咽頭外傷(いんとうがいしょう)・・・呼吸障害、嚥下障害、開口障害、嗄声、発声障害
ヒトの咽頭は、鼻・口から入った空気が、気管・肺へと向かう通り道と、口から入った食物が、食道から胃へと向かう通り道の交差点であり、空気と食物の通過仕分けをしています。
喉頭は気管の入り口にあり、喉頭蓋=喉頭の蓋や声帯を有しています。喉頭蓋や声帯は、呼吸では開放されており、物を呑み込むときには、かたく閉鎖され、瞬間的には、呼吸を停止させ、食物が喉頭や気管へ流入することを防止しています。声帯は、発声では、適度な強さで閉じられ、吐く息で振動しながら声を出しています。
喉頭は、① 呼吸する、② 食物を呑み込む、③ 声を出す、3つの重要な役目を果たしているのです。
(1)病態
咽頭外傷は、広い意味で、食道破裂のカテゴリーですが、交通事故では、受傷機転が異なります。そして、件数においては、圧倒的に咽頭外傷が多いので、ここで解説しておきます。
喉頭部に対する強い外力で、咽頭外傷が発生し、咽頭部の皮下血腫、皮下出血、喉頭軟骨脱臼・骨折などを発症します。プロレスの技で言えば、ラリアットをイメージしてください。交通事故で、大きな外力を前方向から喉頭に受けると、後方に脊椎があるため、前後から押しつぶされる形となり、多彩な損傷をきたし、呼吸、発声、嚥下の障害を引き起こすのです。
(2)症状
症状として、事故直後は、破裂した部位の疼痛を訴え、痛みで失神することもあります。2次的には、食道が破裂、損傷することにより、縦隔気腫、縦隔血腫を、食道内の食物が、縦隔内に散乱して、縦隔炎を合併し、それらに伴って、呼吸困難、咳、痰、発熱などの症状が出現します。
頚部や胸部の皮下に皮下気腫を認めることもあります。重症例では、食道からの出血に伴い貧血、出血性ショック症状を合併することもあり、要注意です。
※ 縦隔気腫・縦隔血腫
縦隔の内部に空気が漏れ出したものを縦隔気腫、血液が溜まったものを縦隔血腫といい、どちらも胸部の外傷が原因で、気管、食道、血管などから空気や血液が漏れ出し、重篤な症状をもたらします。
(3)治療
まず交通事故による鈍的外傷では、なにより、呼吸路の確保が優先されます。呼吸困難では、必ず、気管を切開して気道を確保します。
軽いものでは、安静と、声帯浮腫を防止する必要から喉頭ネブライザーの併用ですが、通常は、呼吸が確保されていることを前提に、喉頭内視鏡検査、CTなどの画像診断、喉頭機能、呼吸、嚥下、発声を評価する各種検査が実施されます。骨折整復は、受傷後早期に行う必要があり、手術で軟骨の露出、喉頭を切開、損傷した部位の粘膜縫合や骨折整復の手術が行われています。
ネブライザー=吸入器
(4)後遺障害のポイント
Ⅰ. 論文による外傷性食道破裂は、箸の刺入による23例を含めても、35例しか報告されていません。つまり、外傷性食道破裂は、少数例であり、発見が遅れることも予想されます。
外傷性食道損傷の死亡例は、保存的治療3例中2例で66.7%、手術的治療31例中1例で3.2%です。死亡例では、縦隔炎から敗血症などの重篤な症状を発症しているものがほとんどです。受傷から24時間以内に1期的閉鎖術となった11例で、縫合不全は1例ですが、24時間以降では、1期的閉鎖術5例中4例で80%が縫合不全をきたしており、ドレナージ術12例中3例で25%が再手術を余儀なくされています。本外傷では、早期の外科的手術が必要と報告されています。
※ 敗血症
縦隔内に食物残渣が散らばると、感染症である縦隔炎を発症します。縦隔炎から血液中に病原体が入り込んで、重篤な症状を引き起こす症候群を敗血症と言います。
つづく ⇒ 咽頭外傷 Ⅱ 「Ⅱ. 嚥下障害」