(4)MTBIのまとめ
 
 脳外傷の画像所見がなくても、脳損傷はあり得るのか?
 
 意識障害がなくても、脳損傷はあり得るのか?
 
 これら2つの問題は、今もなお、明解な結論が出ていません。

 少なくとも自賠責保険の現状では、画像所見・意識障害がなければ、「脳損傷はない」と判断しています。先の高裁判決も、極めて限定的に、被害者救済の見地から判示したもので、今後、同様の裁判が積み上げられるとしても、「裁判上での認定が増加する」、とは思いません。したがって、「認定基準を変更する」など、しばらくは無いと思います。

 また、一時期のブーム(?)が去って、MTBIの被害者さんが激減しました。MTBIの診断を下す医師は、何故か数人の医師に集中しています。そのお一人が一線から退いたことも影響しているように思います。

 MTBIと診断された被害者さんの相談はそれこそ30人を越えますが、中でも、強烈な印象を受けた2例を紹介しておきます。
 
◆ 某被害者団体のAさん

 道路を横断しようとしたとき、前を通り過ぎるタクシーと大腿部がかするように接触し、よろけて転倒、それに気づかないタクシーを怒鳴りながら、走って追いかけ、停車させたとのことです。このような事故発生状況ですが、数日を経過すると、めまい、頭痛、内臓疾患などの不定愁訴が出現し、やはり毎度お馴染みの医師からMTBIと診断されていました。

 明らかに元気そうです。なんでも被害者団体の役員も務めているそうで、自分の障害立証はさて置き、秋葉も団体に参与するよう熱心に勧めてきました。

 

◆ 無料相談会に参加されたBさん

 信号待ち停止中に追突にあった被害者さん、単なるむち打ちのはずが・・・事故受傷から2年を経過して、やはり特定の医師からMTBIと診断されています。医師の指示で受けた拡散テンソル画像で、脳の器質的損傷を立証できたとのことで、鼻息も荒かったのですが、私に言わせれば、その器質的損傷が本件事故に起因したものか、この肝心なポイントは立証できていないのです。

 保険会社にのみならず、方々の医師や弁護士にMTBI被害者と訴えかけますが、相手にされていませんでした。どの医師からも、心療内科の診察を受けるよう指示を受けたそうです。


 
(5)MTBIの未来に思いを馳せる

 終始、悲観的な論調が続きましたが、秋葉事務所では、高次脳機能障害の立証で手一杯、MTBIの被害者の立証には積極的になれません。頑張っても報われない分野、依頼者様からお金を頂けない仕事なのです。
 
◆ ある医師の意見(高次脳機能障害の研修会から)

 高次脳機能障害の分野で著明、多くの臨床経験を持つ医師の意見を載せます。この先生は弊所の依頼者さん3名の立証にご協力頂きました。そのご縁から、交通事故110番の弁護士研修にお招きしました。その研修で触れたMTBIの見解はこうです。「確かにMTBIは臨床上、存在している。しかし、まだサイエンスではない。これは、「まだ科学的に説明できる段階にない傷病名」と解します。今後の研究で病態と原因が明らかになるかもしれません。しかしながら、心因性の関与が疑われる患者が大勢いる上、得体のしれない利益団体が多く、この10年、進歩がなかったように思います。いえ、むしろ、先に言いましたように、下火にすらなったと思います。
 
◆ MTBIを支援している弁護士の前向きな意見

① 軽度脳外傷の軽度とは、あくまで事故後の意識障害レベルが軽度であったという意味に止まり、症状それ自体が軽度であるという意味ではなく、症状が慢性化したときは、むしろ重度の後遺障害を残存することが多いことに注意すべきである。

② 自賠責保険は、脳損傷の診断基準として、国際基準に比べて異常に突出した高いハードルの診断基準を設定し、裁判所も自賠責保険の判断を追認する傾向が顕著である。日本の医療従事者の大半は2004年WHOの軽度外傷性脳損傷の診断基準に精通していない。そのため、脳損傷であるのに、そうでないと否定して、被害者に泣き寝入りを強いている現実がある。
 
 今後、上記のような弁護士による判例の積み重ねと、何より医学の進歩が待たれます。