反響の大きさからいつの間にかシリーズになった「詐欺」の記事、もう少し続けたいと思います。
ノンフリート等級のすえ置き事故が無くなった・・
(1)自動車保険の無事故割引・無事故等級の制度
まず、おさらいですが、個人で契約する自動車保険には1年毎(最近は2~3年の複数年契約も増えましたが)に無事故(保険を使わなかった場合)で割引等級が上がり、次年度の掛金が安くなります。逆に事故で保険を使えば3等級降格して、次年度掛金が上がります。等級は1~20等級で初年度は6等級からスタートします。保険料の自由化後も各社、ほとんど同じ仕組みです。
このおなじみの制度ですが、5年前の改定で、事故で保険を使った場合、より割増の重い別の体系「デメリット等級」に移動するようになりました。つまり、無事故と事故有、二つの分類となったのですが、背景には保険料収入の増加を切望する保険会社が、事故で保険金を支払った契約者に対し、真っ先に負担を重くしたと考えられます。反対の声も各地で挙がったようですが、よくこの制度の認可が下りたものだと思います。
本記事の主題は、いわゆる「すえ置き」事故の扱いが同時に制度変更されたことです。旧制度のすえ置き事故とは、下(2)に挙げる特定の事故の場合、修理で自動車の車両保険を使っても3等級降格せず、かと言って来年に無事故等級が上がることなく、前年と同等級に足踏みします。
(2)すえ置き事故のケース
・火災や爆発
・盗難
・騒じょうなどにともなう暴力行為や破損行為
・窓ガラス破損(飛び石や飛来物、落下物による窓ガラスの破損のみ)
・落書きやいたずら
・台風、竜巻、洪水、高潮
見ての通り、これらの事故は契約者に落ち度がなく、掛金を上げるのはフェアではないと考慮されてのルールと思います。それなりに、契約者の理解、好評を得ていたはずです。しかし、このルールはノンフリート等級の新制度で廃止され、等級はすえ置かれず、次年度は1等級降格の措置となりました。せっかくのフェアな制度だったのですが・・。
これも他物の衝突?
(3)すえ置き事故の措置が何故、無くなったのか
保険会社の言い訳は常に「リザルトの悪化」です。つまり、支払保険金/掛金収入 の収支バランスである損害率の悪化を是正するための約款改定と説明されます。毎度、それで話が終わるものですが、私はその背景に注目しています。”すえ置き事故をすえ置けない”事情があるのです。前置きが長くなりましたが、ある詐欺の手口=疑わしい請求の増加から、保険会社がキレたのが実情ではないかと。
(4)すえ置き事故を利用した詐欺の手口
一つは、フロントガラスの業社がグルのケースです。例えば、高速道路などで対向車の跳ね石がフロントガラスに当たって破損したとします。わずかなひびでも車検が通りませんし、危険ですから速やかに修理するものです。この場合、相手は不明なので警察の届出なしに、保険会社は「すえ置き」事故として修理費を支払います。車種にもよりますが、小型車のフロントガラスの付け替えは7~15万円程度でしょうか。高級車・外車はもっと高くなります。ガラス業社は自動車を工場に入れることなく、電話一本でガラス付け替えの出張修理に来ます。代金は保険会社に請求しますので、少し高めの部品代+工賃+出張費であってもなんとかいけそうです。わずか60分の手間でわりの良い売上となります。
契約者は来年の掛金が上がる事はありませんが、無事故割引きの1等級UPを損することになります。しかし、ガラス業社からバックマージン1~2万円を受け取っていたとすれば・・・。何より、ガラスのひびを人為的につけたとしたら・・・。
何故か、自営業者や法人含め車を数台所有している者に限って、しょっちゅう、跳ね石による被害を受けます。まるで、順番にガラス交換しているようです。契約者とガラス業社はWinWin、保険会社は忸怩たる気分でしょう。いたずらや盗難による被害の場合は、原則、警察への届出を要求されます。天災は時期が限られます。その点、跳ね石によるすえ置き事故を利用した詐欺は、ちょい悪感覚で誰でも簡単、いつでもどこでも気軽にできるのです。
結局、これら不届き者のせいで、自動車保険のフェアかつ好制度が失われたと思います。ちょい悪も皆が行えば、巨額の保険金ロスとなり、それは結局、契約者に跳ね返ってくるのです。