交通事故から精神的に参ってしまい、PTSD(心的外傷後ストレス症候群)、鬱、パニック障害、フラッシュバックなどを訴える被害者さんは珍しくありません。
誰しも突然降りかかった災難と、治療や相手との交渉、あらゆるストレスから心を病んでしまうものです。しかし、そのほとんどがPTSDではありません。多くは2次的な心身症気味(?)を訴えているに過ぎず、事故によって精神を破壊するほどの強烈な体験がなければ、障害の対象となりません。その点、労災も自賠責も明確な基準によって区別・審査しています。
その根拠は「厚生労働省 非器質性精神障害判定基準」に細かく設定があり、以下の項目を出発点に細かく審査基準が定められています。
PTSD 診断の基準 ICD-10 |
① 自ら生死に関わる事件に遭遇したり、他人の瀕死の状態や死を目撃した体験、などの破局的ストレス状況に暴露された事実があること。 |
② 自分が「危うく死ぬ 、重傷を負うかもしれない」という体験の存在 |
③ 通常では体験し得ないような出来事 |
④ 途中覚醒など神経が高ぶった状態が続く |
⑤ 被害当時の記憶が無意識のうちに蘇る |
⑥ 被害を忘れようとして感情が麻痺する、そのために回避の行動を取る |
⑦ 外傷の出来事から 1 ヵ月後の発症、遅くとも 6 ヵ月以内の発症 |
⑧ 脳の器質性精神障害が認められないこと |
詳しくは ⇒ 交通事故110番 PTSD
しかし、何より、患者と家族の前向きな努力と医師の協力なくして、その立証はありません。本件は相談した法律家の誰もが忌避した被害者さんです。果たして真性のPTSDなのか?・・私達は被害者さんをしっかり見極めているのです。
12級13号:非器質性精神障害(60代女性・静岡県)
【事案】
バイクで直線道路を直進中、相手方自動車が幅寄せして接触、転倒した。相手はそのまま逃走した。依頼者は身体が動かず放置され、通りかかった自動車・運転者に気づかれるまで道路に横たわっていた。橈骨の遠位端を骨折し、さらに、直後からうつ状態、心的外傷後ストレス障害、パニック障害が生じる。
【問題点】
手首の痛みは若干であったが残存していたが、本件では疼痛よりも、うつ、不眠、パニック等の症状を強く訴えていた。受傷1ヶ月後、整形外科から上記うつ等の症状の改善のために心療内科を紹介された。心療内科での治療については、保険会社は事故との因果関係を否定し、治療費すら出してもらえなかった。治療費の請求段階でつまずいていたため、県内の弁護士事務所を巡っていたが、どこも対応して頂けなかった。
結局、事故から1年以上経過してから秋葉事務所に相談が入った。弊所では過去に非器質性精神障害での等級認定実績があり、その判断(これは障害等級となるはず!)で受任の流れになった。治療費の請求は棚上げし、まずは等級を確保することを先決とした。
【立証ポイント】
後遺障害の申請にあたっては、基本通り、後遺障害診断書の他に「非器質性精神障害にかかる所見について」「非器質性精神障害判定基準」「PTSD診断の基準」をそれぞれ主治医に記載して頂くことになる。これらの診断書は通常の後遺障害診断書と異なり、記載して頂くのに手間暇がかかる、非常に面倒な書類といえる。にもかかわらず、主治医は心優しく、すべてきれいにまとめて下さった。書類をまとめるにあたって、依頼者の症状や現状を知る必要があり、依頼者と綿密な打ち合わせをする必要があった。うつ症状があったにもかかわらず、依頼者には頑張って頂き、遺漏のない申請を果たした。
結果、手首については等級が認められなかったが、非器質性精神障害で12級13号が認定された。他の怪我の場合も同じですが、後遺障害認定には依頼者側の努力、主治医の協力が不可欠といえます。本件では改めてそのことを痛感しました。