格落ち損害、代理店時代からかなりの数の相談を受けてきました。格落ち損害とは、事故で修理した自動車が事故車の履歴が付くことによって価値が下がる、この損害を金銭に換算する考え方です。
その損害は確かに存在し、法津的には修理費の30%を相場と考えているようです。もっとも、自動車のグレードやプレミア度によって損失が上下するので、修理費に+α程度から新車を超える額まで、実に様々な判例があります。まぁ、それでもレアケースを除き、10~30%でしょうか。
法的に争えば、以上の説明となります。しかし、現実的には、相手に(任意)保険会社が存在するとして、格落ち損害を請求しても、まず、認められません。直接損害となる修理費は当然に払うとして、格落ち損害などの間接損害はたいてい否定してきます。どうしても、格落ち損害を請求したいのであれば、「訴訟でも何でもしてくれ」とびた一文払わないのが普通です。
最近では、その損保の姿勢に対して、「弁護士費用特約があるので、弁護士を雇って格落ち損害を請求したい」との相談が目立ちます。弁護士費用特約のない以前では、弁護士:「修理費が30万円ですと、最大その30%=9万円の為に訴訟? 完全に費用倒れです」と、話が終わっていました。
では、弁護士費用特約があれば費用倒れとならないので、弁護士が引き受けるのかどうかですが・・。訴訟でなければお話にならないので、訴訟前提の仕事になりますが、その手間・事務量を考えると最低でも30万円頂かないと弁護士も嫌がるでしょう。しかし、この仕事は倫理的に問題です。依頼者にとって最大で9万円の経済的利益の為に、弁護士が30万円を得る、さらに、その為に(特約の)保険会社が30万円を払うことになる・・弁護士だけが儲かる仕事? やはり、おかしな話に思えます。費用倒れの考え方は、仮に特約があったとしても、まともな理屈だと思います。
それ以前に、格落ち損害を裁判所がすんなり認めるか?も考えなければなりません。先の説明のように、格落ちとは、その自動車に転売を含めた投機的価値が前提と思います。プレミア度とも言い替えます。中古車でも市場で新車並みの価値で転売されている、○年販売の希少モデル、生産限定車で高値で取引されている・・・などの事情がないと、裁判官も価値の算定に困るのです。
はっきり言ますと、数百万円程度の大衆車は、1日でも乗って中古になれば、そもそも価値などないのです。
民事上、損害賠償の実現とは、原状復帰が原則ですから、直してさえもらえば損害(賠償)は回復したことになります。そもそも、いつでも買える一般車・大衆車に、「格」など端から存在しません。カローラで格落ちを主張するなど、かなりセコい話なのです。だいたい、バンパーやドア、フェンダーの各部品を新品の部品に交換してもらえば、限りなく新車ではないですか。部品の交換では済まない、車体・シャーシが歪むようなひどい損害なら、修理代をもらって新車に買替えば良いのです。修理費は買替費用の一部にしかなりませんが、残額は今までの使用分として納得するしかありません。買ったばかりの新車を壊された、オーナーは大変に気の毒ですが・・。
とはいえ、理屈はそうでも、憤懣やるかたない気持ちは理解できます。その場合ですが、もし、体に不調あれば、整形外科への通院が数回に及ぶと、相手保険会社からの慰謝料、加えて自ら加入の自動車保険の一時金(10万円が多い)を得ることにより、相場程度の格落ち損害金は回収できます。ケガをしていないのに通院はダメですが、多くの代理店さんは、このようにアドバイスをしているのではないでしょうか。
損害賠償の世界は理不尽がつきものです。しかし、わずかな物損程度は柔軟に考えて早く解決させるべきです。被害者にとって、取り返しのつかない死亡や重傷案件、生涯治ることのない後遺障害、これらを目にしている私達だからこそ、一層そう思うのです。