高次脳機能障害の様々な症状の中で、性格変化の立証には苦心します。検査でそれを数値化できないからです。そもそも、事故前の被害者さんに、医師は会ったことがありません。審査側も事故後の検査資料を見ることはできますが、事故前の情報はないので、比較できません。そして、何より、依頼を受けた私どもや弁護士も、被害者さんに会うのは事故後です。事故前の性格など知らないのです。

 以前、長野県の高次脳機能障害の被害者さんからの相談で、「頼んでいる弁護士先生に、うちの主人の性格が変わったことを訴えました。『事故前は、万事細かく、厳しい性格でしたが、事故後からはまったく別人で、柔和になってしまいました。』と相談したのですが、先生は、『性格が優しくなって良かったじゃないですか』と言われました」。 性格が良くなろうと、それは家族にしかわからない立派な『障害』です。その弁護士先生を急ぎ交代としました。
 
 事故前後の変化を明らかにするには、家族の克明な説明はもちろんですが、映像が効果的です。本件の場合は、考え方や発言が子供帰りした、話し方が極端にゆっくりになったなどです。これらの変化は、言葉で説明するより、事故前後の”本人スピーチ”を比較すれば一目瞭然なのです。幸い事故前の映像があったので、主治医にも事故前後の映像をご確認頂き、障害の全貌を明らかにできました。

 自賠責保険にとって、ビデオ映像自体は審査資料の対象ではありません。しかし、十分に判断の助けになると思います。
 

映像を駆使する、うちの事務所でなければ・・7級だったかもしれません
 

5級2号:高次脳機能障害(20代男性・埼玉県)

【事案】

歩行中、自動車に衝突される。頭部を強打し、意識不明の状態で救急搬送され、急性硬膜外・硬膜下血腫、外傷性くも膜下出血の診断が下された。
 
【問題点】

依頼者の過失が大きく、相手方保険会社から一括対応を拒否されており、健康保険にて治療を受けていた。そのため、自賠責で終わってしまう懸念があった。

一方、障害面は、神経心理学検査の数値からは、注意機能・遂行能力にやや兆候有、せいぜい7級を想定したが、果たして・・・。
 
【立証ポイント】

既に高次脳機能障害としてリハビリがなされており、主治医も別病院にてお世話になったことのある高次脳機能障害に精通した医師であったため、立証作業自体はやりやすかった。検査数値や主治医の見解をお聞きした結果、弊所では7級は固いと踏んだ。

ご家族によると、事故前後で性格が変わり、幼児退行がうかがわれた。そこで、事故前のご本人が収録されているDVDが、出身校の大学教授の手元に資料として残っていると聞き、ご家族に取り寄せていただいた。その映像を確認したところ、話し方や動きが現在のご本人とはかけ離れ、まるで別人のよう。急遽、5級認定に標準を切り替えた。新たに映像を撮影し、事故前の映像と比較するビデオを編集・作成した。この比較映像に、主治医やリハビリスタッフもあまりの変化に驚かれ、診断書の内容を修正するに至った。

自賠責にも同映像を提出、5級認定の切り札として添付した。ご家族から事故前の映像を頂かなければ、弊所はもちろんのこと、医師や病院スタッフでさえ、この変わりように気がつかずに終わっていたかもしれない。一歩間違えれば、ご本人・ご家族の今後の運命が大きく変わってしまっていたかもしれないという恐ろしさを痛感した案件となった。