<Bパターン>  中居さんの説明を聞いても「断じて保険は使わない」「草薙さんと示談しない」「念書も交わさない」と稲垣さんがすべて拒んだら・・・駄々っ子のように手に負えません。もう裁判か調停するしかありません。草薙さんから委任を受けた香取弁護士は最後まで責任を全うします。つまり訴訟に進めました。

 この場合、修理費30万の請求ですので、手続きが簡単で即日判決、便利な「少額訴訟」を行います。  

少額訴訟について (裁判所のパンフレットから抜粋)

• 1回の期日で審理を終えて判決をすることを原則とする,特別な訴訟手続です。 • 60万円以下の金銭の支払を求める場合に限り,利用することができます。 • 原告の言い分が認められる場合でも,分割払,支払猶予,遅延損害金免除の判決がされることがあります。 • 訴訟の途中で話合いにより解決することもできます(これを「和解」といいます。)。 • 判決書又は和解の内容が記載された和解調書に基づき,強制執行を申し立てることができます(少額訴訟の判決や和解調書等については,判決等をした簡易裁判所においても金銭債権(給料,預金等)に対する強制執行(少額訴訟債権執行)を申し立てることができます。)。 • 少額訴訟判決に対する不服申立ては,異議の申立てに限られます(控訴はできません。)。

 民事訴訟のうち,60万円以下の金銭の支払を求める訴えについて,原則として1回の審理で紛争解決を図る手続です。即時解決を目指すため,証拠書類や証人は,審理の日にその場ですぐに調べることができるものに限られます。法廷では,基本的には,裁判官と共に丸いテーブル(ラウンドテーブル)に着席する形式で,審理が進められます。  

 香取先生はこの制度を利用、即日、判決書をゲットしました。ちなみに稲垣さんは欠席しました。 

 続いて香取先生はその判決書を東京ダイレクト損保 中居氏に提出し、あらためて「直接請求権」を行使しました。約款上、中居さんは速やかに判決書通りの金額を支払いました。このように直接請求権のおかげで回収が確保されたのです。裁判に勝っても相手が逃げて行方をくらまし、さらに強制執行をかける財産がなければ、結局、取りっぱぐれとなってしまいます。

 最後まで稲垣さんは逃げ続けましたが、こうして稲垣さんの意思に関わらず保険は使用され、来年の掛金はUPしました。ちなみに東京ダイレクト損保にとっても面倒な契約者となった稲垣さん、来年の更新は稲垣さんが拒む以前に東京ダイレクトから更新謝絶と予想します。    最後に

 問題の本質は「来年の掛金が上がるから保険を使いたくない」身勝手な加害者の存在です。昨年秋からの改定でノンフリート等級(無事故割引)が変更され、デメリット等級(前年事故の等級)の掛金が半端なく上がるようになりました。したがって今シリーズのような事例は多くなるかもしれません。    「直接請求権」、被害者はもちろん、交通事故に関わる業者は知らなければならない約款条項です。

 

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 お待たせしました。直接請求権の行使によって、事例の草薙さんと香取先生は修理費の支払いを受けることができたのでしょうか?多くは以下Aパターンで解決します。     <Aパターン> tel13

香取弁護士:「私どもは東京ダイレクトさんに直接請求を行います。約款〇ページに書いてありますよね?」

東京ダイレクト損保 担当 中居氏:「(うっ、そうきたか・・)わかりました。しかし約款上、裁判や調停での結果が必要です。もしくは弊社契約者である稲垣さんと草薙さんの間で示談が成立するか、草薙さん側が稲垣さんへ請求をしない旨の念書の作成が必要です。」

香取先生:「当人同士の示談は無理でしょう。また、草薙さんは稲垣さんへ修理費を請求するつもりはありません。したがって念書はいつでも差し出しますよ。ここまで来たら中居さん、稲垣さんを説得してくださいよ。でないと進まないでしょ? 稲垣さんが拒否したら仕方ないですが法的手段、つまり裁判をしますよ。」

中居氏:「わかりました、稲垣さんと相談します。」

 

 こうなると、東京ダイレクトの中居さんは稲垣さんを説得するようになります。  

中居氏:「相手は弁護士をいれてきました。本気のようです。ただし稲垣さんへは直接請求しないことの念書を草薙さんから取れば保険で払えますよ。もっとも念書などなくても稲垣さんが保険を使うと一言いえば、弊社は交渉と支払いに進めますけど・・」

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 直接請求ができることと、保険会社がすんなり支払ってくれることはイコールではありません。

 約款の(2)を解説します。事例に乗っ取り、一つ一つ確認していきましょう。

 

(2)当会社は、次の①から④までのいずれかに該当する場合に、損害賠償請求権者に対して(3)に定める損害賠償額を支払います。  ただし、1回の対物事故につき当会社がこの対物賠償責任条項および基本条項に従い被保険者に対して支払うベき保険金の額(同一事故につき既に支払った保険金または損害賠償額がある場合は、その全額を差し引いた額)を限度とします。

 「直接請求されたと言っても、支払いには条件があります」とのことです。以下の①~④のどれかが条件です。「ただし」以下の後段の意味は「正当な金額までですよ」です。

 事例で説明します。香取弁護士に修理費の見積もりを突きつけられた東京ダイレクト損保の中居氏、仕方なく事故対応に応じました。しかし約款上①~④のいずれかに該当しなければ払わないと応答してきました。     ① 保険者が損害賠償請求権者に対して負担する法律上の損害賠償責任の額について、被保険者と損害賠償請求権者との間で、判決が確定した場合または裁判上の和解もしくは調停が成立した場合

 東京ダイレクト損保は「稲垣さんと草薙さん(代理人 香取弁護士も含む)との間で裁判をしていただき、判決か和解、もしくは簡易裁判所での調停が成立したなら払います。」との意味です。なんだ結局、裁判が必要なの?と思いますが、この条文で保険会社への回収の見通しがつくことになります。   

② 被保険者が損害賠償請求権者に対して負担する法律上の損害賠償責任の額について、被保険者と損害賠償請求権者との間で、書面による合意が成立した場合

 「稲垣さんと草薙さんの間で示談が成立した場合、支払います。」との意味です。かなり可能性の低い条件です。そもそも事故状況が食い違い、稲垣さんが逃げに回っている事件です。  

③ 損害賠償請求権者が被保険者に対する損害賠償請求権を行使しないことを被保険者に対して書面で承諾した場合

 草薙さんが稲垣さんに対して「僕は稲垣さんに一切修理費を請求しません。」と念書を交わすことです。しかし本件のもっとも深い部分、ここでは稲垣さんの意図ですが、本当は自分に責任があると感じながら ⇒ 来年の保険の掛け金が上がるのが嫌 ⇒ 保険を使わないで逃げ切ろう、ではないでしょうか。するとこの念書のやり取りに発展するのかは微妙です。  

④ 法律上の損害賠償責任を負担すべきすべての被保険者について、次のア.またはイ.のいずれかに該当する事由があった場合 

ア.被保険者またはその法定相続人の破産または生死不明

イ.被保険者が死亡し、かつ、その法定相続人がいないこと。

 つまり加害者、ここではア:稲垣さん破産で支払い能力0となった、イ:稲垣さんが死んでしまった・・仕方ないので東京ダイレクトが草薙さんの修理費を支払います。との意味です。この条件は保険会社の社会的役割の美徳ですね。

   明日は最終回、事例の解決を見届けましょう。草薙さんは修理費を得ることができたのか?

 

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 長い前置きとなりましたが、自動車任意保険の直接請求権について語りましょう。(昨日までのシリーズを読んでない方は読んでから戻って下さい)

 まずは約款から1項=(1)と2項=(2)、3項=(3)を抜き出します。この条文の骨子となるのは(1)項と(2)項です。  

第8条(損害賠償請求権者の直接請求権)

(1)対物事故によって被保険者の負担する法律上の損害賠償責任が発生した場合は、損害賠償請求権者は、当会社が被保険者に対して支払責任を負う限度において、当会社に対して(3)に定める損害賠償額の支払を請求することができます。

(2)当会社は、次の①から④までのいずれかに該当する場合に、損害賠償請求権者に対して(3)に定める損害賠償額を支払います。ただし、1回の対物事故につき当会社がこの対物賠償責任条項および基本条項に従い被保険者に対して支払うベき保険金の額(同一事故につき既に支払った保険金または損害賠償額がある場合は、その全額を差し引いた額)を限度とします。

① 保険者が損害賠償請求権者に対して負担する法律上の損害賠償責任の額について、被保険者と損害賠償請求権者との間で、判決が確定した場合または裁判上の和解もしくは調停が成立した場合

② 被保険者が損害賠償請求権者に対して負担する法律上の損害賠償責任の額について、被保険者と損害賠償請求権者との間で、書面による合意が成立した場合

③ 損害賠償請求権者が被保険者に対する損害賠償請求権を行使しないことを被保険者に対して書面で承諾した場合

④ 法律上の損害賠償責任を負担すべきすべての被保険者について、次のア.またはイ.のいずれかに該当する事由があった場合

ア.被保険者またはその法定相続人の破産または生死不明

イ.被保険者が死亡し、かつ、その法定相続人がいないこと。

(3)前条およびこの条の損害賠償額とは、次の算式により算出された額をいいます。

「被保険者が損害賠償請求権者に対して負担する法律上の損害賠償責任の額」-「被保険者が損害賠償請求権者に対して既に支払った損害賠償金の額」  

<解説>

 保険特有の用語のままではわかり辛いので、人物にあてはめて読んでみます。

(1)対物事故で稲垣さんが草薙さんの自動車の修理をしなければならなくなったとき、草薙さんは稲垣さんが加入している自動車保険「東京ダイレクト」に、契約の限度額と稲垣さんが負うべき責任を限度に修理費の支払を請求することができます。

 つまり、「稲垣さんが保険を使わないと言っているので、当社は対応できません」と言った東京ダイレクトの担当者:中居氏の対応は、草薙さんが直接請求権の行使をした段階で約款違反となります。

 では草薙さんの代理人である香取弁護士はこの直接請求権の行使によって、すんなり修理費を勝ち取ることができるのでしょうか?それは(2)項の条文にかかっています。これは明日に続きます。  

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 途方に暮れる草薙さん、いくつかの法律事務所に相談しましたが、電話の段階で「30万円請求の物損事故?」ではどこも相手にしてくれません。なぜなら経済的利益が30万円程度の事件では弁護士事務所も利益が薄く、仮に20万円ほどの報酬で受任しても、「相手が保険を使ってくれない=回収の見込みがない」と敬遠してしまうのです。そして加害者が保険を使ってくれない、だから保険会社も対応しない、という相手保険会社の対応に一様に納得しているようです。”交通事故に強い”と喧伝している弁護士も「相手が保険を使わないなら修理費の回収は難しい」との回答です。

 それでも無料相談会を開催しているジャーニー法律事務所を訪れました。そして対応した弁護士・香取先生から目からうろこの回答を聞きました。  

草薙さん:「やはり相手の稲垣さんに法的手続きを取るしかないのですか?それでも30万円は取れないのでしょうか?」

香取先生:「相手の稲垣さんに法的手段をとって請求することは可能ですが、やはり回収の問題があります。そんな面倒なことをしなくても、保険会社の東京ダイレクトに請求しましょう」 

草薙さん:「えっ、でも稲垣さんは保険を使わないと言っていますし、東京ダイレクト担当者の中居さんも『契約者が保険を使わないと言っているので対応しません』と取り付く島なしなんですよ。」

香取先生:「この場合、保険約款上の直接請求権を行使します。つまりあくまで東京ダイレクトに請求をします」

草薙さん:「直接請求権?初めて聞きますが、それは何ですか?それで何とかなるのですか?」

香取先生:「損害賠償請求権者、本件では草薙さんですが、事故相手の保険会社に直接請求を行うことが約款上、認められています。その請求に対し、一定の条件はありますが、保険会社は対応せざるを得ないのです。支払いに対してはやはり稲垣さんの同意が必要ですが、ひとまず交渉の窓口を開かせ、中居さんに稲垣さんを説得させる効果はあります。」

草薙さん:「では、今までの”稲垣さんが保険を使わないなら、東京ダイレクトは動かない”・・これは間違っていたのですか!」

香取先生:「中居さんがとぼけていたのかどうかはわかりませんが、保険会社の担当者も弁護士も困ったことに直接請求権を知らないのです。 手続きですが、あくまで東京ダイレクトに修理費の請求書を突きつけ、『保険約款 第〇条(損害賠償請求権者の直接請求権)にもとづいて請求を行います』と通知します。おそらく30万円程度なら保険会社も支払いを検討するはずです。ここで稲垣さんの同意が得られないと支払い拒否の回答をしてきたら、稲垣さんに法的手段を講じると揺さぶりをかけます。ここで稲垣さんが折れて結局、保険使用に進むはずです。」

草薙さん:「それでは、香取先生、是非お願いします!」

香取先生:「報酬は多くいただけませんが、お受けしましょう。」  

 さてようやく請求の目途が立って一安心の草薙さんですが、なぜ紆余曲折したのか、問題は「直接請求権」につきます。これを説明する場合、実例を踏まえずに約款解説しても何のことやら?になってしまいます。

 前置きが長くなりましたが、明日は「直接請求権」について解説します。

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<ケース> (以下、仮名)

 草薙さんは自動車同士の衝突事故に遭いました。自動車の修理費を相手の稲垣さんに請求しなければなりません。しかし、お互い事故状況の説明が食い違い、稲垣さんは責任を認めません。

 仮に自分(草薙さん)に多少の過失があったとしても、相手(稲垣さん)の責任が大きい事故です。稲垣さんの車は古くキズだらけで、今更修理するまでもない損害です。しかし、草薙さんの車は買ってから一年未満のピカピカ、フェンダーのへこみの修理費は30万円です。

 幸いお互い自動車保険(任意保険)に入っています。草薙さんは保険会社の交渉に委ねることを稲垣さんへ提案しました。それでも稲垣さんは責任はないの一点張りです。警察への届け出が済むと、稲垣さんは現場から逃げるように走り去ってしまいました。

 やはり当人同士ではなく、保険会社同士の交渉でなければ進みません。まず自分の加入している太陽損保に事故報告し、稲垣さんへは東京ダイレクト損保にコンタクトをとるよう電話で伝えました。これで保険会社の交渉になると思いきや・・・(以下 電話での会話)

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太陽損保 担当者 木村:「本件担当の木村と申します。稲垣さんも東京ダイレクトに事故報告をあげていただけませんか?保険会社同士での話し合いで進めたいと思いますが。」

稲垣さん:「俺は悪くない。そっち(草薙)が突っ込んできた事故です。」

木村:「まぁ、とにかく東京ダイレクトの連絡先を教えてくれませんか。」  

なんとか電話番号を聞き出し、木村氏は東京ダイレクトの担当者 中居氏に電話をしました。」  

木村:「本件を担当します木村です、よろしく。ぶっちゃけ判例タイムス〇ページの10:90ではどうすか?」

中居:「ちょっと待って下さい。稲垣さんからの事故状況報告と違っています。また稲垣さんは自分に責任はないと言っています。稲垣さんのオーダーを確認して折り返します。」  

それから3日  

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支給される期間

   傷病手当金が支給される期間は、支給開始した日から最長1年6ヵ月です。これは、1年6ヵ月分支給されるということではなく、1年6ヵ月の間に仕事に復帰した期間があり、その後再び同じ病気やケガにより仕事に就けなくなった場合でも、復帰期間も1年6ヵ月に算入されます。支給開始後1年6ヵ月を超えた場合は、仕事に就くことができない場合であっても、傷病手当金は支給されません。  

支給される傷病手当金の額

 傷病手当金は、1日につき被保険者の標準報酬日額の3分の2に相当する額(1円未満四捨五入)が支給されます。標準報酬日額は、標準報酬月額の30分の1に相当する額(10円未満四捨五入)です。給与の支払があって、その給与が傷病手当金の額より少ない場合は、傷病手当金と給与の差額が支給されます。

(例)標準報酬月額300,000円(標準報酬日額=10,000円)の場合 1日につき10,000円×3分の2=6,667円(50銭未満の端数は切り捨て、50銭以上1円未満の端数は切り上げる)  

資格喪失後の継続給付について

 資格喪失の日の前日(退職日等)まで被保険者期間が継続して1年以上あり、被保険者資格喪失日の前日に、現に傷病手当金を受けているか、受けられる状態[(1)(2)(3)の条件を満たしている]であれば、資格喪失後も引き続き支給を受けることができます。ただし、一旦仕事に就くことができる状態になった場合、その後更に仕事に就くことができない状態になっても、傷病手当金は支給されません。  

傷病手当金が支給停止(支給調整)される場合

(1)傷病手当金と出産手当金が受けられるとき

 傷病手当金と出産手当金を同時に受けられるときは、出産手当金を優先して支給し、その間、傷病手当金は支給されません。ただし、すでに傷病手当金を受けているときは、その支給額分だけ出産手当金から差し引いて支給されます。

(2)資格喪失後に老齢(退職)年金が受けられるとき

 資格喪失後に傷病手当金の継続給付を受けている方が老齢(退職)年金を受けているときは、傷病手当金は支給されません。ただし、老齢(退職)年金の額の360分の1が傷病手当金の日額より低いときは、その差額が支給されます。

(3)障害厚生年金または障害手当金が受けられるとき

 傷病手当金を受ける期間が残っていた場合でも、同じ病気やケガで障害厚生年金を受けることになったときは、傷病手当金は支給されません。ただし、障害厚生年金の額(同時に障害基礎年金を受けられるときはその合計額)の360分の1が傷病手当金の日額より低いときは、その差額が支給されます。また、厚生年金保険法による障害手当金が受けられる場合は、傷病手当金の額の合計額が、障害手当金の額に達する日まで傷病手当金は支給されません。

(4)労災保険の休業補償給付が受けられるとき

 労災保険から休業補償給付を受けている期間に、業務外の病気やケガで仕事に就けなくなった場合は、その期間中、傷病手当金は支給されません。ただし、休業補償給付の日額が傷病手当金の日額より低いときは、その差額が支給されます。  

参考文献:全国健保協会パンフレットより抜粋  

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 病気やケガで会社を休んだとき、病気休業中に被保険者とその家族の生活を保障するために設けられた制度で、被保険者が病気やケガのために会社を休み、事業主から十分な報酬が受けられない場合に支給されます。現在、依頼者さんの傷病手当手続きをお手伝いしています。せっかくの機会ですので、勉強がてら数回にわたり続けます。    被害者に給付される様々な制度を漏らさず活用することが大事です。交通事故の解決とは、専門家とは、利用できる制度すべてに精通していなければなりません。

 

支給される条件

 傷病手当金は、次の(1)から(4)の条件をすべて満たしたときに支給されます。

  (1) 業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であること

 健康保険給付として受ける療養に限らず、自費で診療を受けた場合でも、仕事に就くことができないことについての証明があるときは支給対象となります。また、自宅療養の期間についても支給対象となります。ただし、業務上・通勤災害によるもの(労災保険の給付対象)や病気と見なされないもの(美容整形など)は支給対象外です。  

(2) 仕事に就くことができないこと

 仕事に就くことができない状態の判定は、療養担当者の意見等を基に、被保険者の仕事の内容を考慮して判断されます。  

(3) 連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと

 業務外の事由による病気やケガの療養のため仕事を休んだ日から連続して3日間(待期)の後、4日目以降の仕事に就けなかった日に対して支給されます。待期には、有給休暇、土日・祝日等の公休日も含まれるため、給与の支払いがあったかどうかは関係ありません。また、就労時間中に業務外の事由で発生した病気やケガについて仕事に就くことができない状態となった場合には、その日を待期の初日として起算されます。

※「待期3日間」とは?

 待期3日間の考え方は会社を休んだ日が連続して3日間なければ成立しません。 連続して2日間会社を休んだ後、3日目に仕事を行った場合には、「待期3日間」は成立しません。  

(4) 休業した期間について給与の支払いがないこと

 業務外の事由による病気やケガで休業している期間について生活保障を行う制度のため、給与が支払われている間は、傷病手当金は支給されません。ただし、給与の支払いがあっても、傷病手当金の額よりも少ない場合は、その差額が支給されます。  任意継続被保険者である期間中に発生した病気・ケガについては、傷病手当金は支給されません。  

参考文献:全国健保協会パンフレットより抜粋  

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c_g_a_5-118x300 16条請求とは自賠法(強制保険である自賠責保険のルール、被害者に有利な内容です)16条の定めによった保険請求の方法のことで、一般には「被害者請求」と呼ばれています。交通事故で後遺障害が残るようなケガの場合、被害者にとって絶対に検討すべき手続きです。最近は交通事故に力を入れている弁護士も被害者請求を推進するようになってきました。しかし、後遺障害の認定は相手の保険会社に任せる「事前認定」がまだ多くを占めています。受任しながら「事前認定」を看過している弁護士もまだ多数派です。    何度も双方のメリット・デメリットを語ってきました。

 ⇒ 事前認定 or 被害者請求

   この記事を読んでいただければ、双方のメリット、デメリットがご理解いただけると思います。被害者の立場とすれば、できれば16条請求が望ましいはずです。しかし楽なケースとやたら面倒なケースに分かれます。    治療費などを加害者側保険会社が「自由診療で一括払い」(病院に直接、自由診療の治療費で払ってくれる)してくれれば、その損保会社の担当者は自賠責に求償する必要から診断書・診療報酬明細書を病院から取得、所持しています。被害者はそれら申請に必要な診断書類、および事故証明書のコピーをもらうことによって、ほぼ書類は揃います。(画像の貸出しは微妙、拒否されることがあります)  しかし健保、労災が絡む件、一括払いを拒否された件は絶望的に面倒な手続きを強いられます。その労苦とは・・・  

1、健保、労災で治療費を確保した場合、あらためて病院に通院期間の自賠責用診断書・診療報酬明細書をお願いしなければなりません。  診療報酬明細書については病院はすでに健保・労災に発行しており、2重発行はできないと拒むケースが多くなります。診療報酬明細書とは病院にとって治療費の請求書なので、すでに健保・労災に提出して費用が精算されていれば、再び発行はできない・・・これは筋が通っています。ちなみに健保・労災は受け取ったこの明細書に従って病院に支払い後、被害者に過失がない、もしくは少なければ自賠責保険に求償することがあります。

 この書類の流れを説明できる法律家は少なく、病院の医事課の事務員や健保・労災の担当者も自分の所管する事務以外は把握していません。損保の人身担当者が一番詳しいと思います。

  2、従って、1で診療報酬明細書が入手できねば、健保・労災に診療報酬明細書の開示請求を行う必要が生じます。開示請求には開示申請、開示決定、謄写請求など、数段階の手続きが必要です。手間となにより時間がかかります。通院期間が長く、量が多いと開示決定に2~3か月待たされることがあります。  

3、病院によっては、健保・労災で治療した患者に対して、1の自賠責用の診断書の記載すら拒みます。その場合、病院の事務方、医師へ説得が必要です。  

4、画像の収集。病院によっては極度に画像の貸し出しを嫌います。またCD等の買取なら500円~2000円で済みますが、なかにはXPフィルム(レントゲン)のコピーを1枚1000円で売る病院も存在します。最近も骨折が多かった被害者さんは220枚も買わされるはめになり、22万円+消費税を支払いました。CDに焼ける設備がありながら、院内のルールだそうです。こうなると病院の悪意を感じます。

  5、これらの手続きに際し、患者本人ではない場合、同意書(しかも期限3か月以内を要求されることも!)が必要であることはもちろん、病院によっては「郵送不可」「患者本人のみ対応」「文書料金の振込み不可、窓口で現金払いのみ」など無駄に厳しいルールを盾に非協力的な対応も珍しくありません。なにより、事情をよく解っていない医事課(文書課)の事務員に説明、理解を得なければ進みません。

  

 このように書類・画像の収集が複数の病院に及べば、被害者はヘトヘトになります。交通事故被害者は複数の病院に行きやすく、先月は9か所!も通院した被害者がおりました。もしこれらの手続きを弁護士が受任したら、弁護士だけでなく事務所の事務員も事務の洪水と、病院はじめ健保、労災との折衝で消耗してしまいます。やはり「事前認定」を是認する弁護士の本音は「楽したい」ではないでしょうか?

 秋葉事務所ではこれらの手続きを弁護士から依頼され、ぶつぶつ愚痴を言いながら収集を進めています。6月はなんと病院16か所、労災開示1、健保開示2、そこから診断書、画像類で毎日大型事務所並の文章が行きかっています。(いつかその事務処理方法をマニュアルにしようと思っています。)

 医証収集のプロである以上、避けられない事務、ここで泣き言を言っては保険会社の人身担当者に笑われてしまいます。彼らも日々、自賠責への求償のため、医証の収集に忙殺されています。頑張らねばなりません!  

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自転車に衝突され負傷した時の慰謝料請求先は個人賠か施設賠償保険

 

近年、自転車による加害事故のニュースが目立つようになり、自転車事故の被害者からの依頼が多くなってきました。

 

秋葉事務所は自転車事故によるケガの場合も後遺症の等級をキッチリ獲得します

 

その後はキッチリ裁判基準満額の慰謝料を獲得できる弁護士へ引継ぎます。

 

 

自転車は道路交通法上、軽車両とされており、自転車での加害事故でも自動車と同じく損害賠償責任を負います。

当然ですが自動車には自賠責保険の加入義務があり、ほとんどに自賠責保険がついています。また走っている車の80%は任意保険が付保されています。

 

しかし、自転車には自賠責保険のような強制保険の制度はありません

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 シリーズ3つ目の質疑応答は、交通事故相談会でもおなじみの整骨院・接骨院への通院の是非です。

 頚椎捻挫・腰椎捻挫等で後遺障害が残らないような軽傷であれば整骨院・接骨院での施術でも問題はありません。また骨折等で整形外科の指示で併用通院などの場合、医師との連携が取れていれば後の後遺障害診断は大丈夫と思います。  問題なのは宣伝に釣られて、ついつい病院ではなく整骨院を選択してしまうことです。「交通事故専門院」「肩こり 腰痛」「各種保険取り扱い」などは違法表示スレスレらしいです。では、病院と整骨院の選択は患者の意思によることが前提として、保険のプロである代理店はどのようなアドバイス、フォローが望まれるのでしょうか。  

(質問)  むち打ちの被害者さんです。後遺障害が望めそうであっても接骨院・整骨院に通いたいとの希望が強い場合はどうしたらよいでしょうか?

  (回答)  まず症状を観察し、軽度で1~3か月の通院で済むケガ、軽い事故なら問題ないと言えます。しかしひどい症状、通院が長期化しそう、手指のしびれなどの神経症状がみられる場合、後遺障害の可能性があります。はっきり「70万で示談か300万を目指すのか」説明して差し上げなければなりません。できれば近隣のリハビリ設備が整った個人開業医を紹介、もしくは一緒に探してあげて下さい。接骨院・整骨院とほぼ同じ設備が揃っています。 pics317

 

 やはり、症状の重さを観察し、適切な振り分けをする「目利き」がポイントです。そして後遺障害等級を得ることによる賠償金の絶大な差について、情報として被害者に知らせるべきでしょう。その上での被害者の判断であれば何の問題もありません。

 契約の際、保険の内容説明の徹底は保険業法で厳しく代理店に課されています。事故で支払われる保険金・賠償金についても保険会社が明示しないことがたくさんあります。保険会社と交通事故被害者、この二者の情報格差を埋めるのも代理店さんの義務ではないでしょうか。少なくとも大切な顧客様へのサービスであることは間違いありません。  

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 代理店さんの契約者さんが事故で脚を骨折しました。半年後、骨の癒合は良いものの、わずかに膝の曲がりが悪く、痛みが残っています。リハビリを続けても改善が進みませんし、相手の保険会社も治療の打切りを迫ってきます。そこでSC(保険会社の支払い係)から後遺障害診断書を預かり、医師に記載していただくよう契約者さんに渡しました。

 ところが後日、契約者さんは途方に暮れて帰ってきました。医師に依頼したところ、「骨の癒合は問題ないので後遺症はない。無駄だから書かない」とのことです。

 その後、再三にわたり頼んで、ようやく解読不能の達筆で一行だけが記載された診断書が返ってきました。     (質問)  代理店さん:「後遺障害診断書を書いて」と依頼しても医師が書いてくれない、また書いてくれたとしてもかなりいい加減で困っています。どうしたらよいでしょうか?

 

(回答)  秋葉:代理店さんが病院へ同行して下さい。通常、患者は医師の言いなりとなります。そこで患者の代わりに医師に事情を上手に伝える必要があります。代理店さんの交渉力が発揮される場です。ここで顧客様を助けて差し上げれば、信頼は絶大です。

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  (解説)  医師の仕事は当然ですがケガを治すことです。後遺障害とは「治らなかった」ことであり、その診断書は「治せなかった」証明書です。医師は日々患者の治療で多忙を極めています。このような書類仕事はやりたくない仕事のNo.1です。まして自身の治療努力が叶わなかったことを書かねばならないのです。

 やはり、簡単に、自動的に、間違いなく、仕上がる書類ではないのです。孤立無援の被害者には誰かの助けが必要なのです。しかし、仮に代理店さんや弁護士、メディカルコーディネーターが診断書の依頼に奔走したとしても、保険会社は冷ややかです。建前上、医師が記載の判断をする、さらに医師が書くものに間違いはない、との認識を示します。これが先日のシリーズ「弁護士費用特約にまつわるエトセトラ⑥」につながります。    現場の代理店さんが嘆くように、後遺障害診断書の正確な記載とは、本来全件そうあるべきであるのに関わらず、多くが不記載・不正確・不十分の三重苦となる傾向です。これが現実です。世の中、正しいことが必ずしも行われていないものです。そして、この書類で被害者の運命は大きく左右されてしまうのです。 続きを読む »

 先月の代理店内研修から、質問と回答を取り上げたいと思います。  私自身、長く損保業界におりまして代理店経営を通してそれなりに経験を積んできました。しかし交通事故外傷に深く関わる現在の仕事になって初めて知ったことがたくさんあります。損害保険のプロである代理店さんと言えど知らないことが実に多いのです。特に後遺障害の知識については、意図的と思えるほど保険会社は隠匿して代理店や社員に教えていないと感じています。  そのような中、研修会では活発な質疑応答が展開します。おなじみのQ&A方式でいくつか紹介します。

  (質問)  相手が任意保険に入っていません。しかし被害者請求しなくても契約者さんに人身傷害特約が付いています。人身傷害の対応で問題ないでしょうか?

(回答)  確かに治療費の確保が出来て一安心です。しかし慰謝料はあくまで任意保険会社基準です。特に後遺障害が残るような重傷では、最終的に弁護士の請求する金額の半分以下(注)で解決となり、大変残念です。その場合はまず治療費・休業損害は人身傷害で確保します。そして後遺障害についてはあくまで相手を訴え、判決をとってから、判決額を自身の保険会社の人身傷害特約と無保険車傷害特約に請求します。人傷社はその判決額をそれなりに尊重します。これでもらえる金額が14級でも100万以上差がつきます。

 人身傷害特約ですべて解決では大損します。

c_y_164 謝るよりちゃんと補償せい!

(注)高齢者や被害者に過失割合が大きい場合はその限りではありません。  

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 さて、昨日の試算から軽傷案件は費用倒れすれすれであることがわかりました。「弁護士先生、なんとか報酬20万円以下でお願いします!」の状態です。方々の交通事故相談に出向きましたが、なかなか引き受けてくれる先生が見つかりません。どうしましょうか?  

保険会社マターとするか弁護士マターとするか

 以上から軽傷案件の場合、保険会社と争わずに速やかな解決を目指すなら、慰謝料は少ないですが直接交渉でも良いような気がします。このような案件を私は「保険会社マター」と呼んでいます。

c_y_79 保険会社は支払額が自賠責保険以内なら自腹が痛みませんので、提示に対して印鑑を押すだけで解決が可能です。保険会社は3か月程度の捻挫・打撲では常に自賠責保険の範囲での解決を目指しています。治療費や休業損害で交渉余地が少なく、経済的利益がわずかしか見込めないなら、妥協的な解決でも仕方ありません。実際、ほとんどの軽傷事案は保険会社マターで解決しています。

 しかし感情的になってしまい、保険会社と上手く交渉できない被害者や弁護士の交渉で増額が見込める余地が相当にあれば、弁護士に依頼することも一考です。問題は引き受けてくれる弁護士をみつけることででしょうか。  

そうだ、弁護士費用特約があるじゃないか

 弁護士費用特約(以下 弁特)に加入している被害者であれば、弁護士への報酬は保険で賄えます。試算ではおよそ20万円前後に損得の判断がかかっていますが、その心配はなくなります。    弁護士事務所の多くが弁護士費用特約がある場合、旧日弁連基準とほぼ同じ報酬体系を打ち出しています。仮に弁特社(自身が弁特に加入している保険会社)に20万円の増額に対して、その基準で報酬を計算しますと・・・

(計算) 着手金  8% 成功報酬 16%

合計 200000円×(8%+16%)=48000円+消費税8%=51840円 となります。  

 少なすぎますね。交渉の手間を考えれば費用倒れしない範囲での金額、やはり20万円程度が妥当と思います。

 ところが20万円程度の増額の案件に対しても30万円以上の請求を続けた法人事務所がありました。この事務所はすっかり保険会社から嫌われました。通常、費用倒れの案件です。普通なら引き受けません。しかし「弁特社が払うからいいじゃん」、このような受任姿勢は倫理的に問題があると思います。

 弁特があれば確かに弁護士に委任しやすくはなります。しかし軽傷事案も当然に倫理的な相場を考慮する必要があります。増額の見込みが些少な案件は引き受けづらいことに変わりはないと思います。  

紛争センターの斡旋を利用

 自力直接交渉、弁護士委任ではない第3の方法も残されています。それは財団法人 ...

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 先日の内容から弁護士に依頼した場合の損得勘定をしてみましょう。    ueshima 訴えてやる!

① 治療の継続による治療費請求

 弁護士の交渉により1か月通院が伸びました。治療費は病院に払われるものですので賠償金として加算しません。

 しかし延長の条件として健康保険を使った場合は別です。自己負担額(0~30%)がありますのでその分は獲得した賠償金と言えます。

(計算例)   一回のリハビリの点数を200点としますと、健保治療の場合1点=10円ですので2000円、そこから3割負担の国保(自営業)なら600円が自己負担です。その600円×1か月の実治療日数が15日なら、600円×15日=9000円をゲットしたことになります。これがこの弁護士の交渉による成果といえます。  

② 休業損害の証明

 この自営業者さんは保険会社の最低補償である5700円/1日から7000円へアップできました。

(計算例)  受傷から3か月間の実治療日数45日までが認められたとして、7000円-5700円=1300円×45日=58500円の増額を弁護士の交渉により、勝ち取ったことになります。  

③ 慰謝料の妥当性

 これは先日の表を見れば一目瞭然、弁護士が介入しなければ認めてくれなかった赤本基準をしぶしぶ保険会社は払います。

(計算例)  3ヵ月の保険会社慰謝料378000円が530000円に、さらに治療期間の延長により4か月=670000円。 670000-378000円=292000円です。

 もし治療の延長がダメだったとしても152000円の増額です。    

軽傷の場合、弁護士に依頼した方が良いのか否か?

 今回のシミュレーションではやっと受任してくれる弁護士を見つけ、その交渉により、① 治療費で9000円、② 休業損害で58500円、③ 慰謝料で292000円の合計359500円の増額を勝ち取りました。

 さて問題はここから弁護士に報酬を支払った結果の費用対効果です。

 この弁護士は着手金を20万とし、成功報酬を20%で契約しました。  

(計算例) 着手金  = 200000円 成功報酬 359500×20%=71900円 ...

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 中断していましたが、再開します。  

 人身事故で95%を占める、後遺障害のない、どちらかと言えば軽傷事故。それでも多くの場合に争点となるのが、

① 治療の継続による治療費請求

② 休業損害の証明

③ 慰謝料の妥当性

 前回は被害者が相手保険会社と交渉するケースを検証しました。それでは、この煩わし交渉を弁護士に依頼した場合をシミュレーションしてみましょう。

 

2、弁護士に依頼

① 治療費

 治療期間が3か月に及ぶ頃、相手保険会社が「そろそろいかがでしょうか?」と電話がかかってくるようになりました。まだ痛むと言って治療を伸ばしても担当者はだんだん強硬になってきました。そこで知人の紹介で弁護士の紹介を受け、相談したところ、「むち打ち」程度の軽傷では受任しないそうです。そこでホームページで交通事故に強いとある弁護士に相談しましたが、「後遺障害の等級が取れてからまた連絡を」との対応です。さらに検索してようやく数件目で受任してくれる弁護士事務所を見つけました。  その弁護士さんは治療の延長を交渉し、なんとかあと1か月の延長を取り付けました。代理人・弁護士のおかげで少しの間、一心地です。  

② 休業損害

 しかし休業損害の延長については弁護士もあきらめムードです。なぜなら、むち打ちで何か月も会社を休むなどそれ相当の医師の診断がなければ難しいと言われました。

 もっとも問題となっていたのは休業日額です。自営業者で所得は実態より少な目に申告していますが、その申告書の数字から相手保険会社は譲りません。現状、1日=5700円の最低補償(自賠責)基準の算定額しかくれません。

 弁護士は「売上-経費=所得」の計算を少し修正しました。売り上げから引かれている経費の項目で水道光熱費、損害保険料(自動車保険の掛け金、個人事業税)など、被害者本人が休業していても待ったなしにかかってしまう経費を所得に加算しました。これで相手保険会社の5700円から7000円にアップしました。これ以上の金額は総勘定元帳などを作成して交渉することになります。弁護士は税理士にお金をかけてまで立証書類を作成する増額効果が少ないこと、倫理的には申告書を基とすべきことから、これ以上は断念するようにとのことです。  

③ 慰謝料

〇 自賠責保険の慰謝料計算 通院1日4200円、3か月間:2日に1回ペースで通院 ⇒ 378000円

〇 任意保険の3か月慰謝料は 上と同じ頻度で通って ⇒ 378000円

〇 赤い本基準のでは 同条件で ⇒ 530000円

 (別表Ⅱ⇒むち打ちはここでみます)

 慰謝料はズバリ以下の表をみて検討してみましょう。

 傷害部分の慰謝料比較(単位 万円)

傷害部分慰謝料

治療期間

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 昨日の例の他、弁護士の仕事について等級認定後の賠償交渉によって獲得した金額のみを成果とし、「自賠責保険の金額を成功報酬の対象計算から控除して下さい」とする保険会社が少なくないようです。実例から説明します。(やはり仮名)  

後遺障害等級は自然に決まるもの?

 大島先生率いるAKB法律事務所は本格的に交通事故業務に力を入れています。

『これからの交通事故は等級認定前から受任して、しっかり等級認定からお手伝いすること、初期対応することです。これこそ被害者救済であり、「等級が認定されてからまた来てください」などと言う旧来の事務所の姿勢ではダメです!』  大島弁護士はこのような交通事故対応を掲げて、受傷直後から被害者に寄り添い、物損の解決、休業損害の請求、労災の手続きなど手続きはもちろん、病院同行を繰り返した末に後遺障害・被害者請求を行いました。そして12級を獲得、その後は紛争センターに持ち込み、あっさり赤本満額で解決を果たしました。  依頼者は想像以上の高額の賠償額でびっくりです。何より大島先生は受傷直後から色々な手続きをしてくれた上、病院にまで一緒に来てくれ、一生懸命、等級の認定に尽くしてくれたので大満足です。

 大島弁護士は最後に弁特社(被害者側の保険会社)に弁護士費用特約を請求しました。後遺障害12級(自賠責で先に224万円獲得)に加えて最終受取額が700万円です。合計924万円に対して成功報酬を計算、1656000円の請求額です。  

 しかし弁特社の担当者の支払い回答は・・・  

担当者:「大島先生、自賠責の224万は報酬計算から引いて下さいよ」  

大島弁護士:「えっ?うちは受傷直後から等級認定も含めて仕事をしているのですよ」  

担当者:「いえ、等級認定は医師が書いた診断書を出すだけなので先生の仕事ではないですよね?」  

大島弁護士:「失礼な!本件は病院同行して、検査先に誘致して、陳述書を添えて・・・大変な作業で乾坤一擲、12級認定を勝ち取ったのですよ!」  

担当者:「それなら事前認定(相手保険会社に認定業務を任す)すればよかったのではないですか」   

大島弁護士:「キーッ!」

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 等級認定後の受任ならば当然として、確かに等級認定作業を「事前認定」つまり加害者側保険会社に任せれば、その事務所は立証作業を放棄しているのですから報酬計算に自賠責保険金額を含めないことは正当な考えです。しかし本件のように等級認定に関する立証作業と書類集積作業が代理人の腕の見せ所であり、むしろ賠償交渉より大変な作業となることもあります。

 後遺障害は被害者請求を基本とし、交通事故の初期対応を売りとしているAKB事務所のような弁護士事務所も増えてきました。さらに私のように「後遺障害の立証作業が事故解決の勝負どころ」と捉えている業者も存在します。「後遺障害の立証など無用、何もしなくても自然に等級が決まる」など、保険会社のあまりにも建前的、独善的な発想と思います。もちろん立証作業の効果薄い案件(足の切断のように見たままの障害)は除きますが。

   このように、なんとしても保険金支払いを削減したい保険会社と法律家の弁護士費用特約をめぐる争いは続きます。いい加減な仕事で多額の弁護士費用を請求する弁護士、行政書士が大勢存在するのが問題の根底です。それらの困った先生が存在する以上、保険会社の意地悪な支払い対応はなくなりません。真面目な大島先生の苦労は絶えないのです。  

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 弁護士費用特約は交通事故で代理人を雇う場合、被害者にとって重宝する特約です。しかし普及率は上昇するも使用率は低く、まだ一般的な印象は受けません。しかも保険会社の支払い基準は不明瞭で、各社、各担当者、案件ごとにまったく統一的な運用が成されていません。また、依頼を受けた弁護士・行政書士が費用を依頼者からではなく、直接、保険会社に請求することから、保険会社ともめることが多いようです。

 さて、最近の払い渋り、いえ、支払額提示で面白い対応をした保険会社をある弁護士先生から聞きました。今回はそれを紹介します。(仮名とします)  

弁護士に支払う報酬は人身傷害特約の支払い基準を超えた額から計算します

 AKB法律事務所の前田先生は被害者の後遺障害の申請を代理し、被害者請求にて等級獲得後、賠償交渉を経て解決させました。最終的な賠償獲得額は1500万円です。ここから着手金と成功報酬を合わせて252万円(旧日弁連基準報酬)を保険会社に報酬を請求したところ、請求額全額に応じられないとの返答です。その保険会社の計算とは・・・  

担当者:「本件の場合、弊社の契約に付帯していただいている人身傷害特約に先に請求して下されば700万円を支払うことができました。したがって弊社の特約を使わずに相手から獲得した賠償額は実質800万円と考えます。よって800万円に対する報酬を旧日弁連基準で計算します・・・

 800万円×(5%+10%)+9万円+18万円= 147万円 をお支払いします。  

前田弁護士:「えーっ! 頑張って後遺障害認定業務も行ったのですよ!」  

担当者:「いえ、頑張ってもらわなくても弊社の人身傷害特約を使っていただければ、700万まではお支払できたのです。それを敢えて被害者請求を行ったので、弊社としては700万円を超えた額である800万円を対象として計算します。」

  前田弁護士:「そりゃないよ~」

               c_y_193

 この担当者の払い渋り、いえ、報酬計算には思わず「座布団一枚!」、一休さんのとんちを見るようです。このような鮮やかな(へ)理屈を持ち出す保険会社、さすがとしか言いようがありません。

 しかし本例の場合、契約者(代理人 弁護士)の意向は、あえて人身傷害特約を請求せずに相手に賠償請求をすることです。契約者の代理人が行った一連の作業とその成果を尊重しない保険会社の姿勢はやはり問題があると言えます。これを弁護士費用特約のスタンダードな報酬計算とすれば、金融庁だけではなく契約者からも非難は避けられないと思います。   

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 前日より続きます。

 人身事故で95%を占める、後遺障害のない、どちらかと言えば軽傷事故。それでも多くの場合に争点となるのが、

① 治療の継続による治療費請求

② 休業損害の証明

③ 慰謝料の妥当性  でしょうか。  

 通院交通費や雑費は実際にかかった額を明示するだけで、非常識な額を請求しないことが前提となるので割愛します。また物損にまつわる争点はテーマを違えますので、別の機会に。

 まず弁護士に依頼する前に自力交渉を検討してみましょう。

 

1、自力交渉

① 治療費

c_s_t_1 骨折のない打撲・捻挫では受傷直後に鎮痛消炎処置を施し、あとは保存療法、疼痛緩和処置です。したがって靭帯や軟骨の損傷、神経症状(による痛み、しびれ、その他)が起きない限り3か月を超える治療期間を保険会社に認めさせるのは困難でしょう。「まだ痛い」と訴えても最悪、治療費打切りが待っています。自力交渉では自身の訴える「痛い」ではなく、疼痛が長期化する他覚的所見、つまり医師の診断を示す必要があります。しかしむち打ちや腰椎捻挫の場合は明確な所見がないことの方が多いものです。交渉むなしく保険会社が治療費を切り上げた場合、健康保険を使って治療継続することが現実的と思います。  それでも長々と通院を続ければ弁護士対応が待っています。やはり治療が長引いている証拠がなければ、無駄な抵抗は止めるべきです。もちろん打ち切り後の治療費を自分で負担すれば問題ありません。相手に出してもらう以上、何かと軋轢が生じるのです。  

② 休業損害

c_s_t_20 源泉徴収票で証明されるサラリーマン、公務員の休業損害は明確です。実際の休業日の請求の場合、交渉の余地は薄いと言えます。問題は自営業者です。実際の収入より過少申告となっている方が少なくありません。所得税の申告書が一級の証明書です。その数字が収入の根拠とされます。これは自らが招いたことなので仕方ありません。しかし実態収入を総勘定元帳、賃金台帳、入金口座の通帳などで明らかにすることができないわけではありません。これらを誠実に提示し、保険会社担当者に訴えるしかありません。やはり苦しい交渉となります。  

③ 慰謝料 続きを読む »

 人身事故と言っても後遺障害が残るような大ケガは少ないもので、損保協会のデータは以下の通りです。  

 平成23年 被害者内訳

ケガをした人  jinnsinnjiko ][  およそ 116万人

後遺障害となった方 およそ 6万人

亡くなった方    およそ 4700人

 

 近年の死亡者数の減少は好ましい傾向です。ではケガについてですが、私は後遺障害に特化した仕事をしていますので、いつも後遺障害のことばかり、年がら年中、重傷者と対峙しています。しかし統計のように現実には後遺障害を残すような方は、交通事故でケガを負った被害者の5%ほどなのです。やはり重傷は少ないようです。

 今日から取りあげるのは後遺障害のない軽傷被害者(便宜的に軽傷とします)の解決についてです。

 

軽傷者の解決の実際

 まず軽傷者を「打撲・捻挫の診断名で、後遺症とならずに治った」と定義します。ここでは後遺症があるのに後遺障害等級が認められずに解決した被害者は除きます。

 相手に任意保険会社があれば、その一括払い(保険会社が病院に直接、治療費支払い)で治るまで治療費を負担し、その後は傷害慰謝料や休業損害などを支払って解決となります。ここで問題になるのは治療内容の妥当性、休業損害金額の適否、慰謝料の金額でしょうか。これらの金額について、95%ほど(保険会社資料)が保険会社と被害者との直接交渉で示談となります。もちろん、「ある病院での治療費が認められない!」、「休業損害が実際より少ない!」、「慰謝料が少ない!」などの争点はありますが、保険会社は提出書類にもとづいて常識的な判断・数字を提示をすることが多いので、交渉してもなかなか思い通りの金額は取れません。

 この軽傷者のほとんどが通院3か月で治療費の打ち切りを迫られます。「まだ痛い、通院を続けたい」と言っても打撲・捻挫では説得力がありませんし、事実、多くの被害者は治っているはずです。

 休業損害の金額も提出した源泉徴収票や所得税申告書などの証明書から算出します。ここで所得を過少申告していた自営業者は少々痛い目にあいます。実際の所得で請求できないことが、おなじみの争点と言えます。

 慰謝料についても3か月以内の通院ではどの保険会社も自賠責保険の基準である、1日=4200円の計算とほぼ同じ金額を提示してきます。  

 そしてこれらの争点について、被害者はそもそも請求金額が少ないことから法的手段や調停などの斡旋機関を利用することなく、「まぁ、しぶしぶ従って」示談といったところでしょうか。

 では、ここで弁護士など業者の力を使って解決を図るケースを検討してみたいと思います。

 つづく

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