僅かな肩腱板損傷は見逃されやすい傷病名です。肩の痛み、拳上不能(肩が挙がらない)などの訴えからMRIを撮って不全断裂、部分断裂は発見されるものです。
中にはそれほどの痛み、可動域制限も伴わない損傷がMRIで損傷が発見されることがあります。特に高齢者では事故による直接の損傷ではなく、元々不全断裂している方がおります。それは陳旧性の断裂として診断されるはずです。私たちの障害立証の仕事では、常に事故との因果関係を検討します。したがって陳旧性(古傷)の損傷や元々の器質的損傷とを見分ける目を養わなければなりません。
毎度おなじみ、骨格模型のトワテックさんからのメディカルレポート:北村先生の肩腱板損傷の解説から引用します。
【肩腱板損傷に伴う症状について】 整形外科医 北村 大也 先生
今回は肩腱板損傷(断裂)について少し考察してみます。日常診療でよく遭遇する肩関節の代表的疾患の一つですが、 意外にきちんと診断されていません。その多くの理由は痛みや可動域制限といった 所見にとらわれがちだからです。ちょっと考えてみればすぐ分かりますが、 この2つの症状は腱板損傷に特徴的な症状でも何でもなく 多くの肩関節疾患に共通して出現します。
腱板は肩関節の回旋に関わる4つの筋肉の腱の集合体です。それが、板のようになっているため腱板と呼ばれています。4つの筋肉とは棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋をいい、 肩を回旋させる機能があります。
また肩関節運動時の動的安定性 (上腕骨頭に安定した支点を与える)に 寄与しています。損傷の原因ですが、ケガにより断裂する場合と はっきりした原因がなく断裂する場合があります。肩の構造上の関係と腱板の老化が深くかかわっています。このことから年齢のピークは60歳代です。性差では男性に多く、左右で比べると右肩に多くおこります。若い人では肩を酷使するようなスポーツの人に起こりやすいです。
腱板が損傷すると、その程度により筋力低下が生じます。外転筋力の低下、外旋筋力の低下、 さらには内旋筋力の低下も生じることがあります。腱板損傷の診断においてはこの筋力低下が重要です。腱板損傷には痛みを伴うと考えがちですが、 炎症が起こらない限り痛みは発生しません。MRIで腱板損傷が確認されても全く痛みがない人がいること、 また手術で腱板を修復しなくても痛みが落ち着いて 日常生活に支障がなくなる患者が多くいることを考えれば分かりやすいかと思います。痛みを伴うまま時間が経過すると、拘縮や筋緊張の亢進、 代償運動など様々な原因により病態が複雑化していきます。このようなことから肩関節のリハビリは パズルを解くように少しずつ進めていく必要があります。断裂部分が治ることはありませんが、 薬物療法やリハビリによって痛みが治まり
日常生活やある程度のスポーツを行うことは可能になりますが、 肩の痛みや運動障害が改善しない場合手術を選択することもあります。