繰り返し訴えていまずが、高次脳機能障害は見逃されやすいのです。特に微妙な能力の低下や性格の変化は医師も捉えられません。当然ですが能力や性格には個人差があるので、事故前の患者を知らない医師は比較できないのです。そして多くの場合、本人に病識(自分が脳外傷で障害を負ったという自覚)がありません。家族も「いずれ治るかもしれない」という期待から、深刻に考えない傾向です。以上から、せっかく自賠責より医療照会・追加調査があってもスルーされてしまいます。

 本例はその典型例です。是非、わずかな異常でもキャッチして早めの相談をお願いします。本人はもちろんですが、私も本当に大変なのです。

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併合11級⇒併合6級:高次脳機能障害 味覚障害 異議申立(60代男性・埼玉県)

【事案】

 自転車走行中、前方より自動車の衝突を受け、転倒。直後、救急搬送され、前頭部脳挫傷、外傷性硬膜下血腫、くも膜下血腫の診断となった。病院では、脳外傷後のせん妄の影響で、医師や周囲に対して暴言や問題行動が続き、追い出されるように3日で退院させられた。その後、転院先でも易怒性や病識欠如から、十分な検査はもちろん、高次脳機能障害の診断を得ないまま、保険会社に促されるまま症状固定を迎えてしまった。認定等級は神経症状12級13号、嗅覚障害12級相当。結果、併合等級11級の評価となった。

【問題点】

 自賠責調査事務所は高次脳機能障害について医療照会を行ったが、主治医は「すべての項目で異常なし」と回答してしまった。また、家族へも「日常生活状況報告書」を送ったが、これも本人の病識欠如により未回答。なんとか嗅覚障害のみ追加検査したに過ぎなかった。結局、審査期間は1年を要したが高次脳機能障害は見逃された。

 このまま、この事故は終わるかに見えた。しかし、嗅覚に並んで味覚喪失を自覚していたご本人から電話で「味覚がない」旨の相談を受けた。ある種の予感を感じ、相談会にお呼びした。観察したところ、やはり高次脳機能障害を予断、さらに奥様をお呼びして記銘力の低下と性格変化を確信した。相手保険会社との折衝、11級の後遺障害保険金の先行請求を連携弁護士に任せて生活の維持を図り、長く険しい立証作業へ突入した。

【立証ポイント】

 最初に主治医と面談、事情を説明して再評価への理解を得た。まずは相談・受任のきっかけである味覚検査を実施。結果は訴え通りの完全脱失(全喪失)。続いて、高次脳機能障害の検査が可能な病院への紹介状を頂き、そこで神経心理学検査を実施した。狙い通り、三宅式記銘力検査、ベントン記銘力検査、TMT検査で有意な数値を記録、つまり記銘力、注意・遂行能力の低下を裏付けた。また、再度MRI検査を実施、フレアを脳外科医と共に既存画像と比較読影し、脳萎縮進行について意見の一致をみた。
 さらに、受傷初期の症状についてカルテ開示を行い、問題行動をつぶさに抜粋した。意識障害の記録は最初の病院が(暴言や治療拒否等の問題行動の為)協力、診断書記載を拒否したので、受傷直後のせん妄状態の立証はもちろんだが、本人の名誉回復のためにどうしても示したかった。
 また、易怒性、性格変化について奥様から細かく聞き込み、日常生活状況報告書に留まらず、同別紙にて詳細にまとめた。これは性格変化、情動障害立証の必須作業である。

 これら新たな資料一式を主治医にお返して、「後遺障害診断書」、「神経系統の障害に関する医学的意見」等、すべて一から再作成していただいた。

 結果は高次脳機能障害7級4号、味覚障害12級相当が新たに認定、併合6級となった。当然の結果であるが、当然とならないことが多発するのが交通事故・後遺障害。間違った等級の変更に時間で2年余り、検査通院およそ15回。内、私との病院同行は8回にも及んだのです。