■ 病態

 上腕骨遠位端骨折は肘周辺骨折の中で最も頻度の高いもので、転落や転倒により手をついた場合生じます。一般に診断は容易ですが、適切な治療を行わないと後遺障害を残すことがあります。
 肘過伸展位(肘関節が反対側に曲がり過ぎて…)で手をつくと、骨皮質が薄く、また骨の断面積も小さい上腕骨の顆上部にストレスが集中し骨折を生じます。通常末梢骨片は伸展位をとり、程度が強い場合には後内側へ転位し、回旋を伴います。
 
 顆上骨折、顆部骨折が多く、顆部は外顆骨折、内顆骨折に分かれます。 

■ 治療

 転位が少ない場合は、整復操作を行わずに4週間前後ギプスまたはシーネで固定します。中等度の転位例では、徒手整復操作を行ってギプス固定、徒手整復後経皮的ピンニング、牽引による治療のいずれかを行います。徒手あるいは牽引により整復できない症例では観血的手術となります。

 骨折部で内反・内旋・(伸展)の転位が残存しやすく、内反肘を残すことがあること、固定によって肘の動きが悪くなること、これらを防ぐためできるだけ早期から関節を動かす練習を開始します。そのため短期間ですがリハビリテーションが必要となります。

 最近の動向では中等度から高度の転位例に対して、早期に全身麻酔下に徒手整復操作を行い、整復位が得られたら経皮的ピンニング、得られなければ観血整復を行うという傾向があります。これは正確な整復位を目指すという意図の他、治療期間(入院期間)を短縮するという意味があります。
 

■ 後遺障害
 
 前回の上腕骨骨幹部骨折とほぼ同じ扱いです。医療技術の向上で偽関節、変形癒合の例は少なくなましたが、長管骨の変形として評価されます。
 上腕骨顆上骨折で、深刻な問題となる合併症および後遺障害は、Volkmann拘縮です。神経麻痺としては、正中神経麻痺・尺骨神経麻痺です。これらは後の機会に解説します。
 

① 偽関節  骨がくっつかなかった状態です。現在の治療水準ではほぼみられなくなりました。

 1上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの  7級9号  

 1上肢に偽関節を残すもの  8級8号  

 偽関節のため異常可動性を残し、かつ硬性補装具を常時必要とするものが7級で、随時硬性補装具を使用とするものが8級です。 

 常時(いつも)、随時(例:仕事の時のみ)かの判断は医師が診断時に下しますが、調査事務所は骨折具合や治療経過、使用する補装具の種類等勘案して判断しているようです。
 

② 変形癒合  

 曲がってくっついてしまった=A、ズレてくっついてしまった=B、状態です。これも整復技術に問題があったのでは?と思えます。

 A 長管骨に変形をのこすもの   12級8号  

 165°以上に彎曲しての表現が15°以上の屈曲に変更されました。

 B 長管骨に回旋変形癒合を残すもの  12級8号

 上腕骨が50°以上、外側に回ってくっついた(外旋)、内側に回ってくっついた(内旋)、変形癒合の状態です。
 

③肘関節の関節可動域制限
 
 骨折箇所が顆部であれば肘の関節に障害を残すことが予想されます。

部位

主要運動

肘関節

屈曲

伸展

合計

正常値

145 °

5 °

150 °

8 級 6 号

15 °

5 °

20 °

10 級 10 号

75 °

5 °

80 °

12 級 6 号

110 °

5 °

115 °

 
 立証はXP(レントゲン)で確認が第一歩です。周辺靭帯断裂による動揺性はストレスXP、MRIで描出させます。しかし肘が動揺関節に至るケースは膝関節に比べ少ないようです。