本件のポイントは刺青ではありません(医師がMRIを嫌がりますが)。キーワードは左右差です。
鎖骨骨折・脱臼により、変形障害を追う場合、最もシンプルな方法は左右比較です。これは鎖骨に限らず、後遺障害立証の多くの場面で有効な手段となります。人体は原則、左右対称ですから、ケガをしていない方と一緒に写しこめばいいのです。しかしながら、医師はケガをした方しか画像を撮りません。ケガをしていない方など治療に関係ないので、撮る必要がないのです。しかし、治療上ではそうでも、賠償請求上では必要な画像なのです! これは、レントゲンやCTだけではなく、外見の写真でも当然に留意します。後遺障害の基準が「裸体で確認できる程度」とあるからです。
もう一つのポイントは、医師により、後遺症の評価が違うということです。執刀医は自らの手術の結果、「障害が残った」など認めたくないものです。確かに、鎖骨に多少の変形が残っても、一般の人は「重い障害が残った」などと認識しません。日常生活への影響が低ければ、当然に医師の評価も分かれます。本件は、山本が手術先とリハビリ先、それぞれの病院に同行し、”変形の評価について、執刀医とリハビリ医の認識が違っている”ことを掴んだ事から道が開けました。
事務所に座っていては立証できません!
12級5号:肩鎖関節脱臼(30代男性・千葉県)
【事案】
オートバイで交差点を直進中、対向車線から右折侵入してきた自動車に衝突し、受傷する。肩鎖関節脱臼、腰椎横突起骨折しており、腰痛、肩部痛に悩まされる。
【問題点】
肩鎖関節脱臼については手術を実施した。退院後、手術で使用した金具(アンカー)が外れ、外貌が変化し、左右の肩の外貌に差が生じた。外貌上、ピアノキーサインが出ているように見えたが、執刀した医師はピアノキーサインを否定していた。
また、本件では両肩に芸術的な刺青があった。以前、同じような怪我と後遺症が残存し、かつ同じように両肩に芸術的な入れ墨があった依頼者がおりました。その時は申請から1ヶ月も経たないうちに非該当となり、2度目の申請で等級を認定してもらいましたが・・。
【立証ポイント】
手術をした病院の医師の他に、リハビリ先で別の病院にも通っており、その医師に肩の外貌について確認をした。ここでは、レントゲン撮影時に左右の肩を確認できるように(怪我していない肩と比較できるように)撮影、鎖骨変形を把握しておられたので、後遺障害診断書はこの医師にお願いした。
被害者請求時には外貌の写真を、ケガをしていない肩と比較できるように作成、堂々と刺青を写し込んだ上で提出した。日本では刺青に対して、外国よりも偏見を持つ人が多く感じる。自賠責調査事務所の担当者が偏見から審査に影響を出すということはないが、悪いイメージは払拭できない。それでも、立証は画像所見を中心にしっかり組み立てる基本は変わらない。