先週土曜日は静岡まで講演会を聴きに行きました。掲題の通り、高次脳機能障害の当事者・家族の支援団体が主宰の講演会です。
プログラムは以下の通り。
1、講演『高次脳機能障害の理解』
橋本 圭司 先生 (国立成育医療研究センター・リハビリテーション科医長)
2、対談 高次脳機能障害 当事者 & 橋本 圭司 先生
3、『高次脳機能障害当事者の就労支援を考える』 シンポジウム
片桐 伯真 先生 (聖隷三方原病院リハビリテーション科部長)
S さん (○○障害支援センター相談員)
T さん (作業療法士)
内容は橋本先生の高次脳機能障害の解説と対処法の講義、当事者との対談を前半とし、後半は就労支援に携わる先生方の取り組みを紹介するものでした。
高次脳機能障害の方は不可逆的で回復しないものと言われています。しかし一方では多くの医師により回復の研究、努力も続けられています。臨床の現場で多くの患者を診ているのが橋本先生です。最前線で多くの症例を把握している、とくに小児・幼児の脳障害では国内第一人者です。(先月もお世話になったばかりです)
先生の講演で印象的だったことを一つ。「高次脳とは人間の高いレベルでの脳の働きであり、それが失われてしまうことは、より人間らしくなったとも言えます。」 人間の高いレベルでの脳の働きとは、物事を計画する能力、暗記する能力、感情を抑制する能力、行動を指令、コントロールする能力などです。これらが壊れてしまうと、段取りが悪く、忘れっぽく、感情的で、思いつきで行動する・・・つまり多くの人間に共通する弱点がでてきてしまう。『人間だもの』by相田みつお なのです。 この前向きな見方、新鮮な発想は当事者はもちろん、家族をも勇気づけるものです。
後半は高次脳機能障害の方の就労支援の苦労についてです。復職まで5~10年かかること、そして障害者自身から語られるエピソードを聴き、賠償金を手にする事だけではないもう一つの戦いがあると認識しました。ここでキーワードは二つ。
1、自身の障害を認識すること
2、周囲の理解
高次脳機能障害の方の多くは「病識がない」、つまり自分が脳のケガで異変があることを自覚していません。私も多くの患者から経験しています。しかし、それでも何ができて、何ができないか、これを時間をかけてでも自己認識することで、回復への第一歩につながります。ここでの回復とは「症状の根絶」ではなく、「ハンデキャップをカバーする」、が正確な表現と思います。
また、高次脳の方は、職場で「なんでこんな簡単なことができないの?」、「何度言っても覚えられない・・」などと、周囲のプレッシャーにさらされます。これも周囲が「障害者にできること、できないこと」の区別ができず、障害への認識が不足していると言えます。周囲の理解がなければ障害者の職場復帰は叶いません。
今日参加された当事者、家族はもちろん、様々な立場でフォローする方々に接し、頭の下がる思いでした。そして勇気づけられる一言もありました。それは「まずは高次脳機能障害と診断・認定されることが第一歩、ここがそもそも一番重要」という意見でした。入り口の場面、それはまさに私たちの仕事です。
聴衆の多くは高次脳機能障害 当事者と家族のようでした。受付の際、東京から来たことを珍妙にとらえられ、名前や立場を聞かれました。スタッフの皆さんは高次脳機能障害の家族、支援団体の方なので、私の名前や本を知ってる人もいました。多くの支援者を前に、被害者救済は補償金・賠償金を手にした後も続いていくことを実感させられました。