鼻骨々折(びこつこっせつ)

(1)病態

 鼻骨は、メガネのブリッジが接する、鼻のつけ根部分で、眉間にある三角屋根の形をした薄い骨です。交通事故では、ハンドルに鼻をぶつけて骨折することが多かったのですが、シートベルトが普及した今、これは激減し、現在は、もっぱら、バイク、自転車の衝突、転倒で発症しています。

 外鼻の下部分の3分の2は軟骨でできており、骨折しにくいのですが、鼻骨は堅く折れやすいのです。さらに、左右の鼻を分けている壁、鼻中隔の骨折を合併することが多いので要注意です。鼻骨は薄く、肘が鼻に衝突したなど、比較的弱い力でも骨折しています。
 
(2)症状

 鼻骨骨折では、
 
 ① 鼻血、 ② 鼻筋が曲がる、斜鼻、
 
 ③ 鼻が低くなる鞍鼻、 ④ 鼻が詰まる、鼻閉、
 
 これらの症状が出現します。
 
(3)治療

 骨折の診断はXPで可能ですが、折れ方の詳細は、CTで確認しなければなりません。鼻血や鼻閉は腫れが引けば治まるので、形成術をするかどうかは、鼻の変形の程度で決まります。鼻骨は薄いものの、再癒合しやすいので、受傷後4~10日で、形成術が実施されています。

 形成術では、皮膚を切開することなく、鼻の穴に鉗子を入れてずれた骨を元に整復します。聞いただけでも、気絶しそうな治療法です。実際に経験した被害者さんに聞くと、麻酔をしていても痛かったそうです。

 鼻骨用スプリントによる外固定とガーゼによる内固定が行われています。術後は数日間、ガーゼの鼻栓を入れ、2週間程度、専用のギプスを当てておきます。
 
(4)後遺障害のポイント

Ⅰ. サッカー、ラグビーなどのコンタクトスポーツでも、鼻骨骨折は多発していますが、動体視力が良く、日頃から身体を鍛えていることもあって、大多数は軽傷で、後遺障害を残しません。
 
 ところが、交通事故では、想定外の衝撃力もあって、重症例を多く経験しています。鼻血、鼻筋が曲がる斜鼻(※1)、鼻が低くなる鞍鼻(※2)、鼻が詰まる、鼻閉など、事故直後から多彩な症状が出現しますが、鼻血や鼻閉は、形成術により治癒しています。

 しかし、斜鼻や鞍鼻となると、完治未満で、見た目の後遺障害を残すことが多いのです。
 
Ⅱ. 被害者が形成術をためらう、耳鼻咽喉科の医師も積極的ではなく、形成外科への転院指示が遅れたときは、やや目立つ変形を残した状態で症状固定となります。

 受傷後1カ月以上を経過した骨折は、陳旧性と呼ばれるのですが、骨折は、ずれたまま癒合しており、形成外科で整復するには、骨切りをして移動させる必要が生じます。受傷後4~10日以内のオペに比較して治療が難しく、入院期間が長くなる傾向です。こんなときは、斜鼻や鞍鼻変形を醜状痕と捉えて、後遺障害の申請に踏み切っています。

 形成外科における整復は、本件事故を解決してから、健康保険で着手することになります。等級は、7、9、12級(醜状痕の改正後は7か12の2択と思います)の選択ですが、お顔を拝見しないと、踏み込めません。
 
※1 斜鼻 (しゃび)

 鼻骨の側面を打撃したときは、鼻骨が横にずれた形となり、斜鼻と呼ばれています。

 鼻中隔も骨折して横にずれることが多く、鼻は曲がり、ずれた方の鼻が詰まります。

 学生時代、ボクシング部にパンチを受けて鼻骨骨折した後、指で鼻を曲げたり戻したりできる奴がいました。この場合、曲がった状態を後遺障害として申請するか・・医師と共に悩みます。
 
※2 鞍鼻(あんび)
 
 打撃が鼻骨の上から働き、鼻骨が下に落ちる、脱臼と陥没を起こします。

 鼻の付け根が陥没している形状を鞍鼻と呼んでいます。 多くは形成術で修復することになります。
  
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