高次脳機能障害の原因となる、脳外傷の急性期によく行われる手術について解説します。最近担当した被害者さんもこれを行いました。
 
<硬膜下血腫>

 脳の表面と頭蓋骨の間には硬膜と呼ばれる硬い膜があります。硬膜と脳表の隙間は硬膜下腔と呼ばれています。硬膜下血腫はここに出血が起きることです。交通事故などの外傷で出血する場合、「急性硬膜下血腫」の診断名がつきます。また、頭の打撲後およそ1~2カ月経過して、この硬膜下腔に血液が徐々に貯留するケースは、慢性硬膜下血腫です。 貯留した血液(血腫)量が少なく、脳に対する圧迫が軽度であれば深刻な症状とはなりませんが、血腫が増えて脳実質を強く圧迫するようになると、半身麻痺や言語障害などの神経症状を呈し、高次脳機能障害の原因となります。受傷初期では意識障害を来たし、圧迫が増大し続ければ命を落とします。
 
 右急性硬膜下血腫 (白い反応が出血。脳を急激に圧迫しています)
 
 急性硬膜下血腫では一刻を争うので、開頭手術にて血腫を除去し、脳への圧迫を下げます。頭蓋骨の一部を外したまま経過をみることもあります。出血が微細であれば「穿頭ドレナージ術」、「穿頭洗浄術」と呼ばれる簡単な手術により、溜まった血腫を抜くことができます。(穿頭:せんとう)
 
<手術方法>

 手術は通常清潔を期するために毛髪を小範囲剃って局所麻酔で行います。頭皮を3cm程切り、頭蓋骨に直径1.5cm程の穴を開け、その下にある硬膜を切開すると溜まっている血液が噴出してきます。残った血腫を吸い出した後に、血が溜まっていた空洞(血腫腔)の中をきれいに洗うことを「洗浄術」と呼びます。最後に、頭蓋骨に開けた穴から細いチューブを血腫腔に挿入した後、皮膚を縫合して手術は終わりです(患者さんの年齢や術前の状態によっては、硬膜切開後直ちにチューブを挿入し、ゆっくりと血腫を排出させる場合もあります)。この一連の流れが「ドレナージ術」です。

 手術は通常30分程で、順調に経過すれば手術翌日には頭のチューブが抜け、手術後5、6日で抜糸が終わります。症状もほとんどの場合、手術の翌日から消失し、術前に歩くことができなかった患者さんもスタスタと歩ける様になります。その後、必要に応じて頭部CT検査等行い、異常なければ入院後約2週間で退院となります。

 穿頭術は、脳外科の手術の中では、比較的危険性が低い手術といわれています。問題点としては、術後稀ながら血腫除去に伴う脳の構造変化や洗浄時の操作により脳内出血を起すことがあるということ、場合によって術後血腫が再貯留して再手術を要する場合があることが挙げられます。