内耳器官の損傷から、難聴、耳鳴り他症状が発症しました。

 交通事故110番で相談を受けた3例です。      (4)中耳・内耳器官損傷の実例   【1】11歳女児童 ~ 右難聴、手術で回復の実例

 自転車を運転中に原付バイクと接触、転倒した際に、右側頭部を打撲しています。救急搬送時、意識消失があり、右耳出血が認められています。

 初診時の右側頭部の単純XP撮影では、骨折などの異常所見は認められていません。受傷1週間後より右難聴、耳閉感を自覚するようになり、40日後に神経耳鼻科を受診しています。

 右側頭部のターゲットCT撮影で、外耳道骨壁に骨折線を認め、キヌタ骨は前方に回転し、キヌタ・アブミ骨関節の離断が確認されたことから、鼓室形成術が選択されました。Ⅲ型の鼓室形成術により、聴力は40dBから24dBに改善しています。 難聴は、後遺障害を残すことなく治癒しました。   【2】50歳男性 ~ 左難聴は手術で回復も、耳鳴り・醜状痕での認定

 友人の運転する乗用車の助手席に同乗中、左方向から出合い頭で衝突を受けた。事故直後、意識消失と左耳出血があり、左聴力低下、耳鳴り、左顔面神経麻痺と診断されています。耳出血は治癒し、めまいはなく、難聴と耳鳴が持続するため1カ月後、神経耳鼻科を受診しています。

 CT撮影で、外耳道後壁に骨折線を認め、鼓室形成術が選択されました。術時の所見では、ツチ骨はやや後方に転位し、キヌタ骨は内後方に倒れ、キヌタ・アブミ骨関節は離断しており、Ⅲ型鼓室形成術が行われました。手術後の聴力は、66dBから39dBに改善しています。

 術後7カ月で症状固定とし、耳鳴りで12級相当、顔面神経麻痺は、醜状障害として12級14号、併合11級が認定されました。   【3】34歳女性 ~ 右難聴は手術で改善、耳鳴りを残し障害認定

 34歳、女性専業主婦ですが、原付で走行中、商店街の交差点で、左方向からの乗用車の衝突を受け、投げ出されて、右後頭部から側頭部を歩道の縁石で打撲しました。救急搬送時に意識障害があり、右耳の出血を認めています。

 右側頭部の単純XP撮影では、異常所見が認められていません。入院直後は、頭を動かすと、天井が時計回りに回転するなどのめまいと、右難聴、耳鳴り、耳閉感を自訴しましたが、3日後には、めまいは消失しています。右難聴、耳鳴、耳閉感が続くため、右側頭部のCT撮影を実施、右外耳道から上鼓室にかけて骨折線が確認できました。鼓室形成術時の所見では、キヌタ骨が内前方へ回転し、キヌタ・アブミ骨関節が離断しており、アブミ骨底板より外リンパ液の流出が認められました。

 Ⅲ型の鼓室形成術を実施、術後の聴力は、48dBから31dBに改善しています。術後6カ月で症状固定とし、耳鳴りで12級相当が認定されました。   <コメント>  上記の3例は、いずれも単純XP撮影では、側頭骨の骨折が確認されていません。傷病名は、3件とも、頭部外傷Ⅱ型、側頭部打撲となっています。しかし、事故後の意識障害や耳出血を重視し、神経耳鼻科を受診したことが功を奏しました。いずれも、ターゲットCTで微少な骨折線と耳小骨連鎖の離断が確認され、早期の鼓室形成術により、後遺障害を最小限に押さえ込むことができたのです。

 その他に、むち打ちうや側頭部打撲程度で、難聴・耳鳴り・耳閉感を訴える被害者はたくさんおられますが、ほとんどは一過性であり、症状を6カ月も残すことはありません。やはり、頭蓋骨骨折、意識障害を伴う脳損傷、耳出血を起こすほどの中耳・内耳器官の損傷、これら強い外力が働かないと、耳小骨の損傷には結びつかないと推測しているところです。  

※ 鼓膜 続きを読む »

 前回の外傷性鼓膜穿孔はじめ耳の中耳器官、内耳器官の損傷によって引き起こされた難聴、脳損傷による難聴、神経系統のダメージによるもの、原因不明や単に老化現象(加齢性難聴)によるもの・・実に様々な難聴を経験してきました。    頭部や耳に直接の損傷があれば、仮に検査が遅れても難聴は信用されます。ただし、むち打ち等、打撲・捻挫程度の診断名から難聴を訴える場合、その立証は困難を極めます。受傷初期からの訴えに加え、専門科の受診と検査の実施が必須です。

 耳鼻科の受診が初期からで、症状の一貫性があれば、それなりに信憑性は保ちますので、等級級認定の余地を残します。逆に、3カ月も過ぎてからの耳鼻科受診では赤信号です。総じて、相談の遅れから手遅れになることも多いのです。   (1) 難聴の種類

 難聴には「感音性」、「伝音性」、「混合性」、「機能性」があり、後遺障害診断書では、「機能性」以外の3つしか記載がありません。機能性は心因性と判断されます。そうでなければ、詐病も疑われます。   ○ 感音性難聴とは、内耳やそれよりも奥の中枢神経に障害がある場合に起こるとされています。特徴としては、高音域の音が聞こえにくくなったり、複数の音を一度に聞いたときに特定の音を聞き分けることが困難になります。主な原因としては先天性や老化、騒音によるもの、薬の副作用、頭部外傷、メニエール病などが考えられます。感音性難聴は治療によって回復することがあまりなく、補聴器を使用しても聴力を補うことは難しいとされています。   ○ 伝音性難聴とは、外耳や内耳が正常に機能しなくなり音が伝わりにくくなるものをいいます。中耳炎など主に内耳の疾患が原因とされていますが、耳小骨の奇形など先天的な原因も挙げられます。特徴としては、耳の閉塞感や通常の音が聞こえにくくなる(ただし、大きな音は聞こえることが多い)といった症状があります。伝音性難聴は手術や治療によって回復する可能性がありますし、補聴器などを使用すれば問題なく生活できるようです。   ○ この感音性と伝音性の要素を持ち合わせているのが混合性難聴です。   ○ 機能性難聴とは、器官に障害がないにもかかわらず、聞こえが悪くなるものをいいます。不安やストレス、自律神経の乱れなどが原因とされていますが、よく分かっていないのが現状です。一過性のものが多く、投薬などで経過をみることになります。自賠責の認定も遠くなります。   (2)難聴の後遺障害等級表

<難聴の後遺障害等級表>

 

<両耳の聴力レベルと最高明瞭度との組み合わせによる認定基準一覧表>

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 外傷性鼓膜穿孔(こまくせんこう) ・・・いわゆる「鼓膜が破れた」ことになります。  

 前回、③ 耳鳴りで音の流れと聞こえのメカニズムを解説しました。   1、ヒトが音を聞くとき、まず音が外耳から鼓膜に伝わります。   2、鼓膜は、音によって振動し、その振動は、つち骨・きぬた骨・あぶみ骨の耳小骨によって増幅され、   3、音は、内耳の蝸牛(かぎゅう)に届きます。   4、蝸牛は音を電気信号に変換し、聴神経を通じて脳に伝えることで、脳は音として認識するのです。   ※ 蝸牛  音を感じ取る蝸牛の中は、リンパ液で満たされています。中耳から伝えられた振動はここで液体の波に変化し、液体の波は、有毛細胞によって電気信号に変換され、聴神経から大脳へ伝えられています。衝撃波により、鼓膜だけでなく耳小骨まで損傷することがあります。 続きを読む »

(1)病態

 耳の後遺障害では、耳鳴りの訴えがダントツです。秋葉事務所でも脳損傷や顔面の骨折など、明らかに耳・聴覚にダメージが予想されるケースはもちろん、むち打ちなどでも耳鳴りを立証してきました。実績ページをご覧いただくと後者の苦労がお分かりかと思います。    まずは、どうして耳鳴りが起こるのか?について・・   1、ヒトが音を聞くとき、まず音が外耳から鼓膜に伝わります。   2、鼓膜は、音によって振動し、その振動は、つち骨・きぬた骨・あぶみ骨の耳小骨によって増幅され、   3、音は、内耳の蝸牛(かぎゅう)に届きます。   4、 蝸牛は音を電気信号に変換し、聴神経を通じて脳に伝えることで、脳は音として認識するのです。      そして、耳鳴りとは、実際に、ジンジン、キィーンの音が鳴っているのではなく、脳が音を感知できないことにイライラし、電気信号を増幅しているのです。つまり、ヒトは、脳が反応して送り出している電気信号を耳鳴りと感じているのです。したがって、耳鳴りの基礎には、「聞こえないこと=難聴」が存在しているのです。

 自賠責保険は難聴のない耳鳴りに原則、等級はつきません。    (2)症状

 被害者の多くは、昼間はなにも感じないが、夜、布団に入るとジンジン、ザワザワとして眠りにつけないと訴えています。    秋葉事務所では、最初に耳鳴りの具合を以下のように質問します。

 「耳鳴りは、”ざわざわ”ですか? それとも”キーン”でしょうか?」    ⇒ ざわざわの場合、事務所では「セミ系」と呼び、低周波域の耳鳴りと想定します。

 ⇒ キーンの場合、事務所では「金属系」と呼び、高周波域の耳鳴りと想定します。

 稀に双方、併存(時によって変わる)被害者さんもおりましたが、おおよそ、二つに大別しています。   (3)治療

 精神安定剤、ビタミン剤、血管拡張剤などの内服、内耳の神経細胞の異常興奮を静める目的で局所麻酔剤を静脈注射すること、95%の酸素に5%の炭酸ガスを混合したものを30分間吸入し、内耳の血流を改善する混合ガス治療、自律神経のバランスを取り戻し、血流を増加させる星状神経節ブロックなどが行われていますが、いずれも、対症療法であり、著効は期待できません。

 最近では、治すよりも馴れる方向で様々な療法が研究されており、TRT療法は、その最たるものです。   ※ TRT、耳鳴り順応療法  耳鳴りの音に順応、馴化させるように脳を訓練する療法で、TCI、耳鳴り制御機器を使用します。   (4)後遺障害のポイント   Ⅰ.

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 耳介裂創(じかいれっそう) 耳垂裂(じすいれつ)     (1)病態

○ 耳介裂創

 耳介が強く擦られると、耳介血腫を引き起こすことは、前回で解説しています。前回は、耳介の強い擦過傷による耳介血腫でしたが、今回は、耳たぶが切れたもの、引き千切られたものを耳介裂創と呼びます。    続きを読む »

 耳介血腫(じかいけっしゅ)

     (1)病態

 耳介は、軟骨の上に、軟骨膜と皮膚を貼り付けたような形であり、耳介が強く擦られると、皮膚と軟骨の間が剥がれて隙間ができ、そこに血液が溜まって、紫色に腫れ上がります。溜まった血液=血腫が、軟骨への血液供給を遮り、軟骨は壊死して耳が変形するもので、傷病名は、耳介血腫といいます。

 この変形は、力士耳、カリフラワー耳と呼ばれ、相撲、柔道、レスリング、ボクシング、ラグビーの選手によく見られます。確かに学生時代、柔道部の仲間にみられました。彼らは変形した耳を「餃子耳」と呼んでいました。

 交通事故の場合、歩行者、自転車やバイクの運転者が転倒した際、路面に耳を挫創するケースが想定されます。   (2)治療

 穿刺、吸引で血液を除去し、穿刺針を2週間ほど留置する方法や耳介の後面を切開、軟骨を除去することで、前面の血腫を除く形成術が実施されています。

 隙間に溜まった血液は、注射針で吸い取っても、直ぐに、血液が溜まってくるのです。完璧に治癒させるには、隙間をなくす形成術を受けなければなりません。耳介血腫を繰り返すと、その隙間を埋めるように、軟骨が盛り上がり、耳介が変形します。耳介の変形では、形成術で、新しくできた軟骨を切除する治療となります。

 放置すると、元に戻ることはありません。耳介は硬くなり、付け根が切れやすくなります。   ※ 耳介  耳介は、軟骨の折れ曲がるヒダにより、集音と音の方向性の確認に有効な役割を果たしています。耳たぶは、ヒダの凸凹で音の違いを拾い、共鳴させることにより、音を外耳道に送り込んでいます。耳介の後に手をかざすと、音が大きく聞こえるのですが、耳介は、集音作用の働きをしています。    「 私の耳は貝のから、海の響きをなつかしむ 」    フランスの詩人、ジャン・コクトーの詩を、堀口大学さんが訳したもので、心に響く2行の詩です。耳介は、貝殻に似ています。   (3)後遺障害のポイント

 耳介裂創のところで、まとめて解説しています。     次回 ⇒ ② 耳介裂創  

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(4)後遺障害のポイント   Ⅰ. 交通事故外傷では、上手に修復されたとしても、多くで、複視を残します。骨折部分や骨の欠片が、眼を動かす筋肉やその筋肉を支配している神経などを損傷させ、これらの筋肉などの損傷では、眼を上下左右に適切に動かせなくなり、モノが2重に見える複視が生じるのです。複視には正面視での複視、左右上下の複視の2種類があります。

   検査には、ヘスコオルジメーター=ヘススクリーンを使用し、複像表のパターンで判断します。

ヘスコオルジメーター

   複視の後遺障害の認定要件は、以下の3つとなります。   ① 本人が複視のあることを自覚していること、   ② 眼筋の麻痺など、複視を残す明らかな原因が認められること、   ③ ヘススクリーンテストにより患側の像が水平方向または垂直方向の目盛りで5°以上離れた位置にあることが確認されること、    正面視で複視を残すものとは、ヘススクリーンテストにより正面視で複視が中心の位置にあることが確認されたもので、正面視以外で複視を残すものとは、上記以外のものをいいます。

 複視は、眼球の運動障害によって生ずるものですが、複視を残すと共に眼球に著しい運動障害を残したときは、いずれか上位の等級で認定することになります。正面視の複視は、両眼で見ると高度の頭痛や眩暈が生じるので、日常生活や業務に著しい支障を来すものとして10級2号の認定がなされます。

 左右上下の複視は正面視の複視ほどの大きな支障は考えられないのですが、軽度の頭痛や眼精疲労は認められます。この場合は13級2号の認定がなされます。

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 眼窩底骨折(がんかていこっせつ)

 予想される障害 ⇒ 眼球運動障害・複視・視野障害・眼球陥凹・瞼裂狭小化・眼窩下神経領域の知覚障害     (1)病態

 眼窩底は厚みが薄く、紙と例えられており、外傷で容易に損傷し、眼窩内容物が上顎洞に侵入することも頻繁です。しかし、生物学的には、これにより、眼球破裂を回避しているのです。

※ 眼窩内容物  眼窩とは、頭骨の前面にあって眼球が入り込む窪みですが、眼窩内容物とは、眼球や視神経・外眼筋・涙腺などの付属器神経、血管、脂肪などのことで、眼窩では、これらを収納し、保護しています。

 眼窩を構成する骨は、頬骨、上顎骨、涙骨、篩骨、前頭骨、口蓋骨、蝶形骨の7つで、眼窩の上縁と下縁はそれぞれ前頭骨と上顎骨によって形成されています。前頭骨と上顎骨は、強度があり、骨折し難いのですが、眼窩底は厚みが薄く、とりわけ篩骨は、外傷で容易に骨折してしまいます。眼窩底破裂骨折は、吹き抜け骨折とも呼ばれ、特に、眼窩内側と眼窩底に多発しています。   (2)症状

 ふきぬけ骨折では、眼窩内の出血が副鼻腔を介して鼻出血を生じることもあり、眼球運動障害、複視、 視野障害、眼球陥凹、瞼裂狭小化、眼窩下神経領域の知覚障害を発症することがあります。

 交通事故では、歩行者、自転車、バイクの運転者に多く、顔面を強く打撲することで、発症しています。眼窩底破裂骨折では、事故直後に眼球が陥凹、あっという間に、眼窩内出血やまぶたの腫脹によって眼瞼が狭小化していき、ゾンビ状態となるのですが、これを目の当たりにした暴走族の彼女が、白目をむいて気絶したなんて、笑えないお話しも、無料相談会では聞かされています。しかし、眼球自体には、損傷がおよばないことがほとんどです。

 直後の症状では、眼球の上転障害がみられ、これに伴う複視や視野障害、眼窩下神経領域の感覚障害により頬から上口唇のシビレ、眼球陥没、痛み、骨折部分の腫れ、皮下気腫、目の周りの青紫色のあざ、鼻出血、眼球下垂、球後血腫、眼球内陥、視野狭窄、吐き気などがあります。   ※ 球後出血  眼窩骨折では、骨折で傷ついた血管から出た血が溜まることがあり、これを球後出血と呼びます。そうなると、眼球や視神経、眼球に出入りする血管が圧迫されて視力障害を起こすことがあります。   ※ 眼球陥入、眼球内陥、眼球陥没  眼窩壁の骨折が広い範囲におよぶときは、眼球が眼窩の中に沈み込みます。このことを眼球陥入などと言います。   (3)検査・治療

 検査は、顔面の単純XP、内側壁骨折に対してはCTが有効です。頭部CTでは、3DCTで眼球陥凹と内側壁骨折所見がハッキリと描出されます。頭部外傷では、MRI撮影も必要です。

 眼窩底破裂骨折は、頭蓋骨骨折ですから、脳神経外科の対応が必要です。脳震盪、脳挫傷、眼窩下神経障害、視神経障害を合併することがあり、神経質な対応が必要です。

 眼窩底骨折の治療は、骨折した部分の整復手術です。骨の損傷が軽度では、骨を整復して眼窩内容物を落ないように固定します。    手術が必要なのは、以下の2つです。   ① 骨折した部分に眼球周囲の筋肉や眼窩内の軟部組織が挟まり、複視が生じているとき、   ② 眼球が眼窩内に陥入しているとき、    骨の損傷が重度では、チタン製やシリコン素材などで作られた補正用プレートを眼窩内に入れ、眼球を支える土台を作ることもあります。腸骨からの骨移植で、骨癒合を促進させることも実施されています。その他に、上顎洞バルーン、分かりやすくは風船素材を鼻腔内に3~4週間挿入し、眼球を支えるオペも行われています。

 鼻出血では、鼻をかむことを避ける指示がなされ、代わりに、スプレー式点鼻薬が使用されています。また、骨折がごく軽度では、手術を見送り、経過観察をすることもあります。    つづく ...

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(1)病態

 眼球には、角膜と水晶体の2つのレンズがあります。いずれも無色透明の組織で、角膜は、形が変わらない固定レンズ、水晶体は、見るものの距離に応じて厚みが変わる可変レンズの役目を果たしています。

 外界からの光は、角膜で70%程度の屈折を完了し、残りの30%は水晶体で行っています。水晶体自体では、厚みを変化させることはできず、このレンズに、周りから力を加えているのが毛様体とチン小帯=毛様小体です。

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 水晶体亜脱臼(すいしょうたいあだっきゅう) ⇒ 複視  

(1)病態

 カメラで言えば、レンズの役目を果たしているのが水晶体ですが、この水晶体が正しい位置からずれた状態を亜脱臼、完全に外れてしまった状態を脱臼といいます。具体的には、水晶体は、チン小帯と呼ばれる細い糸で眼球壁に固定されています。

 チン小帯のもう一方の端は虹彩につながる毛様体に付着し、虹彩の後方、瞳孔の中心に位置するように固定されているのです。水晶体が完全に支えを失って後方の硝子体の中に沈み込む、瞳孔を通って虹彩の前に飛び出たものを水晶体完全脱臼、一部の支えを失って、下方に沈んだときは、亜脱臼といいます。ズレの方向によって、前方脱臼、後方脱臼、側方脱臼などともいわれています。   ※ チン小帯

 チン小帯とは、毛様体と水晶体の間を結び、水晶体を支える働きをしています。

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(4)後遺障害のポイント   Ⅰ.  まぶしさ

 外傷性虹彩炎では、軽度なものが多く、後遺障害を残すことは稀ですが、虹彩離断となると、かなり高い確率で、視力低下、複視、まぶしさ、瞳孔不整形の後遺障害を残します。

 まぶしさ=羞明については、瞳孔の対光反射が著しく障害され、著明な羞明により労働に支障を来すものは、単眼で12級相当、両眼で11級相当が認定されています。

 瞳孔の対光反射は認められるが不十分であり、羞名を訴え労働に支障を来すものは、単眼で14級相当、両眼で12級相当が認定されます。 いずれも、対光反射検査で立証します。  

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 虹彩離断(こうさいりだん)  

↑ 茶目=虹彩が断裂しています

(1)病態

 交通事故の鈍的外傷により、虹彩が離断されたもので、ほとんどで、前房出血を伴います。シートベルトをクリップで挟み込み、身体をあまり締め付けない状態で運転しているドライバーを見かけますが、正面衝突でエアバッグが膨らんだ際に、虹彩離断を発症した例があります。シートベルトをクリップで挟み、ユルユルにしていたことが分かれば、人身傷害保険は無責、対人保険であっても、無責、もしくは減額とされることが確実で、勝手な自己判断は、慎まなければなりません。   (2)症状

 外力による圧力で、茶目が引き伸ばされ、引き裂かれたものと覚えてください。瞳孔は、正円をしていますが、離断した虹彩に引っ張られて、不整形となります。茶目の全周が離断すると、外傷性無虹彩症と呼んでいます。外傷性虹彩炎よりは重傷で、視力低下、まぶしさ=羞明や眼圧の上昇などの症状が現れます。   (3)治療

 視力、眼圧、細隙灯顕微鏡検査、眼底検査などが実施され、外傷性虹彩炎、高眼圧、硝子体出血、網膜剥離などの合併症の有無を確認し、治療は、散瞳薬、ステロイド薬の点眼で炎症を鎮め、高眼圧に対しては、点眼および内服治療が行われています。大きな離断では、瞳孔偏位や多瞳孔症も予想され、単眼複視や眩輝、羞明の症状が出現します。

 虹彩離断は、しばしば隅角後退を伴い、緑内障や前房出血の原因ともなっています。著しい複視、眩輝、瞳孔の不整形を生じている大きな剥離、離断では、まぶしさと視界の改善を目的に、虹彩剥根部の縫合術が行われています。   ※ 隅角検査 ・・・隅角とは、正面から見えない、角膜と虹彩の根元が交わる部分であり、細隙灯顕微鏡で検査します。隅角には、眼圧を調節する房水の排出口があり、隅角検査は、緑内障を診断する上で欠かせない検査となっています。外傷性虹彩離断では、隅角が後退するリスクがあり、眼圧亢進は、隅角後退を原因としています。   ※ 房水・・・眼内組織に栄養を運ぶ液体を房水と呼んでいます。   ※ 多瞳孔症・・・多瞳孔症=重瞳(ちょうどう)は、1つの眼球に、瞳が2つ認められることです。

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 涙小管断裂(るいしょうかんだんれつ)  

(1)病態

 まぶたの中の涙腺から分泌された涙液が過剰となったときは、それが鼻腔へ排出される経路=涙道が、人体には備えられています。涙道は、涙点、涙小管、涙嚢、鼻涙管で構成されています。目に溜まった過剰な涙は、目頭にある吸入口=涙点から吸収され、涙小管を経て眼窩下壁の窪み=涙嚢に溜まり、そこから鼻涙管を経て鼻腔へ排出されているのです。   (2)症状

 これらの経路が、外傷などで損傷を受けると涙道損傷を来します。放置すると、涙道は連続性が絶たれ、涙液の鼻腔への排出ができなくなり、涙は内眼角付近からこぼれ、頬を伝って落ちるようになります。流涙が続くことになります。

 涙液には眼球の乾燥防止と眼球や眼瞼結膜の清浄化する作用があります。流涙が生じた側では、涙液の正常な排出機能が無くなり、結膜の清浄化が損なわれ、眼脂が溜まりやすくなり、結膜炎を起こしやすくなります。結膜炎が生じると、涙腺は一層刺激され、さらに涙液を分泌するようになります。涙道の閉塞した目は、結膜炎で赤くなり、常に涙を垂れ流しながら生活をしなければなりません。

 これらの損傷は、主として、涙小管と鼻涙管で生じます。涙小管断裂は、交通事故で目頭を深く切ったときに発生しています。   (3)治療

 断裂した管の遠位・近位端を縫合して管を再建し、管内へシリコン製のチューブを挿入して管の癒着や狭窄の防止をはかります。挿入期間は損傷の程度によって異なりますが、短くて2週間、長ければ6カ月以上のこともあります。最初の治療で、管の損傷が見逃された陳旧例では、管の再建は非常に困難となります。初期治療での管の再建が大切です。

 鼻涙管損傷は鼻涙管が走行する上顎骨が骨折、骨片がずれることで、管が閉塞した状態をいいます。鼻涙管損傷では、上顎骨を適切に整復すれば管も再開通しますが、不適切な整復では閉塞したままとなり、このときは、涙嚢から鼻腔へ直接涙が排出する経路を設ける、涙嚢鼻腔吻合術が行われます。

 上記の治療で、涙道が再開通すれば、流涙は消失し、眼脂の付着や結膜炎などの付随する症状は軽快するのですが、どこででも受けられるオペではありません。交通事故による涙小管断裂では、多くの治療先で経験則が乏しく、放置されています。また、損傷が大きく、オペができないことも発生しています。   (4)後遺障害のポイント

 涙小管断裂により、1眼に常に流涙が認められるものは14級相当が認定されています。なお、涙小管断裂による流涙が両眼に残存しているときは12級相当が認定されます。ただし、流涙を残す眼や両眼が失明したときは、いずれも、流涙による等級の認定はありません。    交通事故110番では、散髪屋さんのご主人で涙小管断裂の相談例があります。彼は、左膝の高原骨折で10級11号が認定されており、これが損害賠償の基本となりました。涙小管断裂による14級相当はおまけの扱いでしたが、現実の理髪業では、涙小管断裂による、絶え間のない流涙が大きな支障となっていました。

 左膝の高原骨折による疼痛と可動域制限は、補助椅子に座ることで解決できたのですが、流涙を止めることができないので、常に、ガーゼで目を拭わなければなりません。実際に、弁護士が苦労したのは、休業損害と逸失利益の基礎収入の算出で、税務申告は、かなりな過少申告で参考になりません。現実収入を証明する証票はなく、帳簿の記載もなかったのです。

 6カ月を要して、実績の積み上げを行い、損害賠償につなげたのですが、涙小管断裂による支障を損害賠償で実現するところまで漕ぎ着けませんでした。私は、今でも、支障のれべるから、14級の評価は低すぎると考えています。   続きを読む »

 この仕事におけるマーフィーの法則ですが、何故か同じ傷病名の相談・受任が、一定期間に重なります。

 首の骨の2番目軸椎の突起部を歯突起と呼びます。折れやすい所ではありますが、それなりに珍しい骨折部位です。同時期にこの骨折の相談が相次ぎました。  本件、完全な癒合をみなかったところから、穏当に脊柱の変形に収めました。一歩間違えば命に係わる部位の骨折です。11級で済んで不幸中の幸いかもしれません。   尺骨茎状突起、歯突起、載距突起・・・突起部の骨折が多い年でした  

11級7号:軸椎歯突起骨折(80代男性・埼玉県)

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 外傷性散瞳(がいしょうせいさんどう)    想定される障害 ⇒ 羞明(しゅうめい)・・・ 普通の人がまぶしいと感じない光をまぶしいと感じる状態をいいます。

 

(1)病態

 先に、虹彩について、カメラの絞りに相当するもので、自律神経が瞳孔の散大筋、括約筋をコントロールし、明暗により眼に入る光の量を自動的に調節していると解説しています。

 交通事故で、眼に鈍的打撲を受けると、ときとして、瞳の大きさを調節する筋肉が機械的な損傷を受け、ることがあります。散大筋、もしくは括約筋の損傷により、瞳の大きさを調節することができず、瞳が大きくなったままの状態を外傷性散瞳といいます。

 時間の経過で、徐々に回復することも報告されていますが、筋肉の損傷では、現実的には、治療の方法がありません。   (2)症状

 明るいところに出ても、瞳を小さく調節することができず、まぶしさや像のぼやけの症状が出現し、散瞳が大きければ、この症状は強くなります。まぶしさから逃れるには、虹彩付きのコンタクトレンズを装用することになります。

 散瞳および虹彩根部の損傷によって外傷性の続発性緑内障を発症することも予想されます。逆に、瞳が小さくなる、外傷性縮瞳となることもあります。   (3)後遺障害のポイント   Ⅰ.

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 外傷性虹彩炎(がいしょうせいこうさいえん)     (1)病態

 前房は、虹彩と透明な角膜の間の部分をいい、虹彩は、前房を含む目の前側部分を言います。外傷性虹彩炎とは、打撲による茶目の部分=虹彩の炎症であると覚えてください。   (2)症状

 交通事故によるまぶた部分の鈍的外傷で、虹彩に炎症が生じると、前房出血を伴い、羞明や、流涙、強い目の痛み、充血、視力低下などの症状が現れます。虹彩炎の合併症には、白内障や緑内障、そして虹彩以外の部分への炎症の波及なども予想され、これらの合併症は視力の低下、ときには、失明に至るので神経質に対応しなければなりません。   続きを読む »

   外傷性斜視(がいしょうせいしゃし)  

  左から内斜視・外斜視・上斜視・下斜視

  (1)病態

 斜視には、内斜視、外斜視、上斜視、下斜視の4種類があります。    片目が正常な位置にあるときに、   ① 内斜視とは、もう片方の目が、内側に向いている、   ② 外斜視とは、もう片方の目が、外側に向いている、   ③ 上斜視とは、もう片方の目が、上側に向いている、   ④ 下斜視とは、もう片方の目が、下側に向いている状態のことです。    自動車や自転車、歩行中の交通事故などで、頭部、眼部に対する強い打撃により斜視となることがあり、外傷性斜視といわれています。

 眼窩底ふきぬけ骨折は、斜視を伴う代表的な傷病名です。頭部外傷、外傷性くも膜下出血では、外転神経などの視神経が影響を受け、眼球運動に障害が起こることもあります。

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 滑車神経麻痺(かっしゃしんけいまひ) ⇒ 複視     (1)病態

 眼球を内側に向け、引き続き下に向けるとき、つまり自分の鼻を睨むときに働く筋肉が上斜筋です。眼球を動かす神経の1つ、滑車神経=第4脳神経が上斜筋を支配しており、上斜筋の麻痺は、すなわち滑車神経麻痺となるのです。

 交通事故では、バイクの運転者の頭部外傷、側頭骨骨折、眼窩壁骨折を原因として発症しています。   (2)症状

 麻痺した側の眼は、内側と下側に動かないので、片方の像がもう片方の像より少しだけ上と横にずれて見える複視が出現し、階段を下りるのが困難になります。階段を下りるには、内側と下側を見る必要があるからです。しかし、麻痺が生じている筋肉と反対方向に頭を傾ければ、複視を打ち消すことができます。この姿勢をでは、麻痺していない筋肉により、両眼の焦点を合わせることができるからです。   (3)治療

 CT、あるいはMRI検査で確定診断が行われています。治療としては、上下のズレにつき、プリズムレンズの眼鏡による補正が行われていますが、これでは、傾きの補正できないのが難点です。眼の体操でやや改善が得られることもありますが、複視の根治には、上直筋の下方で、この筋肉を縫い縮める手術が実施されています。   (4)後遺障害のポイント   Ⅰ.

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 外転神経麻痺(がいてんしんけいまひ) ⇒ 複視の障害     (1)病態

 外転神経は、外側直筋を収縮させ、眼球を外側に向かって水平に動かします。眼球の運動に関わる神経は、ほかに動眼神経、滑車神経がありますが、正常な視機能を成立させるには、脳の命令にしたがって眼球を的確に動かすことが必要となります。例えば、両眼を連動させ、常に同じ視野を捉えていなければ、モノが2つに重なって見えることになり、正しい立体感も得ることができなくなります。   (2)症状

 交通事故による頭部外傷で、外転神経が麻痺すると、眼球は外転ができなくなり、正常よりも内側を向く内斜視となります。側頭骨々折、眼窩壁骨折などにより、外側直筋を断裂したときも、同じ症状となります。そうなると、両眼の視線が見たい物の場所で交わらなくなり、複視の症状が現れます。複視とは、モノが2つにダブって見えることです。

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