最近、久々に真正が疑われる相談が入りました。異常な神経性疼痛、およそ年に一件程度、相談が入ります。いずれも真正の症状は少なく、CRPSの兆候を示している、または回復傾向など、弊所が受任した案件では、CRPSの診断名で等級が付くことはありませんでした。やはり、珍しい症例であることは変わりません。
骨折や打撲から数か月を経て、大分痛みは和らいでいるはずなのに、とにかくひどい痛みが収まりません。軽く触れただけでも激痛で飛び上がります。また、患部の発汗や変色が見られ、明らかに異常です。それでも、整形外科などでは、「様子をみましょう」とロキソニンと湿布だけで対処、気付かない医師もおります。それですから、相手の保険会社などは”大げさにいつまでも通院を続ける面倒な被害者”扱い、治療費の打ち切りを迫ってきます。
ご無沙汰していますので、復習しましょう。
CRPS (Complex regional pain syndrome=複合性局所疼痛症候群)
○ Type I RSD (reflex sympathetic dystrophy=反射性交感神経性ジストロフィー)
○ Type II カウザルギー (Causalgia)
※ 最近ではカウザルギーとの呼称は用いません。臨床上、単にCRPS(タイプⅡ)としています。
<外見>
・アロデニア・・・異常疼痛(※)
・皮膚色変化(暗色~赤~白に変化)
・皮膚血流の変化(皮膚温の高低化)
・発汗異常
・浮腫(腫れ、むくみ)
・関節拘縮、可動域制限
<検査所見>
・ズディック骨萎縮(XP)・・・骨が痩せる
・脱灰現象(XP、MRI)・・・骨が黒く変色
・シンチグラフィー (血流低下)
・サーモグラフィー (皮膚温変化)
・骨シンチグラフィー(異状所見)
CRPSは2種に分類され、それぞれType ⅠとTypeⅡとなります。
Type Ⅰの通称RSDは、Reflex Sympathetic Dystrophy 反射性交感神経ジストロフィー・反射性交感神経萎縮症と呼ばれており「神経因性疼痛」の代表的なものです。交通事故受傷で神経が傷つき、慢性の痛みや痺れ不調に悩まされている状態を言います。国際疼痛学会では、痛みの全てについて交感神経が関与している訳ではないところから、総称してCRPSと呼び、その中で交感神経の関与が強いものをRSD、そうでないものをカウザルギーとしています。ただし、カウザルギーは古い概念で、前述のように現在ではあまり用いません。
RSDは「疼痛」「腫脹」「関節拘縮」「皮膚変化」の4つの徴候が認められれば、強く疑われます。受傷後から時間が経過し、医学的には治癒段階と考えられる時期に発症することが多いのも特徴です。症状は四肢に多く見られ、体幹や顔面部は稀です。痛みは灼熱痛と表現される持続痛でその範囲は次第に拡がる傾向です。
確定診断には、以下の基準が用いられます。
<ギボンズのRSDスコア>
○ 痛覚異常・過敏 (※)
○ 灼熱痛
○ 浮腫
○ 皮膚色や毛の異常(蒼白・光沢・脱毛)
○ 発汗異常(過多・減少)
○ 皮膚温度の異常(低下・上昇)
○ XP上の骨萎縮像(ズディック骨萎縮)
○ 血管運動障害(レイノー現象・冷感・紅潮)
○ 骨シンチグラフィーの異常所見(集積像)
○ 交感神経ブロックが有効
陽性=1、陰性・未評価=0、不明瞭=0.5でカウントし、合計点が2.5以下はRSDではない、
3~4.5はRSDの可能性あり、5以上をRSDと診断します。
※ 痛覚異常(allodynia)は通常、痛みを感じない刺激で痛みを感じる、
※ 過敏(hyperpathia)は、 痛覚の閾値はかえって上昇するが、ひとたび閾値を超えた刺激が加わると激烈な疼痛が起こることを説明しています。
いつまでもひどい疼痛が続く・・CRPSが疑われる場合は、整形外科や整骨院に漫然と通っていても時間の無駄です。早急に神経科、ペインクリニック、とくに「痛みの外来」などと称された専門科へ早急に診てもらう必要があります。最近も専門医の診察に際し、投薬や注射から「疼痛コントロール」の現場を目にしました。CRPSの神経性疼痛は、末梢神経より脳由来のものとされています。したがって、薬は意外にも脳内物質に働きかける、抗てんかん薬のデパケンや、抗うつのトリプタノールを用いています。さらに、神経伝達物質を遮断・抑制する鎮痛薬、ミロガバリンベジル(タリージェ)を処方、その投薬量を調整していました。
いまだ未解明の分野でもあり、最新の臨床上の報告をチェックしていく必要があります。自賠責や労災では診断基準を厳密に審査しますが、およそ「局部に神経症状を残すもの」か、「神経系統の機能障害」のカテゴリーで判定します。いずれ、近年の裁判上の判例も検索、読み込んでみたいと思います。