高次脳機能障害の依頼者様とは長い時間、二人三脚のお付き合いが続きます。最終的には弁護士による交渉や裁判で事故が解決します。これで一応業務は終了しますが、障害者手帳や福祉関係の手続きで何かとお付き合いが途切れません。当然、受傷から数年間の症状を見守り続けることになります。症状がやや好転する患者、増悪する患者。
一般的に脳外傷による障害は一定期間を経ると「不可逆的」、つまり、改善はなくなります。したがって、安定期後のリハビリは”障害に対処する術をマスターする”ことを目標とします。先日の日誌で取り上げた、”記憶障害の患者がメモ帳を携帯する”手段が代表的です。また、脳の不思議に触れることですが、組織が壊れて活動しなくなった機能が違う部分で動き出す?「脳の代償活動」が起きることもあります。
左図のように脳は大きく4つの部位に分かれ、それぞれ働きが分担されています。
くも膜下出血で左脳がやられ、失語となった患者が訓練を続けた結果、再び話すことが出来るようになった例が少なからずみられます。その患者さんの脳をスペクト(脳血流検査)で観ると、右脳含め、複数の箇所が活発になっています。これは言語野が複数箇所に散らばっていることを示し、男性より圧倒的に女性にみられる傾向です。
さて、私が担当した高次脳機能障害者の皆様はその後、症状はどうなったのか? 非常に気になることです。追跡調査をするまでもなく、追加の手続き等の相談で情報が入ってきます。
おおむね、本人、家族ともに障害に慣れた成果でしょうか。日常の困窮点は対処法を工夫することでカバーできるようになっています。軽度の患者は理解ある職場で活躍しています。また、重い方は障害者雇用や福祉制度の活用でなんとか頑張っているようです。
しかし、比較的若年の被害者、10代で認定を受けた被害者さん達の数名はかなり苦労しています。成長期では健常者でも性格・人格形成で思い悩むことが普通です。誰しも難しい時期があるものです。そこに高次脳機能障害が重なると・・予想もしない悪化を見ることがあります。当然、若年層は脳組織も成長期です。上手く、代償が機能すればよいですが、脳細胞の分裂が新しい可能性を示すだけではなく、思わぬ障害の加算が起こる例もあるのです。
例として、情動障害の悪化があります。怒りっぽくなる「易怒性」の発露・増悪、逆に疲れやすい「易疲労性」や極端にふさぎこむ、自閉症、その他性格変化をきたすようです。これは脳の損壊によって既に引き起こされていたものなのか、それとも二次的な兆候なのか・・
未だ謎の多い脳、特に高次脳機能障害はハイ・レベルの脳の働きの障害です。不可逆的としながらも、引き続き観察とリハビリ、医学的な対処は続くのです。等級認定→賠償金→解決では決して終わりではないのです。
あまりに増悪がある場合、それが、障害認定時に見落とされた症状であれば・・改めて申請し直し(異議申立)もやむなしでしょう。最近もやり直し案件をお預かりしています。