脊髄損傷では多くの場合、排尿障害を発症します。
脊髄損傷以外の原因ですと、骨盤骨折など下腹部への直接のダメージがあれば、膀胱や尿路への物理的な損傷、末梢神経性・膀胱の神経障害(排尿括約筋不全など)が考えられます。また、病的疾患として前立腺肥大、さらに心因性での発症もあります。
医学的な難しい解説はほどほどに、実例や簡易なイメージから説明します。これから、排尿障害が自賠責や労災の後遺障害として認定を受けるまでを、4段階で追っていきましょう。
【1】排尿障害の種類 一般的に、以下、3種でしょうか
① 閉尿 ・・・ 尿がでない、でずらい、尿が途切れる、尿意が乏しい
② 頻尿 ・・・ 尿の回数が頻繁になる、尿意がありすぎる
③ 尿失禁・・・ 尿意がすると我慢できない、くしゃみ程度で漏れる、知らずに漏れてしまう
経験上、頻尿の多くは尿失禁を伴います。高齢者は外傷に関係なく、頻尿・尿失禁に悩まされている方が多いようです。当然に既往症の影響を検討します。また、むち打ち等、外傷性頚部症候群で排尿障害となった被害者さんの場合、「なぜ、むち打ちでおしっこに異常が?」からの出発となり、因果関係や病的疾患との区分けに大変な苦労を強いられます。
【2】尿失禁の種類 ここで、尿失禁について、さらに3分類します。
① 持続性尿失禁
膀胱の括約筋機能が低下、または欠如しているため、尿を膀胱内に蓄えることができず、 常に尿道から尿が漏出する状態のことで、膀胱括約筋の損傷、または支配神経の損傷により出現します。
② 切迫性尿失禁
強い尿意に伴い、不随意に尿が漏れる状態であり、尿意を感じても、トイレまで我慢することができずに尿失禁が生じます。 頭部外傷により、脳の排尿中枢を含む排尿反射抑制路の障害が考えられます。
③ 腹圧性尿失禁
笑ったり、咳やくしゃみ、重い荷物を持ち上げたりしたとき、 歩行や激しい運動などによって急激に腹圧が上昇したときに尿が漏れる状態を言います。 尿道外傷による括約筋の障害で生じることが考えられます。
これら、病態の違いを入念に聴取してから、検査にあたります。若い女性の場合は恥じらいから、そうでなくとも「いずれ治るだろう」との考えから、被害者さんからの申告が遅れるケースが多く、なかなかに厄介です。できるだけ早く質問して、状態を把握します。そして、早期に泌尿器科の受診を果たすよう、指示しています。
脊髄への損傷がどの部分であっても、排尿障害は頻発します。また、脊髄損傷がなくとも、図の馬尾神経に衝撃や圧迫が加わった結果、排尿障害となったケースを多数経験しています