裁判官は「人身傷害は傷害保険」、こう定義してしまったね・・。そんな簡単な結論ではないからこのシリーズが10回を超えているのですが・・。

 また、裁判官は「平成10年以降、保険の自由化により各社約款が多様化しているのだから、算定基準もいろいろ・・裁判基準に拘束される筋のものではない」と言うけれど、それはまったくの建前論です。現在、どの会社も十把一絡げに同じだった対人賠償基準の旧約款を人身傷害の算定基準に流用しています。各社、その支払い金額の計算に大差はありません。大差があるのは、いわゆる「赤い本」などの裁判基準と比べてなのです。問題の本質は(各社、大差ない)保険会社基準と(絶大な差がある)裁判基準のダブルスタンダードです。そして、人身傷害は支払い金額を「契約前に保険金を約束した傷害保険」なのか、それとも「損害の実額を支払う、つぐないの保険」なのか? これが人身傷害誕生以来負ってきた、宿命的テーマのはずです。何か履き違えている印象が拭えません。

c_y_98   判旨の通り、確かに保険会社は約款に書かれていることを守ればよいでしょう。まったくの正論です。しかし、裁判官は正論ながら現実とかけ離れた解釈を示しています。  まず、被害者(ここでは保険契約者)が※賠償先行か人傷先行かの損得を簡単に判断できるわけないですよね。

※人傷先行=先に人身傷害保険を受取り、次に裁判で賠償金を請求  賠償先行=先に裁判で賠償金を取り、次に自身の過失分を人身傷害保険に請求

 裁判官の言う「選択の自由」は大抵、保険会社有利に運ばれるのが現実です。金融庁の監督下だからと言って、馬鹿正直に損保が「人傷先行が得です」と契約者にアドバイスなどしません。逆に表立って契約者が不利になるような発言・誘導もしません。では、人傷先行か賠償先行か、選択の場面となったら人傷社の担当者はどうするでしょうか?まず、静観を決め込みます。なぜなら過失割合が契約者20:相手80のような事故であれば、通常、相手の保険会社が一括対応(治療費や休業損害の支払い)をしています。そして治療終了後、何の疑いもなくそのまま賠償交渉に進むのが普通だからです。  保険会社は裁判官が期待するような、優しくお人好しの組織ではないのです。営利を求める一民間企業が数百万円~数千万円の支払いが増える方法を親切に教えてくれるわけないでしょ?そんな担当者は人事異動で地方の子会社に飛ばされます。それが民間企業の限界、保険会社を責めることはできません。・・判旨は無垢で純真な理想郷を前提としたものです。

 さらに、「人傷先行が大多数じゃね?」の判旨。自身の過失が50%を超えるような事故なら、相手保険会社は賠償の対応をしてくれないことが多いので、その場合は人身傷害を先に請求することになるでしょう。しかし本件のように自身の過失が5~30%程度でも、先に人身傷害を請求するのが大多数か?・・そんなわけないでしょう。裁判官は「発売以来 普及が進んだこと、求償の裁判がやたら多いこと」から単なる推測で「みんな先に人身傷害に請求している」と思ったようです。しかし、事実はこのシリーズを読めば解る通り、求償に関する裁判は人身傷害の約款に問題があるからで、決して人身傷害への先行請求が大多数となったわけではないです。

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 平成24年6月7日高裁で「人傷基準差額説」判決が出ました。先に賠償金をもらって、差し引かれた自分の過失分を後で自身契約の人身傷害特約に請求した場合、その計算は「訴訟基準」の総額か、「人傷基準」の総額かの判断が下されました。

 わかり易くするために、例によって矢口さんと加護火災に登場してもらいましょう。  

「人傷基準差額説」だと以下の通り、全額はもらえません

  両会社 ⇒賠償過失 人傷差額説続きを読む »

 自動車保険料率の自由化以降は、各社の約款に違いがあって当然です。しかし、この人身傷害の支払い基準の差について、保険契約の際に契約者が理解・選択することはほぼ不可能と思います。パンフレットからは到底読み取れない補償の差があることは、やはり消費者保護の観点から望ましいことではありません。

 「差額説」vs「絶対説」の裁判が続く中、平成23年6月、北海道の消費者団体がこの問題について、「訴訟基準差額説」or「人傷基準差額説」のどちらで支払うのか損保各社に質問状を送りました。回答は以下の通りです(簡略化しました)。「絶対説」が退けられることは、各社、覚悟していたと思いますが、「訴訟基準」か「人傷基準」かは不明確で、これを約款に反映させる過渡期にこの質問・回答を行いました。人身傷害約款の不整備、もしくは改定中の損保に対し、会社の見解・方針を聞き出す画期的な活動だったと思います。

※特定非営利活動法人  消費者支援ネット北海道様から、引用・掲載のご許可を頂きました。  

 

会社名

賠償義務者への 訴訟が先行した場合

人身傷害保険の 支払が先行した場合

改訂時期

回答

回答

あいニッセ同和

H22.10.1

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 またしても学説の対立です。人身傷害を先に請求し、後に賠償金を受け取る場合の求償のルールについては「差額説」で決着しました。しかし、先に賠償金を取得した後から人身傷害を請求した場合、以下、どちらの基準かによって損得が生じてしまうのです。    自社基準の損害総額から矢口さんの過失分(人身傷害保険金)の算定をすることを「人傷基準差額説」と呼びます。相手との裁判で決まった賠償金総額を認め、その額から矢口さんの過失分(人身傷害保険金)を算定するのが「訴訟基準差額説」です。  

訴訟基準差額説

 両会社続きを読む »

 たくさんのアクセスありがとうございます。連休中も頑張って良かった。もっとも熱心にこのシリーズをフォローしているのは同業者さんか弁護士さんと思いますが・・。

 では、「差額説」に決着しても、なお残る問題について進めましょう。おなじみの実例を使います。(登場人物、組織名はもちろん架空です)  

人身傷害特約は自分の過失分も出る保険なのに何故?

   矢口さんは自動車で走行中、交差点で出合頭の衝突事故でケガをしました。腕を骨折し、半年後、後遺障害12級の認定を受けました。そして弁護士の後藤先生に交渉を依頼しました。20140507benngosi

 業界でも屈指の弁護士、後藤先生は払い渋るTUG損保に業を煮やし、裁判を起しました。 結果は後藤弁護士の全面勝利、過失割合は判例通り矢口さん20:相手80でとなり、TUG損保から800万円の賠償金を勝ち取りました。

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 続けて人身傷害補償条項も整備しました。支払いルールは以前と同じですが、求償のルールが加わりました。あまりにも難解で、弁護士先生ですら「なんのこっちゃ理解できない」と言っています。今日も飛ばしてOkです。  

第8条 支払保険金の計算

  (1) 第6条の規定(当社が別紙に定める算定基準)により決定される損害額+その他費用が支払い限度です。(かなり略しました) (2) 次の①から⑥までのいずれかに該当するもの(以下この(3)において、「回収金等」といいます。)がある場合において、回収金等の合計額が保険金請求権者の自己負担額(注2)を超過するときは、当会社は(1)に定める保険金の額からその超過額を差し引いて保険金を支払います。

 なお、賠償義務者があり、かつ、判決または裁判上の和解において、賠償義務者が負担すべき損害賠償額が算定基準と異なる基準により算出された場合であって、その基準が社会通念上妥当であると認められるときは、自己負担額(注2)の算定にあたっては、その基準により算出された額を損害額とします。

 ただし、訴訟費用、弁護士報酬、その他権利の保全または行使に必要な手続きをするために要した費用および遅延損害金は損害額に含みません。

(注2)自己負担額  損害額および前条の費用のうち実際に発生した額の合計額から(1)に定める保険金の額を差し引いた額をいいます。

 以下①~⑥は簡略に言い直します。

① 自賠責保険からの回収金 ② 加害者側に保険会社があり、その対人賠償保険金 ③ ...

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 「絶対説」vs「差額説」の争いの間、約款の改正が進みました。この「差額説」について、約款の条文から整理しておきましょう。

 昨日の説明で理解した方は今日の内容は飛ばして結構です。専門家を名乗る以上、一応、約款を分析したに過ぎません。説明する側として判例や約款を専門用語で解説することは簡単です。昨日のように誰もが理解できるように簡単に説明する方がはるかに難しいのです。

 それでは、損保ジャパンを例にします。  

「差額説」の根拠となった求償ルール

 

第23条 代位

1) 被保険者または保険金請求権者が他人に損害賠償の請求をすることができる場合には、当会社は、その損害に対して支払った保険金の額の限度内で、かつ、被保険者または保険金請求権者の権利を害さない範囲内で、被保険者または保険金請求権者がその者に対して有する権利を取得します。  

  「被保険者の権利を害さない範囲内で」とは、矢口さんが損害の全額を確保できるよう、加護火災が既に支払った保険金返還の限度を明示しています。東海も当時の約款、一般条項 第6節4 条「代位」に同じく規定していました。各社、求償に関して類似の一般条項があり、これが「差額説」が勝った根拠になったのです。

 元々、この求償ルールは自動車保険の車両保険なども含めた、全般に適用する一般条項「代位」に規定していました。人身傷害の求償ルールとして、さらに約款改定を進めました。  

「差額説」に適応させるべく、より整備された求償ルール

 

第28条 代位

(1)損害が生じたことにより被保険者または保険金請求権者が被保険者債権(注)を取得した場合において、当会社がその損害に対して保険金を支払ったときは、その被保険者債権(注)は当社に移転します。ただし、移転するのはのは次の①または②のいずれかの額を限度とします。

①  当会社が損害の額の全額を保険金として支払った場合

 被保険者等債権(注)の全額

②  ①以外の場

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 さて、「自身の過失分まで全額補償されるのが人身傷害特約ではないか!」と訴えた矢口さん、加護火災と法廷で争いました。前日に続き「差額説」を説明しましょう。(前日の「絶対説」と連続で読まないとわからないですよ)  

保険会社 加護 「約款に書いてある通り、人身傷害特約の保険金は相手から受け取る賠償金を差し引くものですから、先に支払った保険金は全額返してもらいます!」

20140507続きを読む »

 いよいよ、人身傷害特約をめぐる争いの世界に突入です。覚悟してついて来て下さい。

   交通事故でけがをした場合、事故相手(相手保険会社)だけではなく、自身も人身傷害特約に加入していれば、双方に請求することが可能です。  まず、被害者が先に自らが加入している保険会社(以後、人傷社とします)に人身傷害特約を請求・取得し、その後に裁判等で賠償金を取った場合を想定して下さい。その賠償金は加害者が任意保険に入っていればその保険会社(以後、賠償社とします)が支払うことになります。この場合、先に人身傷害を支払った人傷社がその賠償金からすでに払った人身傷害保険金をどれだけ求償できるのか?を争った裁判です。

 人傷社は「既に支払った全額を返して!」と「絶対説」を主張し、被害者は「過失関係なく全額補償するのが人身傷害特約でしょ?」と主張しました。そして、裁判の結果、「被害者の賠償金全額を超えない範囲で求償しなさい」と、人傷社の全額求償を否定しました。これが「差額説」です。

 これから続けます人身傷害約款の問題点に触れる前に、この「絶対説」「差額説」の理解は避けて通れません。難しい話なので裁判の判旨を読んでも弁護士しか理解できないでしょう。今日・明日は人身傷害の「絶対説」vs「差額説」を世界一易しく解説します。これは昨年の「弁護士研修」の講義の内容からです。  

「絶対説」では全額補償とならない?

   矢口さんは自動車で走行中、交差点で出合頭の衝突事故でケガをしました。腕を骨折し、半年後、後遺障害12級の認定を受けました。過失割合については相手と事故状況が食い違い、争っています。治療費は相手のTUG損保(賠償社)から支払われていましたが、後遺障害の話となると険悪となってしまい、話し合いが進みません。20140507 そこで矢口さんが加入している加護火災(人傷社)の人身傷害特約から、先に保険金500万円を受け取りました。

保険会社 加護続きを読む »

 支払い基準は約款の『第〇条 損害額の決定』の条項を確認します。ここに払うべき保険金の計算根拠を示してあります。具体的な計算式は別条項の『支払保険金の計算』と『別紙 算定表』『別表』に書かれています。この計算式で計算される金額は、概ね対人賠償の保険会社基準と同程度の金額になります。この算定金額が裁判基準に比べ、あまりにも低いのが問題なのです。何故、低くなってしまうのか? 理由を以下、計算方式から説明します。  

1、治療費や医療関係の実費は実際にかかった費用となります。

2、同じく休業損害も実費です。サラリーマンであれば源泉徴収票の数字をそのまま採用します。しかし、自営業の方の算定では実収入の認定額が問題となります。また、双方、休業の対象日の決定も約款上、保険会社が決めることになります。

3、慰謝料は任意保険基準でぴったり金額が決まっています。

4、逸失利益、介護料については計算式が示してあるものの、根拠となる年収額や労働能力喪失率と喪失年数は保険会社が決めます。ここで保険会社の担当者の判断や会社の運用基準が関与します。結果として、保険会社の都合でいかようにでも計算できることになります。  

 つまり、保険会社の基準が裁判等で決まった数字と比べて著しく低くなる理由は、上記2~4の計算上、保険会社が根拠となる数字を決めるからです。それが被害者の被害の実態に即していないことが多く、特に慰謝料は金額が約款に明記されており、見ての通り一律に低いのです。  

books5 例として、後遺障害慰謝料:14級は・・・

 赤い本(≒裁判基準の相場)⇒ 110万円 に対し、

 人身傷害特約 ⇒ 50万円 (損J)  損Jに限らず、各社、ほぼ半額以下です。 続きを読む »

 さて、人身傷害特約の約款改定も触れないわけにはいきません。東京海上の発売から16年、もはや個人契約自動車保険には80%以上付帯されています。発売当初、「夢の実額補償」「過失があっても全額補償」と謳われた保険でした。

   特約について詳しくは ⇒ 人身傷害特約のおさらい

   しかし、実額補償と言っても日本では保険会社の計算する賠償金と裁判の相場ではものすごい開きがあったので、様々な矛盾、問題が噴出しました。

 その一つは、  

「人身傷害はあらかじめ保険会社が支払い基準を定めた傷害保険である」  sanmaつまり保険定食?

 これに対して、「人身傷害特約に裁判基準の賠償金を請求できないか?」

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 それでは、無保険車傷害特約の支払い基準が、人身傷害特約のように「保険会社の基準が絶対!」とせず、裁判の判決・和解の額を認める余地があるのか、つまり元に戻ったのかを確認しましょう。(わかり易くするため、加筆、修正、省略を加えています)  

無保険車傷害特約

第8条(損害額の決定)

(1)損害額は、被保険者が第2章(保険金を支払う場合)(1)のいずれかに該当した場合の、次の区分(①~③)ごとの、それぞれ普通保険約款別表3に定める損害額算定基準に従い算出した金額と自賠責保険等によって支払われる金額(注1)のいずれか高い金額の合計額とします。

① 傷害

・・治療が必要と認められる状態であること。

② 後遺障害

・・後遺障害が生じたこと。ただし、同一事故により被保険者が死亡した場合を除きます。

③ 死亡

・・死亡したこと。

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c_y_164  多くの方は「無保険車傷害特約の約款が独立した?、だから何?」と思うでしょう。しかし、相談会にやってくる被害者さんで、「相手が任意保険に加入していないので困った・・」は決して少なくない相談なのです。これは私たちのような被害者救済を生業とするものとって座視できない問題なのです。  

<無保険車傷害特約をおさらい> 

 保険に入っていない、保険が足りない、支払い能力のない加害者やひき逃げ等で相手が不明の場合、自ら加入の保険が代わりに支払います。契約自動車に乗っているとき、歩行中や自転車、他の車(任意保険に入っていない)に搭乗中でも適用されます。  契約本人はもちろん同居の親族全員が対象となります。契約自動車に搭乗中の事故であれば他人もOKです。  死亡、後遺障害の場合に限定されます。実額を補償をしますが、限度額は会社によって最高2億円、もしくは無制限です。  

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 損保ジャパン自動車保険、平成26年7月改訂で「無保険車傷害特約」が人身傷害特約の約款から離脱しました。

 長らく対人賠償特約に含まれていた(つまり自動担保)「無保険車傷害特約」が、対人賠償の約款から切り離され、人身傷害特約に吸収されたのは2年前のことでした。しかし以前の記事で指摘したように、損保側も自ら矛盾と混乱を理解したのでしょうか・・やはり支払い基準を無理やり人身傷害特約に合わせようと、同じ約款に組み込んだのは失敗だったと思います。

 結局、同特約は対人賠償の約款に戻らず、独立した条項になりました。迷走していた「無保険車傷害特約」はついに独立を果たしたのです。   yjimageU3E33L9F  こんな感慨にふけっている行政書士は日本に私だけかもしれません。興味ある方は「そして無保険車傷害特約は吸収された」を読んで下さい(長いシリーズですよ)

 まずは証券からそれぞれクリックしてご確認を、  

2年前の人身傷害特約への吸収

e8a8bce588b83続きを読む »

 交通事故による人身被害件数は年々減っていますが、自転車による加害事故はやや増加しています。相談会でもよく相談が寄せられます。相手が自転車の場合、相手に個人賠償責任保険の加入があるかが一番のポイントと思っています。今日は基本事項についておさらいしましょう。  

〇 個人賠償責任保険とは、個人が日常生活で他人(第三者)に対してケガをさせたり、モノを壊してしまったりした場合に損害賠償責任が生じた際に適用される保険です。賠償金の交渉については、保険会社による示談代行付きの保険が一般的となりました。

(例) ・ベランダで植木鉢を落として通行人に激突させてしまった場合。 ・買い物途中に、誤って商品を落として破壊してしまった場合。 ・子どもが遊んでいて誤って友達をケガさせた場合。 ・ペットが通行人にケガをさせた場合。 ・アパートの水漏れ事故で階下の部屋に損害を与えた場合。 ・自転車走行中、人や自転車・自動車に衝突してケガ、損害を与えた場合 等々 3170969

★ あくまで、日常生活での事故を対象としているものですので、業務中の事故等は対象外で、例えば、自転車による加害事故でも蕎麦屋の出前中の事故は施設賠償保険の適用とされます。  

〇 個人賠償責任保険は、通常、他の保険の特約となっています。

 何故なら、単体での販売であると、保険会社が元を取れず採算が合わなくなるからです。掛金は最高1000万円の補償でも年間1200円程度なのです。    ご自身の火災保険、自動車保険、傷害保険等の特約の有無をチェックして下さい。尚、個人賠償責任保険特約付きの自動車保険を解約すると、自動車保険と同時に、個人賠償責任保険もなくなることになります。解約の際には注意が必要です。  

〇 この保険の(一般的な)対象者は、単純に言うと、契約者本人とその家族です。

 家族の例として、契約者の夫や妻、子、その他の同居している親族(三世代で住んでいる祖父祖母等)、生計を一つにする別居の未婚の子 ※(仕送りを受けて一人暮らし中の学生さん等)、等々があげられます。このことから、家族の一人が加入するだけで、そのほかの家族も大体カバーできてしまうことが多いのです。

 したがって、家族中の保険に特約として加入されていないか探す必要があります。見落としがちなのは年会費を伴うようなクレジットカードです。これにもひっそり1000万程度が加入されているケースがあります。  

※ 別居の未婚の子・・・この別居の未婚の子とは、通学のために別居に下宿している子などが代表例です。しかし、学生に限らず、独身の40歳OL一人暮らしも範囲に入ります。このOLさんが東京で交通事故でケガをして、なんと!九州の実家の親の保険が使えるケースが有り得るのです。

 「別居の未婚の子」に年齢制限はありません。婚姻歴無のみが条件です。一度結婚し、離婚して独身になってもダメです。ですので18歳で結婚し、19歳で離婚バツ1となった人は、未成年であっても「別居の未婚の子」から外れます。なんか腑に落ちませんが、保険約款が民法の「成年擬制」の条項に準じているためと思われます。

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 なぜ、保険会社は弁護士費用特約(以下、弁特)にあえて細かい条件を付けたり、制限を加えるのでしょうか?

 先日の研修会で弁護士先生から様々な情報が上がりました。やはり不道徳な請求が後を絶たないようです。保険会社は単に払い渋りの体質で意地悪をしているわけではありません。私は請求側が「弁特を荒らした」結果と思っています。

 シリーズのおまけに研修会で聞いた1例を紹介します。  

 ある大手法人弁護士事務所に所属のβ先生が物損事故の依頼を担当しました。請求額はわずかな修理費等です。少額の依頼でも弁特がある故、事務所は引き受けたようです。本来、獲得額と弁護士報酬の兼ね合いを考慮し、費用倒れに近い案件は引き受けません。弁特があるから受任しましょう、という姿勢です。

 本件の依頼者は熊本県です。そのβ先生は東京事務所に在籍ながら、熊本まで3回飛行機を使って宿泊し、その交通費、宿泊費などの経費及び、成功報酬はタイムチャージ(業務の処理時間で報酬を計算)で請求しました。報酬の総額で獲得額を超えたはずです。もし弁特がなかったら、依頼者はこの無駄使いのような依頼を頼まなかったはずです。

 このβ先生、きっと熊本旅行がしたかったのでしょう。本件は典型的な「弁特の濫用」例として、事務所名および弁護士名が損保間で実名でさらされています。現在、その事務所は損保各社から厳しい支払いチェックを受けています。自業自得ですが、その事務所で真面目にやっている弁護士や事務員は気の毒ですね。  

 弁特は言うまでもなく被害者にとって非常にありがたい補償です。大事にしなければなりません。保険会社の弁特払い渋り、厳格化を責めるより、法律家側の不道徳な請求を問題視すべきです。

 現状、弁特の請求に対し特に抵抗なく支払われている事務所と(保険会社側から支払いを少なくするための)弁護士対応とされている事務所に二分しているようです。   kurokawa私も黒川温泉に行きたいわい!

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 先日に続き、弁護士費用特約(以下、「弁特」と略)もう一つの追加条項をみてみましょう。東京海上日動さんを例にとりましたが、今後、他社も類似条項を追加すると予想します。  

行政書士への報酬は明確に制限

 これまで弁護士費用等補償特約(日常生活)で補償していた「行政書士または司法書士による保険会社に提出する損害賠償請求のための書類作成費用」については補償の対象外とし、自動車に関する補償をご契約いただいている場合に限り、自動付帯される法律相談費用補償特約(上限10万円)で補償することとします。  

<解説>    行政書士に対して制限が加わると予想したことが現実となりました ⇒ 過去記事 

   ご存知の取り、弁特は発売後すぐに支払い対象を司法書士、行政書士に拡大しました(国内社に多く、外資・通販の多くは非対象)。しかし代理権を持たない、もしくは制限のある両資格について何をどこまで支払えるか?特に行政書士については、保険会社担当者又はセンター長の裁量により対応・解釈がバラバラでした。これは仕方のないことです。そもそも弁護士・行政書士間の業務範囲そのものに議論があるのです。これでは保険会社も迷いますよね。

 以前、損保ジャパンの担当者に行政書士に対する弁特の支払い範囲を訊ねたところ、「法律相談費用(10万円)までは担当者の判断で割と寛容ですが、本費用は要検討でしょうか・・」と歯切れ悪く答えました。特約の明文化を待たず、今までも多くの行政書士が10万円制限を受けていたようです。

 対して弁護士の報酬に対しては保険会社と弁護士会が申し合わせをしたLAC基準が存在します。また、LACを通さなくても多くは旧日弁連基準を相場としてきたようです。このような申し合わせを行政書士会から働きかけるのは困難と思います。まず先に業務範囲の線引きを弁護士会としなければなりませんが、そのような積極的な動きは皆無です。やはり交通事故における行政書士のスタンスはその権限からあくまで補助的です。

 しかし保険会社の示す制限について私は好意的に受け止めています。なぜなら、先日の「非常識弁護士」以上にめちゃくちゃな報酬請求をしている行政書士の話を多く耳にするからです。報酬自由の原則があるにせよ、自賠責保険の請求書の代書だけで弁護士並の報酬を設定している先生が多いのです。やはり報酬に見合った仕事、依頼者が納得する仕事が求められます。そして「弁特があるから契約を」=依頼者さまはお金がかからないのだからとりあえず契約をしましょう・・このような契約勧誘は不健全ではないでしょうか。  

 弊所の依頼者さまは弁特加入の有無、さらに弁特からの支払い額如何で依頼を躊躇しません。すべての依頼は病院同行や検査誘致、診断書・画像分析等、専門性を評価いただいた結果です。資格云々を評価しているわけではありません。弁護士事務所からの依頼についても同様で、常に技術的に高度な調査業務が期待されています。そこには弁特の有無など考慮している場合ではない被害者の窮状があるからです。   20140508  20140508_3続きを読む »

 今年の秋、10月から各損保会社は自動車保険の約款改定を行います。昨年のノンフリート等級改定に比べれば細かな改定ですが、以前から要望が高かった弁護士費用特約もその対象です。以下、東京海上日動さんの内容を抜粋します。支払い内容についてより具体的な条項が加わった印象です。  

弁護士費用等補償特約(日常生活)の改定

   弁護士費用を算定する場合において、一般的にはその費用算定の対象に含まれない以下a.b.の額に対する費用は、弁護士費用等補償特約(日常生活)の補償の対象外とします。  

a.保険金の受取人が損害賠償請求を行った額のうち、補償を受けられる方の過失により減額された額  

b.損害賠償の額のうち、既に保険金の受取人が受領済みの額  

 c_y_184 

<解説>

 a.の内容は「依頼者側の過失割合により減額された賠償金分は報酬計算の対象金額ではないですよ」とのことです。報酬とは相手から勝ち取った金額からのボーナスですから、常識的にa.の通りですよね。  また、仮に自身が契約している人身傷害特約に「過失減額された分を請求・補てんしたとしても、この補てん額は弁護士の交渉で獲得した金額ではない」と念を押されそうです。

 b.の内容は、「依頼者側がすでに相手の保険会社から受け取ったお金や、自身が加入している人身傷害特約から受け取った保険金は報酬計算の対象から引いて下さい」との意味です。これらは弁護士の介入に関わらず支払いが受けられたお金なので、弁護士の仕事の成果ではなく当然に差し引くことになります。

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 相変わらずJAさんの認定はキビシイです。誰が見てもおかしな判定を異議申立で正しました。

  【事案】

歩行中、後方よりの自動車に撥ねられ、頭部と首を受傷。数日後、慢性硬膜下血腫を併発、またCT検査で頚骨の椎弓骨折が判明。幸い予後の経過よく、手にしびれを残すも仕事・日常生活に復帰する。

【問題点】

相談のきっかけは相手保険会社であるJAから140万円ほどの示談金提示があり、「この数字で示談して良いのか?」見て欲しいとのこと。後遺障害等級は14級9号。ケガの重篤度と残存する症状から、「これはないな」と直感。

【立証ポイント】

椎弓骨折と頭部の内出血、つまり器質的損傷がある上、しびれなど自覚症状も重篤であること。これでなぜ12級とならないのか憤慨。早速、主治医と面談、再検査等を踏まえ、周到に医証を収集し異議申立。依頼者さんは穏やかな人柄で、「14級でもいいですけど・・」と謙虚。しかしあるべき結果、12級13号の認定に変更させる。

続いて連携弁護士に引き継いだ。しかし弁護士の請求額とJAの回答は桁が違うほど相容れない。したがって紛争センターにて逸失利益の赤本満額獲得を争点に戦う。弁護士は秋葉から引き継いだ「異議申立で明らかとなった障害の原因、経過、程度」を理路整然と主張。画像所見を突きつけ、JAの見解、JA顧問医の意見書を一蹴。このように医学的考察を踏まえた交渉を続けた結果、見事、満額の慰謝料はもちろん、67歳まで満額の逸失利益を勝ち取る。金額は1500万を超えた。最初の140万提示はなんだったのか。

後遺障害等級を軽く判断されたら大変なのです。そして後遺障害に精通した弁護士が妥協なき交渉をしなければ、なめた金額で示談させられる現実があります。

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 骨折箇所が多く、それぞれ等級が付いても、併合のルールでそれほど等級が上がらないことがあります。14級はいくら認定されても14級まで。12級以上が複数認定されても上位等級に一つあがるだけ。8級が二つ以上なければ2等級上位併合しません。1~2か所の受傷で9級認定された被害者に比べ、3つ以上のケガで等級が付いたものの同じ9級止まりの被害者はそれなり苦痛も多く、同じ等級でも公平に思えないことがあります。これは後の損害賠償で弁護士が等級以上の苦痛の程度を主張することになります。  

事案】

 バイクで直進中、交差点で左方より一時停止無視の自動車と衝突、左橈骨遠位端骨折、左尺骨開放骨折、肩甲骨骨折、第一胸椎横突起骨折、右腓骨外顆骨折、第7頚椎骨折、肋骨骨折、鼻骨骨折となる。骨折箇所の多さでは過去1、2位の多さ。  

【問題点】

 骨癒合は概ね良好ながら、ここまで折れると体幹バランスの異常、様々な神経症状が残存する。具体的にはめまいやふらつき、体幹の傾斜、頭痛、軽度の顔面神経麻痺と嗅覚障害もあるよう。これらを評価する等級は12級13号が限度、さらに本人の生活上の問題から早期に症状固定し、職務復帰を急ぐことになった。  

【立証ポイント】

 可動域制限を正確に計測するのみ。まず手首10級+肩関節12級で上肢は9級を確保。嗅覚について、専門医の診断では事故との因果関係に疑問はあったが、これだけのケガなので14級の認定は得た。その他の部位について、可動域は正常値レベルに回復、さらに癒合良好のため神経症状も12級に届かず。このように上肢以外は14級のオンパレード、あと一つ上位併合させることができなかった。しかし本人が解決を急ぐため、即弁護士に引き継いだ。  私としては回復も認定等級も中途半端な印象が残った案件であった。 pics260

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部位別解説 後遺障害等級認定実績(初回申請) 後遺障害等級認定実績(異議申立)

今月の業務日誌

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