって、週1回リハビリに通った程度では後遺障害とはなりません。もし、1か月経っても症状が軽減しない場合、早期に【2】神経根型、【3】正中型~の病態を疑い、その際、MRI撮影をして下さい。普通、個人開業医にMRIの設備がありませんので、紹介状を頂いて、総合病院での検査になるはずです。

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  (1)病態

 肉離れ、筋違いの正しい傷病名は、筋挫傷です。筋挫傷とは、筋肉や腱が打撃や無理に引き伸ばされることで生じる外傷です。筋肉組織をやや伸ばした軽度なもの、組織が完全断裂する重度なものまで、拡がりがあります。   ※ 腱・・・筋肉を骨に付着させる組織のことです。交通事故では、転倒時の打撲などで、筋肉を損傷し、筋肉の腫れや内出血が起こります。   (2)症状

 打撲部の痛み、腫れ、圧痛があり、太ももの前の筋、大腿四頭筋であれば、膝の屈曲が制限され、大腿の後部の筋、ハムストリングスであれば、膝の伸展が制限、ふくらはぎの筋、腓腹筋であれば、足関節の背屈が制限されます。受傷機転、損傷した筋肉の圧痛部位から、確定診断が行われています。   (3)治療

 損傷のレベル、範囲、血腫の存在を確認するには、エコー検査やMRIが有用です。初期段階は、安静が一番で、痛いと感じる動作は避けるべきです。

 痛みが和らぐ安定期に入ったら、血流を良くして回復を促します。血流改善には、リハビリで、温める、ストレッチ、マッサージなどが行われています。筋肉に炎症があり、炎症が筋膜に生じているときは、4~7日、炎症が筋肉の中心に生じているときは、3~5日程度で完治します。   ◆ 捻挫のしくみ?

 さて、捻挫とは、靭帯の外傷を意味しています。靭帯は骨と骨をつないでいる組織で、関節内に存在しています。靭帯には、関節が正常範囲を越えて曲がる、伸ばされることのないように安定させる役割があります。

 例えば、足首の外側の関節には、3本の靭帯があります。この靭帯は、足部が前に突出する、内側に曲がり過ぎることのないようにシッカリとつなぎ止めていますが、外側からの着地で、無理に体重が掛かると、靭帯だけでは支え切れなくなって、伸びる、断裂することになり、これを足関節捻挫と呼んでいます。 このような靱帯の外傷は、肘や膝など体内の他の関節でも発生しています。

   発生直後から痛みのために歩行が困難となります。損傷を受けた筋の部位に圧痛があり、ハムストリングスでは、膝の屈曲運動で抵抗を加えると痛みが増強し、ハムストリングスを伸ばすような動作でも、痛みが強くなります。発症機転、損傷筋の圧痛部位から損傷筋の診断をします。

 損傷程度や範囲、血腫の存在の判断には超音波検査やMRIが有用です。受傷直後は、アイシングと、伸縮包帯で圧迫し、損傷を最小限に押さえ込みます。3~5日を経過、痛みが軽くなれば、患部を暖め、ストレッチング運動により、筋の拘縮を予防し、関節の屈伸動作のリハビリ療法が行われます。再発を繰り返すことがあり、慎重に対応する必要があります。   (4)後遺障害のポイント   Ⅰ.

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 かつて、伊豆屈指の温泉街として、ハトヤのテレビCMでおなじみの伊東、本日は病院同行でした。    古っ! 昭和のCM      地元の方によると、昭和時代は大賑わいで、道行く温泉芸者、浮き輪を持った子供達、観光バスが列を成して駅前は大渋滞だったそうです。しかし、現在はスカスカ、観光客の激減は町の人口すら減少させたそうです。伊東に限らず、団体客向けの温泉地は全国同じような傾向で、会社の団体旅行は減少の一途、コロナはそのとどめを刺したようです。

 一方、隣の熱海は盛況、若者の来訪が多く、すっかり蘇った温泉街として、再生モデルとなっています。ポイントは団体客から個人客へシフトの成功と言われています。古き良き昭和の雰囲気も大事と思いますが、人を呼ぶためには、若者がSNSでバズる風景を演出できるか、にかかっているようです。

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 腓腹筋(ひふくきん)断裂・肉離れ

(1)病態

 ふくらはぎは、下腿骨の脛骨と腓骨の後方に位置するのですが、下腿骨後方は、コンパートメントと呼ばれる隔壁で、浅部と深部に分けられています。

 ふくらはぎは、浅部にある筋肉、腓腹筋とヒラメ筋で構成されており、この2つの筋肉は下腿三頭筋と呼ばれています。下腿三頭筋はアキレス腱に連結しています。   ※ コンパートメント・・・筋肉を覆う筋膜組織で構成された隔壁で、筋間中隔とも呼ばれます。   (2)症状

 ふくらはぎの痛み、内出血、ふくらはぎの一部に凹みが見られる。   (3)治療

 XPで骨折を確認し、次ぎに、超音波検査、MRIで筋肉の損傷状態を確認します。治療は、消炎鎮痛剤、局所注射、固定、物理療法で炎症を抑えますその後、運動療法で筋肉の伸張性を高め、筋肉を柔軟にし、筋力強化を行います

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