今更ですが、自賠責で高次脳脳機能障害として認定されるための入口部分の3つの要件をおさらいしましょう。
(1)傷病名が脳挫傷、びまん性軸策損傷、びまん性脳損傷、急性硬膜外血腫、急性硬膜下血腫、外傷性くも膜下出血、脳室出血であること、
骨折後の脂肪塞栓で呼吸障害を発症、脳に供給される酸素が激減した低酸素脳症は、これに該当します。
(2)それらの傷病がXP、CT、MRIの画像で確認が出来ること、
(3)頭部外傷後の意識障害が少なくとも6時間以上続いていること、もしくは健忘症あるいは軽度意識障害が少なくとも1週間以上続いていること、
この3要件の特に(2)と(3)の両方が欠けていれば、いくら症状があろうと、高次脳機能障害はきっぱり否定されます。(2)の画像所見がなければ「MTBI」(外傷軽度脳損傷)と烙印を押されてしまいます。今まで高次脳が否定された数々の悲劇を見てきました。本件も自賠が蹴ったら訴訟認定を目指すしかないのか、と常に不安でした。
しかし、自賠責の高次脳・専門調査機関である、高次脳審査会は全体の医証を検討、認定しました。その柔軟かつ、事実を重んじる審査姿勢に脱帽、本件では調査事務所に最大の賛辞を贈りたいと思います。
3級3号:高次脳機能障害(60代男性・栃木県)
【事案】
道路を歩行横断中、バイクにはねられ受傷。救急搬送され、腹部を手術、その他、次の診断名となった。腸間膜損傷、恥坐骨骨折、腓骨骨折、顔面裂傷、歯牙欠損、そして脳挫傷。
ケガに比して回復良く、1ヶ月ほどで退院できた。しかし、その後、難聴、排便障害、右脚の外反など、いずれも自賠責の障害基準に満たない微妙な症状の表出が続いた。通った病院は6ヶ所、受診した診療科は10科を超えていた。
【問題点】
警察、病院とも関係悪く、相手保険会社もわずか3ヶ月での打ち切り。続いて自らが契約の人身傷害も1年で治療費対応を終了。このまま症状固定もせず、だらだらと治療が続いてさらに2年が経過した。このような状態で家族は弁護士を探したが、どこも受任していただけず、最後の弁護士が受任し、秋葉への協力依頼となった。
また、本件最大の問題は「画像所見」が微妙で、脳に器質的変化がないこと、意識障害は「せん妄」(性格・行動が荒れる症状)があるものの、「意識障害なし」とされている。これでは自賠責の基準上、高次脳の認定は「門前払い」が濃厚だった。
【立証ポイント】
事故の終結に向け、人身傷害の保険会社とまず協力、休業損害の先行払いをお願いした。この軍資金を得て、11回の医師面談を実施した。どの医師からも敬遠されていた依頼者さんであったが、平身低頭、検査と診断書の記載をお願いして回った。
意識障害は救急科の医師に記載を直して頂き、「せん妄」の追記を頂いた。画像所見は微妙であったが、唯一、挫傷痕を指摘した医師と面談、主治医とは別にその所見を診断書にしていただいた。並行してリハビリ科の医師に出来るだけ他覚的所見をまとめて頂き、他科の診断書も歯科も含め6科に依頼、所見の記載をせっせと集めた。
さらに、通常より「日常生活状況報告書」を綿密に作成、審査側に窮状を切々と訴えた。これだけの作業が出来るのは日本で秋葉だけ、との自負をモチベーションに各所の理解を取り付け、複雑に絡んだ案件を整理、調査期間14ヶ月を経て弁護士の委任請求まで漕ぎ着けた。
これら立証努力は報われることに・・審査は7ヶ月に及んだが、異例ともいえる高次脳認定、望みうる最高等級である3級(醜状痕と併合して2級)の評価となった。この、誰もが避ける複雑な案件を断らなかった弁護士にとって、収益の大きな案件として蘇った。