ある日突然、交通事故でケガを負います。相手の一方的な過失で重篤なケガを負わされた被害者は理不尽の極みです。

 最近の相談者で目立つのは、頑張って治療努力を進め、受傷から数年経ってようやく症状固定となる方です。後遺障害の認定は症状固定時の状態で判定します。例えば骨折後、関節の曲がりが悪くなった、顔に傷が残ってしまった・・・このような被害者さんも医療技術の進歩も相まって、月日を経るごとにどんどん回復に向かいます。  できるだけ回復させるまで症状固定としない、これはまったく正しい行為です。しかしある程度、回復のスピードが一定となったら症状固定とすべき理由もあります。それは補償問題として考えるなら、より障害が顕在である時の方が等級認定しやすいという事実があることです。

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 なめてはいけない県民共済。加入している場合、忘れずに請求しましょう。死亡や入院・通院はパンフレットを見れば保険金が確認できますが、後遺障害は細かく記載されていません。埼玉県、千葉県の約款から以下抜粋、一覧表にしました。障害内容は自賠・労災に準じていますので、それらを見て下さい。  これを作っておくと、「何級でいくら」とスムーズに回答ができます、誰より私が便利なのです。

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 後遺障害が認定されました。自賠責保険、任意保険から保険金を受け取ってまずは一安心です。しかし私たちの仕事はそれで終わりではありません。被害者の加入している他の傷害保険、生命保険、共済等の支払いが可能か否かをチェックします。特に県民共済などは加入していることさえ忘れてしまいがちで注意が必要です。

 この県民共済は共済の中でも特殊で、掛け金は毎月2000円を基本とし、子供にはこどもプラン、お年寄りには高齢者プランとリスク分散しています。また県ごとの共済組合ですので、その県の損害率から補償金額を増減することで調整を図っています。。そして掛け金が予定支払保険金を超えれば、余剰金として「割戻し」といって翌年度返金されます。およそ毎年平均30%が戻ってくるようです。

 まずは月額2000円の総合保障プランを見てみましょう。

保障内容 (掛金2000円のプラン)

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 私の地元越谷市を襲った竜巻から1週間が経ちました。損保ジャパンでも特別事故チームを設置、対応にあたっています。私の担当していたお客様で自動車の被害が2件ありました。先週は竜巻被害で対応する火災保険を説明しましたが、自動車保険、傷害保険もチェックする必要があります。便利な一覧表が日本損害保険協会の資料にありましたので、転記します。

 

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 仕事中、通勤中にケガをすれば労災で治療費や休業補償がなされます。当たり前のことですが現実にはそうならないケースを嫌というほどみてきました。

「労災が認定されない」と会社から言われました。

 まず、会社に労災の適用を断られるケースが多いようです。そもそも労災は会社の判断で適用するものではありません。基本は労働局へ「届出」することで労災の申請は完了します。もちろん業務中か通勤中かの判断があるにせよ、会社の許可などはなからありません。  ただしやっかいなのが申請書に会社の署名と印が必要なことです。これが現実的にハードルとなっています。

そもそも未加入の会社の場合

 会社はたった一人でも人を雇えば労災へ加入する義務があります。加入していない状態で労働者がケガをした場合、罰則があり、近年罰則も強化されています。具体的には労災保険料の追加徴収と罰金です。

 事業主(会社・個人事業主)が故意または、重大な過失により労災保険の加入手続きをしていない期間中に労災事故が起き、労災保険から給付が行われた場合、事業主は最大2年間遡った労働保険料及び追徴金と以下の費用を徴収されます。

1、労働保険の加入手続きについて行政機関等から加入勧奨や指導を受けていた場合

→ 事業主が故意に手続きを行わなかったと認定され、保険給付額の100%を徴収

2、1以外で労働保険の適用事業所となってから1年を経過していた場合

→ 事業主が重大な過失により手続きを行わなかったと認定され、保険給付額の40%を徴収

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Q. 症状固定をすると相手保険会社から治療費がでなくなると聞きました。まだ痛みがあるのでしばらくリハビリを続けたいと思います。しかし病院で健康保険証を提示しましたが、「交通事故なので使えない・・」と困惑しています。健康保険は使えるのでしょうか?

 

A.もちろん問題なく使えます。

 

 まず先日の「健康保険の使用」(初期対応シリーズ ⑥-健康保険の使用)で回答したように、本来、健康保険は加入者の意思で使用できます。しかし第三者の加害行為によるケガの場合、健保側は被害者に支払った治療費を加害者に請求します。いわゆる求償権を行使しますので、「第三者行為による傷病届」の提出を要求してきます。これが基本です。

 さて本件のように症状固定日以後となるとどうなるか?加害行為による支払いはひとまず終わりとなり、健保は加害者に求償しません。そもそも症状固定日の定義は「治療行為を続けても改善が見込めない、一進一退の状態」を指します。治療側(病院)と健康保険側ではこの日をもって慣例的に第三者の責任によるケガの治療は終了としています。つまりここからの治療はご自身で転んだ、風邪をひいた場合の治療と同視します。

 そもそも民事賠償において、症状固定日が加害者の被害者に対する治療費の支払い義務の終了となっています。稀に留保条件(後の再発、再手術の治療費などを払う約束)がつくこともありますが、これが原則です。だから任意保険会社はこの日で治療費の支払いを打ち切るのです。

 病院の事務担当が上から「交通事故では健保は使えません!」と厳命され、その意味も教わらずに機械的に対応していることはよくあります。したがって症状固定日以降の受診では「先日、症状固定しましたので今日から事故扱いではありません」と言えば理解してくれるはずです。少なくとも事務長、婦長、医院長まで話が上る過程でOKとなります。

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 昨日の竜巻報道ですっかり越谷市が全国的に有名になってしまいました。被災地の皆様にはお見舞いを申し上げます。またご心配のお電話を頂き、ありがとうございました。

 私の実家及び、事務所のある蒲生地区は越谷市の南部で、今回の被害が及ぶ地域ではありませんでした。しかし越谷の大袋周辺は保険時代からのお客様や友人が多く在住です。電話をかけまくっていますが今のところ被害は聞いていません。

 竜巻は日本ではめったに起きない災害ですが、その破壊力のすさまじさを映像で確認しました。

 さて、竜巻被害を補償する火災保険について復習しておきましょう。以下は損保ジャパンのパンフレットの記載から抜粋しました。

 台風や暴風雨に伴う強い風が吹くと、屋根瓦が飛んでしまったり、風で飛んできたもので窓ガラスが割れてしまったりといった被害を受けることがあります。また、直後に雨が降れば、建物が壊れてしまった箇所から水漏れが起きて、室内の家具がダメになってしまうことも考えられます。『ほ~むジャパン』、『る~むジャパン』の風災*1・雹災(ひょうさい)・雪災*2補償では、これらの原因により受けた以下のような損害を補償します。

*1風災:台風、旋風、暴風、暴風雨等をいい、洪水、高潮等を除きます。

*2雪災:豪雪、雪崩(なだれ)等をいい、融雪洪水を除きます。

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★ よくある間違いから 

Q.「交通事故では健康保健は使えません」と病院窓口で健保使用の拒絶されました。交通事故では健康保健は使えないのでしょうか?

  これは間違いです。業務外の事由による自動車事故をはじめ、第三者の加害行為で、病気やケガをしたときも健康保険で治療を受けることができます。健保の使用如何は被保険者(健保の加入者)の意志で決めるものです。  ただし必要な手続きとして健保組合に届出(第三者行為による傷病届)をすることになっています。これは健康保険法施行規則第65条に被保険者の義務として定められています。この届出を受けて健保組合では、その被害を受けた被保険者または被扶養者が、第三者(加害者)に有する損害賠償の権利を代位取得し、治療に要した費用を加害者(相手方)に求償するわけです。

 この手続きは健康保険法第57条で説明されています。基本として他人にケガなどをさせた人は法律によってその賠償責任を負うことになっています。この賠償責任としての治療費は皆の税金(健康保険税)を集めた健康保険で支払うより、まず加害者が負担するのが筋です。ですから健保組合は、本来その加害者が当然負担しなければならない治療費を一時立て替えている状況にあります。

交通事故以外にも、工事現場のそばを通ったとき何か落ちてきてケガをしたとか、喧嘩等による相手方の加害行為によってケガを負わされたとか、他人の飼犬にかまれたときなども該当します。

第57条(損害賠償請求権) 1.保険者は、給付事由が第三者の行為によって生じた場合において、保険給付を行ったときは、その給付の価額(当該保険給付が療養の給付であるときは、当該療養の給付に要する費用の額から当該療養の給付に関し被保険者が負担しなければならない一部負担金に相当する額を控除した額。次条第一項において同じ。)の限度において、保険給付を受ける権利を有する者(当該給付事由が被保険者の被扶養者について生じた場合には、当該被扶養者を含む。次項において同じ。)が第三者に対して有する損害賠償の請求権を取得する。

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 昨日の山梨病院訪問は3件でしたので、石和温泉駅からレンタカーを使用しました。特急列車で現地入りして、レンタカーでまわる。新しい攻撃パターンです。  手続きの際、窓口で丁寧に保険を説明してくれました。それを踏まえ、レンタカーならではの内容を少し解説します。   ■ 保険補償額 1、対人補償 1名につき無制限(自賠責保険の補償額含む) 2、対物補償 1事故につき無制限(自己負担額5万円) 3、車両補償 1事故につき車両時価額まで(自己負担額5万円) 4、人身傷害補償 1名につき3,000万円まで 5、自己負担額について 続きを読む »

 自賠責保険は自動車保険を語る上でバイブルのような存在です。自賠責保険を使いこなすこと、自賠法を熟知することが非常に重要であると思います。先日の研修から抜粋します。

(自動車損害賠償責任) 第3条 自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己(1)及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、(2)被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに(3)自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。

★ 運行とは?  「運行」とは、自賠法第2条2項で「人又は物を運送するとしないとにかかわらず、自動車を当該装置の用い方に従い用いることをいう」と定められています。そして「運行」の意義は専ら「当該装置」をどういうように解釈するかという形で議論されてきました。当初は「当該装置」とは原動機(エンジン)であるとの裁判例(原動機説)もありましたが、被害者保護の要請から次第にその適用範囲を広げ、ハンドル、ブレーキなどエンジン以外の走行装置も含む(走行装置説)との最高裁の判例も出、さらにその後、走行装置だけではなくて、ドア、荷台の他、ダンプカーのダンプ、フォークリフトのフォーク、コンクリートミキサー車のミキサー、クレーン車のクレーンなど特殊車の固有の装置までも含む(固有装置説)との最高裁の判例が出て、現在は「固有装置説」で処理されています。

<具体例>  Aさんは清掃作業員です。作業中、清掃車(パッカー車)から降りようとしたとき、先に降りた作業員がドアを閉めてしまい足を挟まれて足首の靭帯を痛めました。私はこの事故を受任し、パッカー車に付いていた自賠責保険に対し被害者請求を行い、有責(保険金の支払いを受けた)にしました。   → 非該当足関節挫傷(30代男性・神奈川県)

 このように「運行」は幅広い解釈が成立します。本件は法律条文・約款を読み解く力が実務に直結した好取組例です。

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 労災でも後遺障害補償があります。通勤中・業務中の交通事故で後遺障害を負った場合は忘れず請求しましょう。

★ まず鉄則を

1、「相手から後遺障害保険金が出れば重ねて労災はでません」 ⇒嘘です。

 正確に言うならば、後遺障害保険金の逸失利益と障害給付金がかぶるだけです。両方から満額を受け取ることはできず、支給調整と言って相殺をします。つまりすでにどちらかから支給を受ければ、一方の支給からその分は差し引かれます。

2、「障害年金と一時金」 ⇒ 以下のように整理します。

○障害等級第1級から第7級に該当するとき→ 障害(補償)年金、障害特別支給金、障害特別年金

○障害等級第8級から第14級に該当するとき→ 障害(補償)一時金、障害特別支給金、障害特別一時金  

 あとは研修会に同じく一覧表を。これを見れば一目瞭然です。  

障害 等級

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 お盆です。ご先祖様の魂が一時帰宅します。日本人の死生観をもっとも感じるこの季節、交通事故で亡くなったアニメキャラを通して、交通事故死亡者数の推移、自賠責保険の死亡限度額・増額の歴史を振り返ってみましょう。

 まずはおなじみのグラフから。このように1970年のピーク、1万6765人から減少を続け、90年代にやや盛り返しましたが再び減少を続け、現在は5千人を切るまでになりました。このような推移はやはり世相に反映するもので、70年代のドラマはやたらと交通事故のエピソードが多く、交通事故が身近なリスクと認識されていました。当然ながら子供が観るマンガやアニメにも交通事故の影響があるはずです。マンガやアニメをほとんど観ない私ですが、夏休みなので頑張って調べてみました。

タイガーマスク/伊達 直人 「タイガーマスク」

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対物賠償責任保険でお支払いの対象となるのは、法律上の賠償責任額(自動車の時価額)までです。しかし、実際にかかる修理費が、時価額を超えてしまうケースが考えられます。その差額分を補償するのが「対物全損時修理差額費用特約」です。

以上が損保ジャパンのパンフレットからの説明です。もう少し丁寧に説明しましょう。

 まず民法上の損害賠償について理解する必要があります。常識として「人の所有物を壊したら弁償する」・・・当然ながらこれが前提です。弁償の方法は、修理費を払う、新品に買い替える、代わりの物を提供する等があげられます。法律上、これらの算定金額はその物の価値までを限度に考えます。自動車だって使えば中古品となり、新車から価値がどんどん落ちていきます。民法ではあくまでその価値まで弁償すれば足りると考えます。中古品を弁償するのに新品価格で払えば、弁償される側は得をすることになってしまうからです。ここで問題となるのは、修理費がその中古価値を上回ってしまうことです。

 例えば120万円で購入したミライースも5年間乗れば価値はおよそ20万円(時価額)と査定されます。しかし事故での修理費が60万円かかるとします。被害を受けた側はしばらく買い替えの予定もないし、気に入った車だったのでなんとか修理して乗りたいのです。対して加害者側の保険会社は「価値が20万なので20万円までしか払いません。修理費の差額40万円はご自身でご負担下さい」となります。この法律を盾に取った理不尽なやり取りで、長らくこのような物損事故はもめてきたのです。

                     そこで約款上、法律を根拠としない費用保険というカテゴリーで支払える特約を作りました。これが対物全損時修理差額費用保険です。呼び名は各社多少の違いがあります。(対物超過特約など)  上記の場合、修理して乗るのなら差額の40万はこの特約で支払います。限度額は各社ほぼ50万円までとなっています。

 この特約のおかげで、古い車の修理額でもめることが激減しました。自身が加害者となったときには相手に優しい補償となります。しかし悔しいのは自身が被害に遭った時、例えば追突されてこの特約を付けていない加害者側保険会社から「時価額までしか払えません」と対応されることでしょうか。

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 後遺障害の審査は厳しく、調査事務所は請求者を常に疑ってかかっている意地悪な機関と思っている被害者、法律関係者も多いと思います。しかし私の印象はそのようなステレオタイプではありません。私は自賠責保険の被害者請求を保険会社時代から何年もやってきています。たまに「なんじゃこりゃ?」ってな判定を見ることがありますが、あくまで少数例。「よく見てくれているなぁ」と感心することの方が多いのです。さらに先日の出来事から・・・

 本件の被害者さんは腰椎捻挫で症状の改善が進まず、整形外科から整骨院に転院し、さらに鍼灸院に通って治療を継続しました。当然、相手の任意保険会社は腰痛と事故の因果関係に疑いを持ち、途中で治療費を打ち切りました。仕方なく健保で治療費を払っていましたが、このままでは事故は解決しません。この時点で私が介入し、症状固定を勧めました。しかし後遺障害診断書は鍼灸院や整骨院では書けません。書いていただくために整形外科に戻り、医師に事情を説明し、なんとか診断書を書いていただきました。  しかし、治療経過を見ると、途中から最後の後遺障害診断まで、”病院への”通院は3か月ぽっかり間が空いてしまっています。「神経症状を残すもの=14級9号」は他覚的所見が乏しくとも、症状の一貫性で認めてくれる余地があります。後遺障害の審査上、整骨院や鍼灸院の治療実績は軽視されますので、この3ヵ月の治療間隔は致命傷なのです。

 仕方ないので自賠責調査事務所の担当者と電話で直談判です。事情を説明したところ、本件の調査事務所の担当者はいきさつをご理解下さり、鍼灸院の領収書にて治療の継続性を認めてくれるようで、早速提出の運びとなりました。「非該当」を避けるべく、まるで等級が認められるようにこの担当者は柔軟な判断をしてくれているのです。つまり杓子定規な審査をするのではなく、被害者の事情に耳を傾け、症状の残存を信用してくれたのです。こうなると申請側の私と立場は違えど、同じ被害者救済の仕事をする同志です。

 やはり審査をするのは「人間」。担当者がすべての被害者を疑ってかかるのか、偏見なく被害者を見抜くのか・・・。やはり14級9号の真髄は「信用してもらうこと」に尽きると同時に、担当者の裁量次第、さらに言わば公平なジャッジは担当者の人間性で左右される時があるのです。

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 前回に続きます。まず下線部を解説します。

 保険会社にも6000万円の賠償を、とあります。これは被害者側に人身傷害特約(おそらくご家族加入の自動車保険)が加入されており、そこから6000万円の支払いを受けていたことを示します。保険会社もこの既払いにつき、加害者に求償を行うべく、この裁判に訴訟参加したものと思います。

 そして注目すべき論点が2つあります。

① 保険会社の人身傷害が9500万円の判決額全額を支払わない点です。

 人身傷害は保険会社の約款で「当社の基準で計算した額を払う」とありますので、普通は対人賠償とほぼ同額の基準で計算されます。つまり裁判の判決額はそれよりもはるかに高額な基準で計算されます。その差は2~3倍に及びます。この人身傷害が限度額(6000万円)いっぱいであれば問題はないですが、1億や無制限だったら・・・。

 私は判決額が決定したら、この判決額9500万円全額を保険会社に請求すべきと思います。 もちろん、保険会社は「当社の基準で支払うと決まっているので・・」と反論しますが、今まで同様のケースで判決額を全額請求した結果、なぜか保険会社は自社基準額を押し通さず、判決額を渋々支払います。人身傷害の支払基準は司法を介すると玉虫色となるのです。

 これは2年前、人身傷害の求償額をめぐった裁判で、「被害者救済上、約款基準より判決額を重視した」判決がでています。以降、保険会社は建前(約款)上は自社基準、司法が絡めば裁判基準とし、人身傷害の支払い基準は混とんとしたままなのです。

 この問題は「そして無保険車傷害は(人身傷害特約に)吸収された」のシリーズの続編として後日書きたいと思います。

★ しかし本件の場合、既払額6000万円はきりが良すぎる数字です。保険会社は既に契約限度額まで支払ったのかもしれません。ただし契約限度額=6000万円は半端な数字です。人身傷害特約は最低3000万円から無制限まで限度額を決めて契約しますが、もっとも多いのが5000万円、次に3000万円です。1億や無制限はかなり少ないはずです。したがって6000万円ちょうど、もしくはそれ以上の契約額もちょっと考えずらい。

 もしかしたら家族の車2台の人身傷害特約がそれぞれ限度額3000万円で、両方の限度額の合計6000万円を支払ったのかもしれません。であるならば既に支払った保険金で限度額いっぱいとなり、判決額全額を請求する議論とはなりません。  

② 現在の人身傷害特約では「自転車対歩行者」事故に関して、多くの保険会社は無責です。

 本件事故は今から5年前です。当時は自転車搭乗中のケガ、自転車による被害事故も対象となっていましたが、現在多くの損保会社はこれを補償から除外しました(三井住友、あいおいニッセイ同和、AIG、日新、全労災は補償範囲を堅持)。歩行中、自転車搭乗中のケガでは相手が自動車でなければ補償の対象外なのです。もしこの事故が現在に起きれば、被害者女性に支払われる賠償金に対応する保険は無く、加害者親子に丸々9500万円賠償金の支払いが請求されることになります。

 近年自転車の加害事故も重大化、賠償金も高額化しています。道路交通法上、自転車は軽車両となっております。自転車もある意味、自動車扱いなのです。再び人身傷害特約でこの部分も補償してもらえないものか・・・本件のような被害者はもちろん、加害者にとっても悲惨な事故から切に望まれます。

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親に9500万円賠償命令 少年が自転車で人はねた事故

 自転車で女性(67)をはねて寝たきり状態にさせたとされる少年(15)=当時小学5年=の親の賠償責任が問われた訴訟の判決が4日、神戸地裁であった。田中智子裁判官は「事故を起こさないよう子どもに十分な指導をしていなかった」と判断。少年の母親(40)に対し、原告の女性側と傷害保険金を女性に支払った損保会社に計9500万円を賠償するよう命じた。  判決によると、少年は2008年9月22日夜、神戸市北区にある坂をマウンテンバイクで時速20~30キロのスピードで下っていた際、知人の散歩に付き添い中の女性に衝突した。女性は頭の骨が折れ、現在も意識が戻っていない。  判決は「少年の前方不注意が事故の原因」と認定。少年側は「危険な走行はしておらず、日頃から指導もしていた」として過失責任を否定したが、判決は母親が唯一の親権者としての監督義務を十分に果たしていなかったと判断した。そのうえで、女性が事故に遭ったために得ることができなくなった逸失利益や介護費などを考慮し、母親には女性側へ3500万円、損保会社へ6千万円の賠償責任があるとした。 (25.7.5 朝日新聞より)

   本件は少年(15歳)の親御さんに「親権者責任」をずしりと科した点がポイントです。裁判では”親権者としての監督義務がちゃんと行われていたか否か”が争われました。でもどう考えても少年の事故における過失と、親の日ごろの指導は直接結びつかないように思います。つまり直接、事故に関与したわけではないが、少年に事故の責任がある以上、民事上の損害賠償責任を取るのは少年に代わって親、ということが本音でしょうか。確かに被害者側にとっては、「少年に支払い能力がないからチャラ」といわけにはいかないでしょう。

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 私は学校を卒業後、直ちに損保業界に入り、その後、一貫して交通事故分野一筋でやってきました。最近、依頼者さんから質問を受けました。    「秋葉さんはなぜこの仕事を選んだのですか?」    この質問には即座に答えることができます。この機会に少し語りましょう。    損保会社勤務の時、担当する顧客さまの御嬢さんが自転車でおばあちゃんにぶつかり、骨盤骨折をさせる交通事故がありました。この顧客さまの契約に個人賠償責任保険が付帯されており、この保険を使っておばあちゃんへの賠償を行うことになりました。このおばあちゃんは御年80歳、このケガから排尿障害や歩行不能となり、ほぼ寝たきりの状態になってしまいました。ご家族は会社員のご長男のみ。対して担当する顧客様(加害者側)に個人賠償責任保険の加入があり、最高3000万円まで支払えます。

 その後、10か月を超える治療を行いましたが、回復の兆しはありません。ついに、治療の長期化を懸念する保険会社の指示のもと、治療費打切り=示談の運びとなりました。事故後、数度にわたり顧客様(加害者)と謝罪に訪れ、それなりに馴染んでいる私が示談交渉に同席しました。

 最近の個人賠償責任保険はある程度、保険会社の示談代行が可能となりましが、この時代は示談代行ができず、顧客様が示談交渉を行います。しかし、示談金がいくらになろうとも支払額は保険会社の認定額までです。つまり、保険会社の認定額以上の示談金は顧客負担となってしまいます。したがって、心配なので営業担当ながら私も同席し、示談交渉を手伝います。これは実質、担当者である私が示談代行(代理交渉だと違法です。保険会社の人間はあくまで「代行」なので違法ではないと解釈されています)をすることになります。

 そこで被害者親子に保険会社の提示額320万円の説明を行い、「申し訳ありません。これ以上支払いはできません」とひたすら土下座です。

 対して、心優しい親子は、    「秋葉さんがそう言うのなら仕方ないです。それで示談でいいです」と・・・。    会社に戻り、支払担当者から「秋葉くん、よくまとめてくれた!さすがだね!」と賛辞の嵐、支払部門は大喜びです。このように保険会社時代、営業担当でありながら、いくつもの交通事故を解決させました。

 この被害者さんは、骨盤骨折癒合不良による股関節の可動域制限、排尿障害で併合9級(自賠責基準で616万)となるような障害です。介護料なども勘案すれば少なくとも2000万程度の損害賠償が見込まれます。しかし、後遺障害のことなどまったく触れずに示談成立です。

 当時は現在のように後遺障害、賠償の知識がありませんでしたが、320万はあり得ない、その倍額位にはなるのでは?と思っていました。これからおばあちゃんはどのくらい苦しむのだろう・・・息子さんは介護のために仕事を犠牲にするのだろうか・・・それとも自費で介護を行うのか・・・320万では焼け石に水です。    もうね、嫌になったのですよ、保険会社側の仕事が。    このようなケースは決して珍しくありません。交通事故の実際とは、そして保険会社とは・・・時に被害者にとって大変厳しいものなのです。もちろん、保険会社の存在が、広く被害者を助けている現実は承知しています。それでも、重傷者の多くは十分な損害の立証を経ないまま、余りにも低い賠償金で解決されています。被害者が損害の立証方法や賠償額の相場を「知らない」が故、320万円で許すと言えば確かに民事上の契約成立=示談です。なんら違法ではありませんし、安い支払いに抑えることが営利企業である保険会社の望ましい立場です。それはわかっています。そこで割り切れるか否か、先のような経験が少なければ損保業界に残っていたでしょう。残念ながらそのような経験の数は多く、私は割り切れませんでした。しばらく腐って仕事はそこそこに、ロックバンドに加入、ライブ活動中心に生きていました。  

 それからなんだかんだで10数年、腐ったままにはあまりにも長い年月を経て思い立ちました。保険会社は確かに被害者を助けていますが、それはあくまで加害者側の責任を全うすることであり、契約者である加害者を助ける仕事です。結果として、反射的に”広く浅く”被害者を助けているに過ぎません。    そこからこぼれた被害者を担う、”狭く深く”助ける人も絶対に必要です。どうせ仕事をするのなら、そこで仕事をしよう!・・・そして現在に至るのです。    今なら、先の親子のために後遺障害9級の認定を行ない、弁護士と共に1000万を超える額を得るために戦うでしょう。    これが私の原点です。保険会社の社員・関係者は国内に10万人、少しくらい被害者の味方になっても良いと思います。

 すべての仕事に共通しますが、「志」のない仕事は単なる金儲けです。この精神を来月から研修を受け持つ後進に伝えていきたいと思います。  

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 今朝も病院同行まず一件。現在必死のパッチで遅れている請求書類の送付、異議申立書の作成、集金・送金事務を行っています。

 その中で弁護士費用特約の請求でT社さんが一件ペンディングです。いつも迅速な支払い処理の会社なのですが、どうしたのかな? 支払い内容に疑義でもあるのか請求してから2か月近く、「検討中」だそうです。払わないのなら別に依頼者に請求するからいいのですが・・・私の場合、依頼者は「弁護士費用から支払われなくてもお財布から秋葉さんに払うよ!」という方ばかりなので問題ありません。(でも保険会社は契約者から信用なくすよね。) 結局、この件は依頼者が直接報酬を支払ったので、T社は慌てて依頼者に払いました。最初から気持ちよく支払えばよかったのにね。

 そもそも弁護士費用特約に弁護士や行政書士が直接請求するのは単に事務の合理化のためで、イレギュラーな事と認識しています。法律家の仕事に対し、契約するのは依頼者自身です。その費用について、自身が契約している保険会社に請求するのは契約者のはずです。法律家と保険会社が契約するわけではないので、報酬について両者が協議するのはおかしな話と思います。

 巷ではこの弁護士費用特約の請求について、法律家と保険会社が険悪な状態になることが頻発しています。保険会社は約款上、「事前に弊社が認めた額を払います」と明記しています。だから契約者と法律家が”保険会社の了承なく”契約した報酬額を払う責任はありません。私はこれを十分に理解しています。  しかし実際、どの法律家も「弁護士費用で報酬がまかなえますよ!」と甘言をささやき契約するものですから、費用はすべて払われるものと解釈した依頼者と、事前に照会のない過大な費用請求を受けた保険会社がもめるのは目に見えています。つまり法律家の契約時の説明に問題があるように思えます。そもそも保険会社の言い分は「先生のホームページを見たら着手金無料となっているではないですか!なんで特約がある場合は別体系の費用なの!」・・・確かにごもっともです。問題の根底はここにあるようです。私の着手金は原則105000円です!(業界最高値?)・・・でも営業上問題ないですよ。

 一番大事な事、それは被害者の利益です。そのための保険(弁護士費用特約)であり、法律家の仕事です。両者とも基本を見失わずに仕事をすれば、もめることもないのになぁと思います。

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 最近、重篤なケガの依頼が続いています。毎度、初期対応が大事です!と訴えていますが、私の心配など無用とばかりに、特に問題も起きず、なんと言っても保険会社が優しく、支払いについて何も渋らないそうです。これらはつまり、誰が見ても重篤なケガで、重い後遺障害が確実な被害者です。

 最近でも脳障害で3級が予断できる被害者、両足の骨折と神経麻痺で用廃の6級が見込まれる被害者さんに対する保険会社担当者は実に親切丁寧な対応です。そして治療費や休業損害はもちろん、装具代、自宅改造費用、差額ベット代やタクシー代等、無茶な項目でなければ快く支払に応じてくれます。

 さて、このような保険会社担当者の対応を分析してみましょう。(つまり保険会社の本音を言います)

 重い障害が必至で症状に疑いのない被害者さんに対し、もし厳しい対応、支払査定など行ったらどうなるでしょう・・・確実に被害者の敵意は向上します。すると弁護士に依頼され、高額な賠償金を請求してきます。そうです、本当に重い被害者は絶対に怒らせてはいけないのです。高い後遺障害等級が認定されますので、数千万円の賠償金が発生します。これを裁判基準ではなく、保険会社基準で示談させることに成功すれば、仮に4000万円の支払いが2000万円に節約できます。つまり保険会社は2000万円の支払を防ぐためにどうすればいいか必死になります。それが「優しい対応」なのです。私はこれを「仏顔作戦」と呼んでいます。それだけ保険会社基準が安すぎるのがそもそもの問題ですが。

 この保険会社の作戦、もとい被害者救済的対応が成功すれば、被害者も示談のときに「大変、お世話になりました」と言わないまでも、保険会社の提示額をベースに交渉、少し上乗せしたくらいで判を押してくれるかもしれません。

 ちなみに示談までに支払った治療費、休業損害は当然ながら既払い分となります。問題となるのは様々な費用、雑費などが精神的損害である慰謝料から差っ引かれることがあることです。今までの気前の良い支払いは何のことはない、示談金の前払い、ということになります。「仏顔」の裏には「鬼の顔」も隠れていることがあるのです。最後に泣かされてはたまりません。

 保険会社と喧嘩するのは愚の骨頂ですが、懐柔されるのも問題です。

 被害者とは常に冷静、クールかつ賢明、クレバーでなければなりません。

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