(4)後遺障害のポイント
 
Ⅰ. 交通事故外傷では、上手に修復されたとしても、多くで、複視を残します。骨折部分や骨の欠片が、眼を動かす筋肉やその筋肉を支配している神経などを損傷させ、これらの筋肉などの損傷では、眼を上下左右に適切に動かせなくなり、モノが2重に見える複視が生じるのです。複視には正面視での複視、左右上下の複視の2種類があります。


 
 検査には、ヘスコオルジメーター=ヘススクリーンを使用し、複像表のパターンで判断します。

ヘスコオルジメーター

 
 複視の後遺障害の認定要件は、以下の3つとなります。
 
① 本人が複視のあることを自覚していること、
 
② 眼筋の麻痺など、複視を残す明らかな原因が認められること、
 
③ ヘススクリーンテストにより患側の像が水平方向または垂直方向の目盛りで5°以上離れた位置にあることが確認されること、
 
 正面視で複視を残すものとは、ヘススクリーンテストにより正面視で複視が中心の位置にあることが確認されたもので、正面視以外で複視を残すものとは、上記以外のものをいいます。

 複視は、眼球の運動障害によって生ずるものですが、複視を残すと共に眼球に著しい運動障害を残したときは、いずれか上位の等級で認定することになります。正面視の複視は、両眼で見ると高度の頭痛や眩暈が生じるので、日常生活や業務に著しい支障を来すものとして10級2号の認定がなされます。

 左右上下の複視は正面視の複視ほどの大きな支障は考えられないのですが、軽度の頭痛や眼精疲労は認められます。この場合は13級2号の認定がなされます。


 
Ⅱ. 視野障害(視野欠損、視野狭窄、変視)

 眼で見た情報は、網膜から大脳の視中枢に伝達されるのですが、右目で捉えた実像と、左眼で捉えた実像は、左右の視神経は、実は、途中で半交差しています。


 これにより、左右の目で感知された情報を脳内で合体させ、モノを立体的に見ることができるのです。眼窩底、眼窩側壁の骨折からこの視覚伝達路に損傷を受けると、視力や視野に異常が出現することになります。

 受傷後、見ようとする部分が見えにくい、目前や周りが見え難い自覚症状から、気付くことが多いのですが、視野とは、眼前の1点を見つめているときに、同時に見ることのできる外界の広さのことで、半盲症、視野狭窄、視野変状について後遺障害等級の認定が行われています。
 

 上図は、日本人の正常な視野の平均値を説明しています。8方向の角度の正常値は合計で560°となります。この合計値が60%以下、つまり336°以下となったときは、視野狭窄と認められます。
 
 視野狭窄の後遺障害等級は以下の通り。

 いずれも、ゴールドマン視野計検査により、立証します。そして、正常視野の60%以下になったものを視野狭窄といいます。
 
 その実例 👉 13級3号:視野障害(20代男性・福井県)

Ⅲ. 眼窩底骨折の最悪例は失明です。眼球に直接の破壊がなくとも、骨折様態がひどければ視神経が切断され、視力が失われます。
  
 その実例 👉 8級1号:視力障害(50代男性・長野県)

      👉 8級1号:眼窩底骨折・失明(20代男性・岩手県)
 
Ⅳ. 神経症状を見逃さない

 幸い、眼に障害は残らずとも、顔面に痛みやしびれ、違和感などの症状が残ることがあります。実は、眼窩底骨折による神経症状の残存も多く、多くの被害者さんは見逃しているのではないかと心配しています。漏らさず、しっかり立証しなければなりません。
 
 神経症状での認定例 👉 14級9号:眼窩吹抜け骨折(50代女性・埼玉県)
 
※ 神経症状、顔面醜状痕との併合を導いた応用編 (交通事故110番の相談例から)

 下まぶたの線状痕が3cm、眼窩下神経領域の感覚障害により頬から上口唇のシビレを残し、よだれが垂れ流し状態となった被害者では、3DCTで骨折後の変形性骨癒合を立証し、医師による顔面知覚検査を実施、さらに、よだれが垂れ流れているビデオ、顔面醜状の顔写真などを提出しました。これらから、顔面の神経症状(12級13号)に神経症状顔面の醜状(12級14号)が加わった、併合11級の獲得例がありました。

 眼窩底・側壁の骨折からは、他の感覚器、例えば嗅覚・味覚の障害なども起こり得ます。症状をしっかり観察し、決して諦めずに、積極的に立証すれば、報われることが多いものです。
 
 
 今回で長かった眼の障害シリーズは終了です。また、珍しい症例があれば追加していきます。
 
 次回 ⇒ 耳の障害 ① 耳介血腫