年をまたぎました本シリーズも最終回です。じっくり分析を進めてきましたが、今改定が現状の認定状況に大きな影響を与えることはないと思います。それでも前進した部分もあり、認定基準の細部に血が通ったきた印象を受けます。それはいくつか明確な判定基準や調査姿勢を打ち出してきたこと、そして最後に取り上げる、「障害の周知についての努力義務」でしょうか。報告書原文を抜粋します。
【関係各方面への周知】
(1)被害者(一般)への周知
現在損保料率機構が作成している被害者(一般)向けのリーフレットは、保険請求にあたっての諸手続き、高次脳機能障害審査会制度などを記載しており、周知に当たっての一定の効果があると考えられる。被害者(一般)向けのリーフレットについては、今後も各保険会社の受付窓口や損保料率機構自賠責損害調査事務所に備え付けるだけでなく、口弁連交通事故相談センターなどの各種請求相談窓口にも漏れなく備え付けることが必要である。
また、口弁連交通事故相談センターが行っている高次脳機能障害相談の窓口に対しても積極的に協力するなどして周知への努力を続けるべきである。
さらに、当委員会の検討において、軽症頭部外傷を原因とする高次脳機能障害の被害者が審査の対象から漏れている可能性についての指摘もあったことから、その点についても一層の注意喚起を行っていくことが適当である。
(2)医療機関への周知
脳外傷による高次脳機能障害を評価するうえでぱ、診療医作成の経過診断書および後遺障害診断書の記載内容が極めて重要である。特に、初診時の被害者の状態(意識障害の有無・程度・持続期間等)、各種検査結果、被害者の現在の症状などについて、診療医から提供される医療情報が不可欠である。今後、関係各方面の協力を得ながら、現在損保料率機構が作成している後遺障害診断書の記載方法などをわかりやすく解説した医療機関向けの解説書を改訂・配布することが必要である。
(3)医師への啓発
脳外傷による高次脳機能障害は、社会的な認知が高まりつつあるが、依然「見すごされやすい」障害である。仮に診療医がこれを見落とした場合は、医証を中心に検討を行う現行の保険実務では、被害者救済に一定の限界があるといわざるを得ない。
このような場合も含めて、診療医が高次脳機能障害の診断と評価を適切に行なうことが、被害者救済を充実させることにつながる。とりわけ、軽症頭部外傷を原因とする高次脳機能障害を的確に認定していくためには、医師が初診時の患者の状態を正確に記録することが極めて重要であり、診療録の記載の充実を求める必要がある。
そのため、後遺障害診断書を記載する現場の診療医に向けた啓発活動を継続(軽症頭部外傷による高次脳機能障害発症の可能性についての注意喚起および意識障害に関する必須情報の記載を含む。)することが必要である。この目的で、医療機関向けの解説書等の整備を図るとともに、各種学会・講習会等の場で高次脳機能障害の後遺障害等級認定に関する情報提供を行うなど、広く啓発活動を行っていくことが望まれる。
【おわりに】一今後の取組みと継続的な見直しー
当委員会では、自賠責保険として脳外傷による高次脳機能障害について、画像機器の技術革新などによる診断技術の現状の確認を行うとともに、現状の認定システムを再点検することで、より一層的確な認定が行えるよう論議し種々の提言を行った。今後、今回の提言を活かした実効性ある取組みが必要と考える。
なお、今回の提言を踏まえた取組みが行われることにより、当面の問題は整理できるものと考えられるが、損保料率機構は今後とも定期的に検証作業を行い、必要に応じて適宜認定システムを見直し、被害者保護を一層充実させなければならないと考える。 以上
<解説>
要約すると、以下4つの課題です。
1、保険会社の努力を期待
2、医療機関への情報提供
3、医師への呼びかけ
4、継続的な見直し
1の保険会社への期待は望めないように思います。高次脳機能障害の認定はつまり、営利企業である保険会社の利益に反するからです。(でも担当者個人の正義感にはいつも期待しています。)
2、3の医療機関と医師ですが、病院経営者の姿勢や医師の人柄に負うところが大きいと思います。毎度、立証側の我々は身に染みています。
障害の立証=「人に頼らず、自らの学習・努力が欠かせない」という基本は変わりません。