脊髄シリーズ、今日で終了です。神経の後遺障害はとても深い領域です。私のわずかな経験では語り尽くすことはできません。より経験を積んで学習を深めていきたいと思います。

 最後に画像以外での判定、診断について昨日の見学から報告です。この患者さんの症状は脊髄損傷を示していますが、画像所見では判然としません。既に受診した2~3名の医師も「う~ん・・・」状態でした。このような不確定な状態で漫然と治療を続けていても不安です。ついにその分野の第一人者たる専門医の診断を仰ぎました。
 

<検査と診断>

 頚部神経症状か脊髄損傷か・・・上肢、下肢のしびれ、めまい、ふらつき、不眠等、神経症状の原因をまず判定しなければ治療方針も定まりません。

 この専門医師はしばらく患者の話を黙って聞いています。そしていくつか質問を行い、以下の検査、数項目をはじめました。 

1、首の左右の神経根圧迫の様子をみる

 まずはジャクソンテスト、スパーリングテストと呼ばれる検査です。医師が頭を上から垂直に押すジャクソン、首を左右に傾けて押すスパーリング、その結果で左右の神経根圧迫のサイン(指先にビリビリと痺れが走る)を観察します。
 昨日の医師の場合、「首を左に傾けて下さい」、「次は右」、「指先まで痺れがきますか?」。それだけです。患者にまったく触れません。                 

                  

2、腱反射

 ゴムハンマーで膝などをコンッと叩く奴です。 上腕二頭筋と腕橈骨筋を叩きました。
神経根圧迫の場合、反射は「低下」、「消失」といった、無反応にちかい反応を示します。脊髄損傷の場合は「亢進」です。亢進とは異常反応のことで、ピクッと筋肉が緊張します。
               
3、病的反射  (トレムナー、 ホフマン、ワテンベルク )

 ・ホフマン ・・・ 手の平を上に向け、中指を曲げて手のひら側にピンッと弾きます。
 ・トレムナー ・・・ 今度は伸ばした中指の腹を指で数回弾きます。
・ワテンベルク・・・ 右図のように親指を除いた指を曲げた状態で引っ張ります。

      
 
 昨日はワテンベルクはやりませんでした。

 1~3をわずか2~3分でしょうか、流れるような作業で行い、医師は「脊髄は大丈夫のようです。左右、特に左の神経根側の腫れが原因の神経症状です」「受傷から仕事を休まずに無理をしたため症状の改善が遅れています」と。

                「は、早い」 そして 「迷いなく断言」  

           これが数百人、数千人を診ている専門医の仕事か・・・。

 脊髄損傷を心配していた患者さんも安堵することしきりです。医師は治療について「安静と休息を心がけるように」「首を後ろに反らすことは控えるように」「ロキソニン(痛み止め)は徐々に減らすように」・・・テキパキと指示を続けます。

 百聞は一見にしかず、専門書にかじりつくより現場の経験を積むことの重要性を再認識しました。そして専門医の流れるようなルーチンワークと確固たる診断に感動すら覚えました。