(4)後遺障害のポイント
上顎・下顎の骨折は、整形外科で対応することはできません。口腔外科を中心に、形成外科が共同して手術、その後の治療を担当しています。歯が折れるなど、歯科へかかることも多いものです。
それらの診療科があって、治療技術の高い治療先を選択しなければならないのですが、これらの治療の開始には、10日前後の猶予があります。治療の開始が10日前後遅れても、それを原因として、大きな後遺障害を残すことは少ないものです。
上下の顎骨骨折から頻発する障害を5つに分けて解説します。
Ⅰ. 咬合障害
咬合不全は、形成術、術後の顎間固定など、苦痛の伴う療養生活が続きますが、優れた口腔外科医であれば、限りなく元通りに修復しています。不可逆的な損傷で、咬合不全を残すときは、
a. バントモXP撮影、CT、3DCTで骨折線などを立証し、
b. 咬合不全に伴うそしゃくの障害は、口腔外科の主治医に、そしゃく状況報告表の記載を受けて、まとめています。
障害を残さず治すものですから、続く嚙み合わせの矯正は歯科の領域に移ると思います。
Ⅱ. そしゃく障害
そしゃくとは、噛み砕くことですが、この機能障害は不正な噛み合わせ、そしゃくを支配する筋肉の異常、顎関節の障害、開口障害、歯牙損傷等を原因として発症します。
そしゃく障害の程度は、以下に細かく設定されています。
a. そしゃくの機能を廃したものとは、口から固形物の摂取ができない、みそ汁・スープなど完全に流動食のみとなった場合で、3級2号となります。
b. そしゃくの機能に著しい障害を残すものとは、お粥、うどん、軟らかい魚肉またはこれに準ずる程度の軟らかい飲食物でなければ噛み砕けないものであり、6級2号が認定されています。
c. そしゃくの機能に障害を残すものとは、ご飯、煮魚、ハム等は問題がないが、たくあん、ラッキョウ、ピーナッツなど、固い食べ物を噛み砕けないケースで、10級2号が認定されます。
d. 以上に及ばない、わずかなそしゃくの不具合で、(自賠責保険ではありませんが)12級相当の評価もありました。
いずれも先の原因が、医学的に確認できることを認定の条件としています。
上顎骨と下顎骨の骨折から、そしゃく障害と神経症状を認めさせた例 👉 個人賠償 併合11級:上下顎骨骨折・歯牙欠損(40代男性・神奈川県)
次回は Ⅲ. 開口障害、続いて Ⅳ、神経症状 Ⅴ. 歯の障害について集中解説します。
次回 ⇒ 開口障害、神経症状