何も好んで保険会社をディスる記事を書いているわけではありません。社員一人一人は皆、真面目で善良な人達です。ただし、組織となると・・昨日のように、契約者様をないがしろにするようなことになってしまうのです。
通常、相手保険会社と敵対、バチバチ交渉することは普遍的な姿勢であり、被害者の権利です。ただし、それが掛金を支払っている保険会社に丸め込まれるとは、実にやるせない。その保険会社はお客様に対して背信的であると言えます。
さて、昨日のケースは最大の問題ですが、問題の規模が小さい件、つまり、金額の低い物損事故での過失割合の争いはより多いものです。この場合、自身契約の保険を使うことは、被害者=契約者の損得を計る上で、それ程の問題ではなく、むしろ自身契約の車両保険で完結する流れが得策であると言えます。これは、昨日とは逆の評価です。
※ 人物名は仮名です。
(2)自分の保険を使えば、「金持ちケンカせず」で解決ですよ
南野さん、交差点の出会い頭事故に遭いました。幸いケガはありませんが、愛車のジャガー(英国製)の修理で50万円の損害です。優先道路を走っていた自分に責任はないと思いっています。今回も双方、同じ令和損保に加入していました。物損の交渉を自身加入の令和損保の対物担当:久保さんに任せたものの、相手の令和損保の対物担当者:吉田さんとの交渉で、10:90ならまとまるとのことです。
納得できない南野さんは、直接、吉田さんと交渉しました。
吉田さん:「交差点では原則、両者に責任があります。南野さんは幹線道路で優先、相手は一時停止、判例では10:90、これでご納得できませんでしょうか?」
南野さん:「私が優先なので、責任はありません(怒)。0:100ではないですか」
吉田さん:「弊社としても過失10%は譲れません」
南野さん:「・・・」
交渉はこのまま平行線です。
そこで、久保さんから提案がありました。
久保さん:「このままでは埒があきません。南野さんは車両保険にご加入頂いているので、弊社の車両保険を使って頂ければ、即、修理できます。後は私が同じ会社とは言え、相手損保に取り立てして解決です。」
南野さん:「私が悪くないのに、自分の保険を使うんですか? それに、来年の掛金も上がってしまいますよ。」
久保さん:「おっしゃる通りですが、その為の保険です。すぐに修理して日常を取り戻せます。車両保険の加入と利用は、ズバリ、”金持ちケンカせず”になります。」
南野さん:「う~ん、確かにそうですね。納得はできませんが・・どうしようかな。」
ここで、南野さんは2択を迫られます。
1,来年の掛金が上がるが車両保険と対物賠償を使って、さっさとうっとしいもめ事を終わらせるか。
2,お金の問題ではない! 自身の名誉の為にも徹底的に戦うべきか。
人それぞれ考え方がありますので、どちらが正しいとは言えません。ただ、確実に1の方がすべて丸く収まり、早期解決となります。通常、車両保険を支払った令和損保は、相手損保と対物交渉の末、修理費を回収する作業になります。それが同じ損保同士なら、お財布は一緒、書類のやり取りで簡単に完了することでしょう。南野さんの損は、昨日の自身加入の人身傷害を使った解決と違い、来年の掛金上昇のみと言えます。
一方、2のように自身の権利を全うすべく、戦う姿勢も尊重すべきです。大事なことは、被害者である南野さんが解決策を決めることです。その点、同じ保険会社の吉田さん&久保さんが陰で示し合わせて、車両保険解決を推奨したとしても、契約者をないがしろにしたとは思いません。
実は、昨日の人身傷害解決は、この車両保険解決の人損ヴァージョンであることに気付きます。ただし、契約者の金銭的な損得は天と地の差があります。どちらも、担当者は一日も早く事故を解決させることの利を説きます。もちろん、社内的に案件の処理スピードが経営的な利益につながり、担当者の査定にも反映されます。保険会社の利であることは間違いないとしても、早期解決は双方当事者の利益でもあるのです。ただし、人傷解決と比べ、車両保険解決の場合は絶大な損にはなりません。私なら、来年の掛金3万円程度上がろうと、”金持ちケンカせず”を選びます。修理費50万円の10%=5万円でガチの争い?・・アホらしい。そんな暇ではないので。
このシリーズの結論が見えてきました。
自動車の修理費は、どちらの保険会社が支払おうと、物損調査員(アジャスター)と工場間で見積もりを協定しますので、工場に不正が無ければ、絶大な差など起きるものではありません。人損の治療費も同じで、過剰医療の問題を除くとして、これも対人賠償あるいは人身傷害、どちらかの保険会社がチェックして支払いますので、劇的な差など生じません。
やはり、人身事故の慰謝料、逸失利益は別物なのです。交通事故において、賠償金の平均85%を占め、交渉次第で絶大な差が生れる、最大のコアなのです。
結局、保険会社が計算する賠償金・保険金の基準と、弁護士が請求する赤い本はじめ、裁判上での相場の差があまりにも大き過ぎる、今も昔も変わらない、いわゆるダブルスタンダードの問題に行き着くのです。
二つの基準・・大分、周知されてきたとは言え、人身傷害保険の登場でさらに見えずらくなったと言えます。人身傷害保険の弊害は、被害者に裁判基準を意識させず、保険会社基準での解決へ誘導する効果を帯びていることです。
昨日、今日と二つの例を踏まえた教訓・・被害者さんは相手の保険会社はもちろんのこと、自身の保険会社でさえも、その提案や姿勢を刮目して見ていく必要があるのです。