若手に指導する立場となって数年・・事務所でも偉そうに訓戒をたれている毎日です。
知識は文献をあさり、技術は経験で磨くものと思います。さらに、現場での応用力は、その人の持つセンスや人間性を加味した総合力の結集です。弊所の医療調査業務も、応用力が究極のスキルです。それは、まず原則を知ることから始まり、例外の経験を重ね、終には原則を打ち破る仕事を到達点と考えています。
他事務所に目を向けると、以前から気になっていたことですが・・交通事故の経験浅い弁護士が、相場を大きく上回る慰謝料・逸失利益で賠償請求、結果として交渉が難航、解決まで大幅に時間を食っていることです。他事務所のことでもありますし、また、法律の専門家に対して苦言をできる立場ではないことは重々承知しています。しかし、明らかに知識の欠如に思えるケースが目につくのです。
実例で説明します。交通事故・後遺障害の実に70%近くを占める、頚椎捻挫(腰椎捻挫含む)で相手の損保に逸失利益(将来の損害)を請求する場合、特殊な事情がない限り、通常、裁判上でも喪失期間は最長5年が相場です。当然、個々の症状に軽重はありますが、生涯その障害で苦しむ事は極めて稀で、神経症状は数ヶ月~数年で収まります。それを越えるものは、単なる頚椎捻挫を越えるもので、別の診断名で手術適用となります。単純なむち打ちであれば、相手損保も医学的なデータから、神経症状の残存をおよそ2年と主張してきます。対して、弁護士は交渉あるいは斡旋機関、裁判で5年の満額を目指して戦うことになります。ところが、赤い本の慰謝料満額である110万は良いとしても、なんと、むち打ちでほとんど生涯をふいにする=67歳までの逸失利益を請求する先生が今まで何人かおりました。
おそらく、相手損保の担当者も苦笑していることでしょう。「ど素人先生」と内心小バカにしているかもしれません。世の中には相場というものがあります。確かに交渉ごとですから、最初は大きくふっかけるものでしょうが、度を越した山盛り請求は逆に、相手どころか斡旋機関や裁判官の心証を損なうリスクとなって跳ね返ってきます。これは業界における無知をさらす事になるのです。大体、捻挫の診断名で神経症状が一生続くなど・・医学・法律以前に、まず一般常識で考えればわかるでしょう?と言いたくなります。とりあえず単純に「最大限の請求を!」と、論拠乏しく計算したのかと思います。その点、事務所のボス・先輩弁護士が、あまりにも手放しで案件を任せていることは気になります。無法図な主張を放置ですから、しっかり監督・指導していないのでしょう。
では、原理・原則に縛られ、判で押したように相場の範囲の主張に終始する姿はいかがでしょう?
被害者の症状・事情を鑑み、個別具体的な賠償論を構築することこそ、法律家ではないかと思います。それらが成果となれば、判例ジャーナル等に掲載されますので、類似ケースを戦う者にとって大きな指標になります。もし、医学的常識を越えるようなひどい症状の被害者に対して、67歳まで神経症状が続く理由を立証し、賠償金を獲得すれば、それは画期的な仕事に生まれ変わります。それこそ、「常識を知って、常識を打ち破る」仕事かと思います。
もちろん、法律家に限らず、あらゆる職業で応用力を発揮し、新しいアイデアを打ち立て、刮目すべき成果を残す者がおります。攻める姿勢は、原則を熟知したところからスタートします。原則を知らずに突っ走るなど蒙昧の徒に他なりません。まず、原則を知って、原則に拘泥することなく挑戦する姿勢はすべての仕事に通じると思います。 <最期に例題を>
ご存知、漫画・アニメのタッチから。17歳高校生で甲子園予選を前に、交通事故で亡くなった、主人公 上杉 達也の双子の弟 上杉 和也くん。彼の死亡による逸失利益を最大限に獲得する法理論構成をお願いしたいと思います。
事故状況は、子供を守るためとはいえ、自分から急に道路に飛び出したので、相当に過失減額されるはず。判例タイムスによる基本は70:30です。当時は人身傷害保険がないので、自己の過失分補填は期待できません。過失減額の無い(相手車の)自賠責保険、当時は死亡で2000万円です。仮に70%減額されても、賠償額は2000万円をオーバーするはずです。したがって、(相手に任意保険の付保があるとして)裁判で最大限に賠償金総額を積み上げることを目標とします。そこで、逸失利益の最大化がポイントとなります。以下の点において、画期的な判例を期待したいのです。 続きを読む »