次に、指を曲げることができなくなった、または伸びたまま硬直した状態、伸展拘縮も検討します。曲がらなくなった理由は一つではありませんが、屈筋腱損傷を前提に考えます。これも基本知識から。

 

(2)屈筋腱損傷の基礎解説

手の掌側にある屈筋腱が断裂すると、筋が収縮しても、その力が骨に伝達されないので、手指を曲げることができなくなります。切創や挫創による開放性損傷、創のない閉鎖性損傷、皮下断裂がありますが、圧倒的に前者です。屈筋腱の損傷では、同時に神経の断裂を伴うことが高頻度で、そんなときは、屈筋腱と神経の修復を同時に行うことになり、専門医が登場する領域です。

手指の屈筋腱は、親指は1つですが、親指以外では、深指屈筋腱と浅指屈筋腱の2つです。親指以外で、両方が断裂すると、手指が伸びた状態となり、まったく曲げることができなくなります。

深指屈筋腱のみが断裂したときは、DIP関節だけが伸びた状態となり、曲げることができません。しかし、PIP関節は、曲げることができるのです。

屈筋腱損傷の治療は、手の外傷の治療のなかで最も難しいものの1つで、腱縫合術が必要です。年齢、受傷様式、受傷から手術までの期間、オペの技術、オペ後の後療法、リハビリなどにより治療成績が左右されます。治療が難しい理由には、再断裂と癒着の2つの問題があります。オペでは、正確かつ丁寧な技術が求められ、オペ後の後療法も非常に重要となります。


(3)DIP関節の伸展拘縮と屈曲拘縮、どちらかで14級7号は認められるのか?

 労災の認定基準では、以下の通りです。

 14級7号:1手のおや指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなったもの

 MCP(指の根元)やPIP(第2関節)は1/2までしか曲がらなくなった場合で用廃と、労災・自賠責共に基準とされています。


 対してDIPはそのような明確は基準を目にしません。
 これも、経験則に頼ることになります。

 10級7号:手指骨折・脱臼、伸筋腱断裂(50代女性・神奈川県)

 本件の被害者さんは、第4指(薬指)を脱臼、その後整復しましたが、最終的(症状固定時)に屈曲10°までしか曲がりませんでした。もちろん、伸展は0°(正常値)です。

 この例から、少なくとも完全拘縮で全く動かなくなった0°に至らずとも、10°しか屈曲できなかった指(薬指)が認められていました。手指・足指を除く上肢下肢の各関節は、5°以下の不可動で拘縮と認めらているようですが、手指の場合は50°以下、つまり1/2で用廃とするのみで、DIPに限っては何度で用廃とするかは明確に発表されていません。

 したがって、屈曲・伸展共に動かず固まった0°の硬直状態は当然として、伸展拘縮・屈曲拘縮どちらかでも、「屈伸することができなくなった」後遺障害とみてくれると言ってよいでしょう。ただし、その原因となる伸筋腱や屈筋腱の損傷について、MRI等で示す原則は変わらないと思います。
 
 突き指の処置は冷やすだけと、軽視されるケガかもしれませんが、DIP関節が固まってしまうこともあります。まず、医師の早期診断と検査を受けて、障害が残らないように治療すべきです。もし曲がったまま、伸びたままの障害となれば、後遺障害の対象として各保険に申請し、補償を受ける余地ありと思います。
 
 つづく