久々のシリーズ続編です。数年ぶりでしょうか、過去シリーズは以下のページです。

 約款ウォッチャーの秋葉、人身傷害保険と並び、弁護士費用特約はクロニクルの一つです。
 
(第1回)弁護士費用特約にまつわるエトセトラ ①
 
(前 回)弁護士費用特約にまつわるエトセトラ ⑱ 通販系の約款改定動向
 
 さて、今回取り上げるテーマですが、時々、保険会社関係者、代理店さんから入る相談です。事例で説明しましょう。 ※ 登場人物、事例は架空です。

 

<相談:損保代理店の吉田さん>

 先日、お客さんの酒井さんが交差点で出合い頭事故にあっちゃって、修理費見積もりは30万円かな。お互いの保険会社担当の話では、こっちが優先道路なので20:80と一致はしているんだけど・・相手が全然納得しなくてね、保険を使わないとまで言ってきて、交渉が止まっちゃってるんだよね。

 酒井さんは車両保険は入ってなくてさぁ、修理できずに困ってしまって・・。弁護士費用特約(以後、略して弁特)は入ってるんで、弁護士に頼めないかな?
 
<回答:遠藤弁護士>


 1、過失割合は妥当でしょう。したがって、30万円の80%である24万円を請求しますが、まず、内容証明書を加害者に打ってみましょう。それで、「弁護士が出てきたんじゃしょうがない、自分の保険会社に任せます」と、当初の保険会社同士の示談に戻れば解決でしょうか。

 ★ 弁護士費用ですが、内容証明だけなら10万円の相談料・手間賃が限度、この程度なら弁特から問題なく払ってもらえると思います。

 
 2、もし、加害者が徹底的に争うなら、請求額60万円以下で使える「少額訴訟」なら1日の出頭で済みますので、即日もらった判決文を相手保険会社に提出、「直接請求権」を発動させて、24万円回収を図りましょう。自損自弁(お互い争わず、自分の車は自分で修理)が都合良い、ぐずり得狙いの人なら、ここまでで解決できます。

 ★ 弁護士報酬ですが、弁特から20万円位もらえればなんとか大丈夫です。

 
 3、それでも、相手が少額訴訟を蹴って、本訴訟へ移行させてきたら、裁判で長々と争うことになります。

 ★弁護士報酬ですが、裁判までやって20万円では商売上がったりです。弁特の規定上、24万円の獲得額からの報酬を計算しますと、306000円(着手金+報酬)ですが、これでも裁判の手間からは厳しい金額です。

 そもそも、依頼者の経済的利益が24万円なのに、弁護士がそれを上回る30万円の報酬では・・これは倫理的に問題のある仕事になります。普通の弁護士なら、特別の事情がない限り遠慮すべき依頼になります。

(遠藤弁護士もこの事件はやりたくなさそうです・・)

 

<損保代理店と弁護士を良く知る秋葉の見解>

 グズリ得を狙っているのか、本当に自身に過失がないと思い込んでいる加害者なのか・・困った人は一定数いるものです。双方の保険会社、代理店、修理工場等、周囲に絶大な迷惑がかかります。この場合、優しい遠藤弁護士が引き受けてくれれば、なんとか元通り保険会社の示談に戻って解決になると思います。

 しかし、これで良いのでしょうか? 私はこう考えます。(仮に)5万円もする車両保険の掛金が高いからと言って加入しなかった酒井さんは、理不尽な加害者から守られなくても仕方ありません。本来、車両保険に入っていれば、さっさと車両保険で修理、後は保険会社に相手への取り立てを任せば済みます。来年の無事故等級が下がるのは残念ですが、”金持ち喧嘩せず”の言葉通り、悠々と解決できました。

 保険加入時に、掛金は高いけど貰い事故にも対応できる保険(車両保険・人身傷害保険付き)と、掛金は安いけど加害事故のみ対応できる保険(車両保険・人身傷害保険 未加入)について、それぞれ説明して、お客さまの選択で加入させることが、代理店さんの基本姿勢でなければなりません。

 ところが、年間たった2400円の掛金の弁特を使って、上手く解決できたら・・・高い車両保険などバカバカしくて入らないでしょう。今回、代理店の吉田さんが遠藤先生にお願いして、特別に引き受けててもらった事情など、恩に感じないでしょう。来年の更新でも車両保険に入らず、弁特だけ加入を続けるはずです。
 

 結局、代理店にとって保険料の収益だけではなく、お客様への指導上、問題の残る事故解決となりました。

 このように、バランスの悪い保険使用は、保険制度の根幹を揺るがし、いずれ、弁特の制限=約款改正につながりかねません。本例も、弁護士費用特約の濫用例の一つと思う次第です。

 現場の人間からすると、「弁特は、車両保険と人身傷害保険に加入している契約者のみ付保できる」といった、付保制限が理に適うように思ってしまうのです。