(4)後遺障害のポイント
Ⅰ. 肺挫傷の傷病名であっても、呼吸の状態が保たれていれば、1週間程度で自然に回復し、後遺障害を残すことはありません。
Ⅱ. 呼吸器の障害の立証方法について
① 動脈血酸素分圧と動脈血炭酸ガス分圧の検査結果
動脈血に含まれる酸素の圧力を動脈血酸素分圧、動脈血に含まれる炭酸ガスの圧力を動脈血炭酸ガス分圧と言い、呼吸機能の低下により、上記のレベルを示し、常時介護の必要なものは1級、随時介護が必要なものは2級、それ以外のものは3~11級が認定されます。
② スパイロメトリーの結果及び呼吸困難の程度と等級
◆ スパイロメトリー検査
スパイロメーターを用いて呼吸気量を計測する検査のこで、呼吸の呼気量と吸気量を測定し、呼吸の能力を判定しています。学校で肺活量を計ったことがあると思います。
※ %肺活量 実測肺活量÷予測肺活量×100=%肺活量
上記の計算式で算出されるもので、肺の弾力性の減弱などにより、換気量の減少を示す指標であり、正常値は80%以上です。
※1秒率
肺活量を測定するときに、最初の1秒間に全体の何%を呼出するかの値です。肺の弾力性や気道の閉塞の程度を示し、弾力性がよく、閉塞がないと値は大きくなります。
③ 運動負荷試験の結果
運動負荷試験には、トレッドミル(↓ 写真左)、エアロバイク(右)による漸増運動負荷試験、6分・10分間歩行試験、シャトルウォーキングテストなどの時間内歩行試験、50m歩行試験などがあります。
自賠責保険は、運動負荷試験の結果について、以下①~⑤、5つの事項について主治医に文書照会を実施した上で、呼吸器科を専門とする顧問医から意見を求めて、呼吸障害の等級について、高度⇒中程度⇒軽度の3つに分類し、等級を認定しています。
それで何級がつくのか? 呼吸器障害による「労働能力の喪失程度」を検討します。多くの場合、他の臓器や神経系統の障害も重なるケースが多く、それらを総合して等級を決定しているようです。
1. 実施した運動負荷試験の内容
2. 運動負荷試験の結果
3. 呼吸機能障害があると考える根拠
4. 運動負荷試験が適正に行われたことを示す根拠
5. その他参考となる事項
1.と2.の結果を比較して2.の数値が高いときは、3.の結果で障害等級を認定しています。
1. 2.の数値では後遺障害の基準に該当しないときでも、3.の基準を満たせば、認定されています。
(5)後遺障害・等級の認定例
いくつかの肺挫傷の相談例では、非該当、14級9号、11級10号、7級5号と、障害を総合的に判断していることから千差万別となります。ここでは、交通事故110番で対応された、7級5号の重症例を紹介しておきます。
被害者は、横断歩道手前で自転車に乗って信号待ちをしていました。そこに、信号の変わり目で、自動車同士が出合い頭衝突し、1台の自動車が交差点で大きくスピンし、自転車に乗った被害者は、交差点後方の田畑にはね飛ばされたのです。
脳挫傷、急性硬膜下血腫、多発性肋骨々折、フレイルチェスト、肺挫傷の傷病名でした。幸い、高次脳機能障害のレベルは9級10号でしたが、広範囲な肺挫傷に伴う呼吸器障害を残し、スパイロメトリー検査では、%肺活量が52.2でした。
※ %肺活量・・・実測肺活量÷予測肺活量×100=%肺活量
上記の計算式で算出されるもので、肺の弾力性の減弱などにより、換気量の減少を示す指標であり、正常値は80%以上です。
また、運動負荷試験では、呼吸困難の程度は、一回の歩行距離は、歩行器では170m、杖では40mで息切れし、呼吸困難の状態になる高度なレベルとの主治医所見などを回収しました。
結果、被害者の呼吸器には、高度の呼吸困難が残存し、「胸腹部臓器の機能に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの」 として第7級5号が認定、先の9級10号と併合され、併合6級が認定されました。
呼吸器の障害では、①と②、そして③の検査を受ける必要があります。ところが、これらは治療上で必要な検査ではありません。多くの呼吸器内科の医師は、これら検査の必要性を承知していません。被害者が、主治医を説得する? 骨の折れる作業ですが、大半は見事に失敗します。通常、医師は治療行為に関係のない検査は過剰医療と考えます。手術の前提ならまだしも、保険請求の為の検査など容易に指示しません。後遺障害診断では、専門的な知識で医師を誘導する必要があるのです。
やはり、専門スタッフが被害者の治療先に同行して、医師面談を繰り返し、後遺障害立証のサポートをしなければ話が進みません。ご不安の被害者は、早めにご相談ください。
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