👈 正常 👈 外傷性白内症
(1)病態
白内障といえば、老人性のイメージですが、交通事故外傷でも白内障は発症しています。バイクや自転車の運転者に多いのですが、交通事故の衝撃を眼に受ける、なにかが突き刺さることで、水晶体を損傷し、外傷性白内障を発症することがあります。
交差点における出合い頭衝突で、バイクが田んぼに転落、刈り取りが終わった稲藁で目を突いた被害者で、相談記録があります。交通事故以外では、ゴルフコンペで、眼に打球を受けた、卓球のスマッシュでピンポン球が眼に当たった、喧嘩で目を殴られたことなど、交通事故110番にて相談を受けています。
(2)症状
白内障が進行すると、上図のごとく、黒目の部分=水晶体が白く濁ってきます。白く濁った部分は、次第に拡がり、昼間は目も開けられないほど眩しく感じ、モノがぼやけ、視力が、どんどん低下していきます。放置しておけば、やがては失明します。
(3)治療
視力、眼圧、細隙灯顕微鏡検査、眼底検査で確定診断され、治療はオペが選択されています。
老人性白内障のオペは、顕微鏡を使用するマイクロサージャリーで、平均40分、日帰りも可能です。麻酔は点眼麻酔薬を使用、少しの間、目を閉じるだけで完了します。その後、まぶたを開く器具を装着、反射的に目を閉じないようにし、白目=強膜を3mm切開します。
水晶体の白く濁った部分を超音波で破壊した後に吸引して、透明の度付き眼内レンズを除去した部分に乗せて完了します。しかし、外傷性白内障では、眼球内の損傷が大きく、水晶体を支える筋肉=チン小帯が半分以上切断していることが多く、ほとんどで、全身麻酔による難度の高いオペが予想されるのです。
眼球内に挿入する眼内レンズは、水晶体嚢に乗せることになります。レンズを乗せても、水晶体嚢を支える筋肉=チン小帯が広い範囲で損傷していると、チン小帯が切断することにより、レンズが落ちてしまう可能性があるのです。結局、眼内レンズを虹彩根部に直接縫い付けることになり、時間もかかり、難度も上がります。
(4)後遺障害のポイント
難度の高いオペが成功したときには、後遺障害を残すことはありません。しかし、交通事故では、不可逆的な損傷をきたすことが多く、理想的なオペであっても、羞明や、視力低下の後遺障害を残すことがあります。
Ⅰ. 羞明(しゅうめい)を残した場合
外傷によって瞳孔が開いたままとなり、光に対する反応が消失、または減弱したものを外傷性散瞳と呼んでいます。
① 瞳孔の対光反射が著しく障害され、著明な羞明を訴え労働に支障を来すものは、単眼で12級相当、両眼で11級相当が認定されています。
② 瞳孔の対光反射は認められるが、不十分であり、羞名を訴え労働に支障を来すものは、単眼で14級相当、両眼で12級相当が認定されています。いずれも、対光反射検査で立証します。
Ⅱ. 視力低下を残した場合
視力は、万国式試視力表で検査します。等級表で説明する視力とは、裸眼視力ではなく、矯正視力のことです。矯正視力とは、眼鏡、コンタクトレンズ、眼内レンズ等の装用で得られた視力のことです。ただし、角膜損傷等により眼鏡による矯正が不可能で、コンタクトレンズに限り矯正ができるときは、裸眼視力で後遺障害等級が認定されています。
眼の直接の外傷による視力障害は、前眼部・中間透光体・眼底部の検査で立証します。
前眼部と中間透光体の異常は、スリット検査で調べます。眼底部の異常は、直像鏡で検査します。視力検査は先ず、オートレフで裸眼の正確な状態を検査します。
例えば水晶体に外傷性の異常があれば、エラーで表示されるのです。その後、万国式試視力検査で裸眼視力と矯正視力を計測します。
オートレフ
前眼部・中間透光体・眼底部に器質的損傷が認められる場合、つまり、眼の直接の外傷は、先の検査結果を添付すれば後遺障害診断は完了します。
Ⅲ. 遅発性の外傷性白内障について
水晶体の損傷部位によっては、すぐに症状が現れず、長期間かけて徐々に進行することがあります。10年以上を経過しての発症も報告されています。
水晶体亜脱臼、水晶体脱臼では、水晶体の損傷を原因として、経年後に外傷性白内障を発症する可能性が十分に予想されるのです。であれば、それらを予測して、示談書には、「本件の示談締結後に、外傷性白内障を発症したる際は、甲乙間で別途、協議を行うものとする。」これらの文言を表記しておかなければなりません。
外傷性白内障は、緑内障と同じく、失明の危険を有しており、この点は、くれぐれも用心深く対応しておく必要があると考えています。
次回 ⇒ 角膜穿孔外傷