最近、肩の不調を訴える被害者が続きました。交通事故外傷でも比較的見逃しやすい筋腱の損傷です。

 断裂まですれば、それなりの検査と治療が行われます。しかし、僅かな亀裂や損傷の場合、単なる捻挫の類と同一視されがちです。後遺障害の診断の時になって「肩が動かない!」と訴えても、診断名や治療実績がなければ認定上疑問視されてしまいます。人体でもっとも自由に動く関節部だからでしょうか、肩の関節部は骨も筋も複雑です。
 
【1】肩の機能障害  
 
 骨に異常はありませんでしたが・・・
  
■ 肩関節可動域からチェック

① 腕の拳上(呼ばれてハイッ!と手を上げる)  

 可動域検査で言うと、「屈曲」(前方拳上)です。通常「気を付けの」位置から肩間節を軸に腕を耳の横まで拳げる。背泳ぎの腕の動きです。180度 が参考可動域です。

 ※ 体の柔らかさには個人差がありますので、腕の左右の差を見て異常と判断します。

 上げきった状態での安定には肩周りの鳥口上腕靭帯後方、間節包後部、小円筋、大円筋、棘下筋(肩回りほぼすべて)が正常である必要があります。これらの筋や他に広背筋、大胸筋胸肋部の緊張によって動きが制限されます。
 
② 逆に腕を後ろに曲げます  

 可動域検査で言うと、「伸展」(後方拳上)です。「気を付け」の位置から肩間節を軸に腕を後方へ伸ばす = 50度 が参考可動域です。

 鳥口上腕靭帯後方、間節包前部、他に大胸筋鎖骨部、前鋸筋の緊張が影響します。
 
③ 真横から腕を挙上

 可動域検査で言うと、「外転」(側方拳上)です。 通常「気を付けの」位置から羽根を広げるように肩間節を軸に腕を耳の横まで拳げる。180度 が参考可動域です。

 屈曲と混同しているケースをみます。説明する時は、「ジュディ・オングのように」と言っています。

 上げきった状態での安定には、肩周りの鳥口上腕靭帯後方、間節包後部、小円筋、大円筋、棘上・下筋(肩回りほぼすべて)が正常である必要があります。他に間節上腕靭帯中部・下部、間節包下部、広背筋、大胸筋の緊張も影響します。

◆ 腱板損傷も重度となると、この「外転」ではっきりわかります。

 患者の腕に手を添えて90度(肩の高さ)まで持ち上げてあげます。そして手を離すと自力で維持できずストンと腕が落ちます。これをドロップアームサインと呼びます。棘上筋に損傷があるケースが多く、痛みは角度によって発生します。
 
④ 腕を内側に曲げます 

 可動域検査で言うと、「内転」です。「気を付け」の位置から肩間節を軸に腕を体側へ曲げます。つまり、体にぶつかって曲がらないので 0度が正常です。


  
 三角筋、棘上筋、僧帽筋上部、 鳥口上腕靭帯、間節上腕靭帯上部、間節包上部、肩峰下滑液包の緊張により異常をきたします。つまり普通に「気をつけ」の状態を維持できない、そのままでは肩が痛む、といった状態です。

 最近の間違い例では、腕を体の前で内側に曲げて計測したものを見ました。これでは「スーダラ節♪」の振りですね。これは、日本整形外科学会の定める計測方式ではなく、別の計測方法のようです。
 
⑤ 肘を曲げて、腕を外側へ開きます。内側に閉じます。

 可動域検査で言うと、「外旋」&「内旋」です。「気を付け」の位置から片腕だけ「短く前へ習へ」をします。そこから外側・内側へ開閉します。 外旋:60度 内旋:80度が参考可動域です。


 
  前述のすべての筋腱が関わっており、肩腱版に損傷があれば必ず制限はあるはずです。しかし、この可動域検査の数値は等級審査上あまり重視されていないようです。この動きに少しくらい制限があったとしても、日常生活でそれほど困らないからでしょうか。

 少なくとも「パッパパヤッパ♪」を歌う金井克子さんは困るはずです(けっこう古い歌も知っています)。