そしてMTBI裁判の決着は? MTBI編は最終回です。

③ 東京 高裁は、事故直後に強い意識障害がなくても脳外傷は生じうるとした。

 この点について加害者側は、”事故後にきちんと事故状況の説明をしているし、ましてや自分で車を運転して帰っているのだから、意識障害はないだろう”と主張したが、高裁は”だからといって脳外傷が生じていないとはいえない”と判断している。

 しかしながら、脳外傷の有無に関する東京高裁判決の論理展開は、「提出された診断・検査結果の内容と被害者側医師意見書を考えると器質性の脳幹損傷が起こった」というのみであり、他方、加害者側から出てきた意見書については単純に「採用できない」と否定するだけであって、脳外傷の判断における医学的意見の採否の理由は十分に説明されておらず、また、被害者に発生した神経症状や所見(被害者側が主張するもの)についても、どう評価すべきかの検討が十分ではないと思われえる。

(解説)
 本判旨では証拠不十分(画像所見なし)でも実際の症状、治療経過、医師の診断によって脳損傷が推定できるとし、「事故直後、症状がなかった」から脳障害はないと主張する被告の反論を採用しなかった、に留めてています。したがってなんらMTBIの障害性に断定的な結論を出していません。

 原告は上告すると聞いています。最高裁で決着がつくのか?再逆転判決(やはり障害はない)となるのか?・・・注目が続きます。

以前MTBIの相談者が事務所にいらっしゃいました。その方はなんでも赤信号なのにぼーっとしてたため、道路を横断し始め、一歩踏みだしたところ、かするように通り過ぎる自動車と太ももが接触、よろけて転倒しました。そして直後、接触に気づかない自動車を怒鳴りながら走って追いかけて停車させたそうです。そして数日後、めまい、頭痛、内臓疾患、その他あらゆる不調、が起こり、MTBI患者であると…。こんな軽い衝撃で、なおかつこの元気でそのような重篤な障害となるのか?周囲からそう見られて困っているようです。

 実はMTBIを訴える患者はこのように軽いとケガと思われるケースが多数なのです。血を流して倒れていた、意識不明となった、であれば脳損傷の可能性が推察されます。しかし軽い捻挫、軽い追突によるむち打ちで脳障害を訴える場合、当然外傷性について疑いが生じます。画像上、脳損傷の所見がないのに治療が長期化する・・・その患者の中には既往症が原因である者、詐病者、心身症患者が含まれると指摘されています。

 MTBIは「言ったもん勝ち」、「心身症患者が自身をMTBIと思い込む」・・・このような懸念を常にはらんだ症状名なのです。

 
(結論)

1、脳外傷の画像所見がなくても脳損傷はありうるのか?

2、意識障害がなくても脳損傷はありうるのか?

 これら2つの追求はいまだ解決されたわけではありません。画像所見・意識障害がなければ脳損傷はない、これが原則です。今回の高裁判決も極めて限定的な、被害者救済的な、判断をしたのだと思います。今後類似裁判が続くとしても認められるケースが頻発するとは思えないのです。

 やはり脳神経外科の新しい医学的検証、新しい臨床診断、新しい画像検査法、これらがなければ話は進みません。医学的な論拠がなければ弁護士も苦しい戦いが続きます。また、仮に整形外科医や歯科医など専門外の医師がこれらの研究を発表しても、労災や自賠責保険の認定基準を揺るがす力はありません。

 私たち立証側行政書士は常に言い続けています。

 「医証がすべて」。この言葉に帰結します。