A君は早速、会社の事務に「自損事故保険が出るそうなので、手続きお願いします」と願い出ました。しかし事務の担当者も、「それ何ですか?良くわからないので・・・」困ったようです。そこで上司に同じようにお願いしても、「上に言っておくよ」と言いましたがそれっきり。会社はなんだかよくわからない保険だし、労災でA君を補償したのだし、障害で会社を辞めるようだし、・・・親身になってくれないのです。
仕方ないので私が会社の担当者に説明を申し出ました。まずは会社の事務、続いてその上司に説明、すると会社の弁護士がでてきて、「労災で十分でしょ」と頓珍漢な対応、まったく自動車保険を知らないようです。まるでA君が会社相手に訴訟を起こそうとしているとでも思っているのか、変に力が入っています。
弁護士を相手にしていてもダメなので、会社の保険を担当している代理店さんに話を通しました。自損事故保険については、さすがに代理店、多少(多少では困りますが・・)知っています。「早速保険会社に聞いてみます」と返答、そしてN保険会社も「出る可能性があります」との返答になりました。
しかしさらに障壁、会社の部長が「会社に許可もなく勝手に保険を使っては困る!」そして「掛け金が上がるのでは?」と横槍です。会社には再三請求のお願いをしています。そしてすでに対人・対物賠償の適用・支払となっており、追加請求が出ても来年の等級ダウン、掛け金UPは決まっています。
この部長にしっかり説明し、「会社には一切迷惑がかかりません」と約束し、理解を得ました。これでようやく保険の請求手続きです。 保険金請求書と後遺障害診断書を提出しました。
障害の内容から後遺障害保険金10級280万円、入院1か月で18万円、通院40日で16万円、合計314万円となるはずです。しかしここに至ってもすんなり支払ってくれません。
N保険会社 担当者:「自損事故保険は相手の自賠責保険からの支払のない場合に支払われます。したがって相手にも過失の可能性があるので、ごにょごにょ・・・」
秋葉:「しかし対物事故で、おたくの会社は100:0で処理したではないですか。事故状況からもA君が100%悪いのは疑いようがないでしょ。今更なんで疑義があるの?」
担当者:「いえ、対物事故とは別の解釈もあるので・・・一応自賠責保険に請求、そして無責(支払い責任なし)をとってもらわないと・・」
秋葉:「(意地悪だなぁ)わかりました、こっちで被害者請求をします。相手のJ保険会社、もしくは相手にその旨(責任はないが一応請求する)伝えて下さいね。それくらいは協力して下さいよ。」
これは自分が100%悪いのに相手に賠償請求を行うことについて、相手が気を悪くすると予想、それへの配慮の必要があるからです。
そして、被害者請求を行いました。すると今度は事故相手が、
事故相手:「おたく、自分が悪いのにこっちの保険に請求を起こしたって?ふざけるなよ!」
自賠責から事故状況調査書が届き、怒って会社に電話がかかってきました。やはりN保険会社はしっかり伝えていなかったようです。 私は怒りを抑えて、A君の会社、事故相手、事故相手の保険会社、自賠責調査事務所、すべてに事情を説明し、本請求の内容について納得してもらいました。
そしてようやく自賠責から「無責」の回答書をゲット、それをN保険会社に提出し、ようやく保険金が支払われました。相談を受けてから4か月もかかりました。
なんでこんなに苦労するのよ!!! まるで保険を請求すること自体が「悪」のようです。
これが、自損事故保険の請求の実態です。とても支払われづらい構造になっています。無保険車傷害保険とならんで、隠れた保険であり、支払がとても珍しい保険なのです。
この件を通して、被害者に寄り添って保険請求・賠償請求をするプロが必要だと実感しました。保険代理店も弁護士も、もっとしっかりしてもらいたいと思います。この経験が現在の仕事、被害者救済の原点かもしれません。
先日、類似案件を受任しています。支払まで茨の道ですが、なんとか切り開いてみせます。これは来年最初の仕事です。