神経障害の診断名を見ると重症に思えます。しかし、程度によって箸やペンも握れず手術が必要な症状から、ビリビリしびれを感じる、力が入らない、細かい作業ができない、温冷感や触感が鈍った・・など軽重や症状が様々です。本件はまるで北斗神拳で秘孔を突かれたように、ずっと腕がしびれたままです。
事案として外傷性頚部症候群、つまり首を起因する神経障害が多い中、本件は肘の打撲から生じた点が厄介です。頚部起因のしびれは14級9号の例が多く、的が絞り易いのですが、腕や脚の打撲を起因とする場合、なかなか症状を信じて頂けません。筋電図や神経伝導速度検査をしても明らかな数値が出ないことが多いのです。もっとも数値にはっきりでるような患者は骨が折れるなど、器質的損傷が明確なのです。
それでは単なる打撲から神経症状の信ぴょう性を高めた認定例を見てみましょう。本例は器質的損傷のない障害の立証すべてに応用が利く、教科書的な作業と思います。
非該当⇒14級9号:肘打撲・尺骨神経障害 異議申立(30代男性・埼玉県)
【事案】
自動車搭乗中、渋滞で停車していたところ、後続車の追突を受け、前車にも衝突、さらに中央分離帯にまで弾き飛ばされた。その際、ハンドルを握ったまま肘を強打し、以来、肘から手指にかけてしびれに悩まされる。
理学療法を継続したが症状の消失には至らず、9か月後に症状固定し後遺障害申請するも「非該当」の判断となった。
【問題点】
器質的損傷がない、つまり、骨折や靭帯損傷がなく、自覚症状のみのケース。これでは「打撲程度で大袈裟な」と判断されてしまう。しびれの原因を立証する必要がある。
【立証ポイント】
基本通り、まずMRI検査、そして神経伝導速度検査を実施する。
MRIでは神経の絞扼(締め付けられている様子)を描出することを期待した。医師の読影によると、上腕骨尺骨神経周辺に液体貯留がみられた。やや甘い所見であるが、これを神経損傷もしくは絞扼の原因と主張した。しかし、肝心の神経伝導速度検査では有意な数値は得られなかった。
したがって、受傷機転の詳細な説明に加え、症状の経過をつぶさに説明=症状の一貫性を訴える方針に転換、14級9号に標準を絞った。
結果は「客観的な医学的所見には乏しく・・」も、受傷様態、症状推移、治療経過から14級9号を認めて頂いた。こちらの意図と回答が一致した結果となった。