前回まで、自動車事故の衝撃度を表す上でよく使われる「ビルからの落下・計算」を説明しました。ケーススタディを重ねましょう。今度はバイクが衝突した場合です。
3、自動車にバイクが追突した場合
Cさんは原付バイク(ヤマハ 車体重量90㎏)で走行、信号待ちのハイエースバンに追突してしまいました。原付なので時速30kmが制限速度です。まぁ、これを守っていたとして30kmとします。修理費はバンパー交換+αで20万円でした。修理費は問題なく保険で支払いました。しかし、ハイエースのドライバーDさん、むち打ちとなって毎日通院を始めました。治療費を払う損保は「3カ月まで!」と、業を煮やして治療費を打切りました。不満のDさんに対して、損保は以下の計算を示しました。
それでは、ハイエース(車体重量1960kg)の受けた衝撃を計算してみましょう。
時速30km ≒ 秒速 8.3m の場合では、
8.3m × 8.3m ÷ ( 2 × 9.8 )= 3.5 m
つまり、3.5mの高さ(ビルのおよそ2階)から原付バイク90kg落下の衝撃に相当します。この衝撃を後部バンパーで受けたことになります。物損アジャスターは修理費20万円には協定しています。しかし、対人担当はむち打ち(頚椎捻挫)の診断名の長期化を許しません。しかも、原付バイク程度の衝撃では、「大げさ」とのレッテルを張るわけです。
ここではビル落下の衝撃度以上に、両者の重量比が如実でしょうか。ハイエースと原付の重量比は、1960kg:90kg ≒ 22:1 です。実に22倍ほどの差があります。この差と修理費(小破に分類)をみても、数か月も通うような重傷となるのか・・説得力がありません。半年後に後遺症を訴えるも、「14級はほとんど無理です」と回答しました。どこかの弁護士を頼って申請したそうですが、予想通り、きっかり「非該当」でした。いくら症状をあれこれ説明しても、自賠責は聞く耳持たずでしょうか。
バイクの衝突によるむち打ち・頚椎捻挫で、14級9号の後遺障害は1件しか記憶にありません。それも、大型バイク(排気量400CC以上)の側突(交差点の出会い頭、運転席ドアにバイクが衝突)だけです。
やはり、自賠責は常識判断をしているようです。いくらケガが重篤でも、打撲捻挫の類こそ、より受傷機転を厳しくみているのです。
最後にもう一つ、相談例を。これも原付バイクの衝突例ですが・・・。
4、100キロで ぶつかってきたのですよ!
数年前の相談者Eさん、小型自動車(カローラ 1300kg)で信号待ち停車中、Fさん運転の原付バイク(ヤマハ 90kg)の追突を受けました。Fさんは30代の女性とのことです。
バンパーが凹んだ修理費は常識の範囲ですが、お決まりのむち打ちで通院を続けています。相手損保の打ち切り攻勢に際して、「後遺障害が取れますか?」との相談です。
秋葉:「車の衝突ならまだしも、バイクの衝突ではどうしても衝撃度を軽く見られてしまいますので・・。」
Eさん:「えーっ、でも100kでぶつかってきたのですよ!」
秋葉:「ちょっと待って、いくら何でも原付で時速100kmはでないでしょう?」
Eさん:「いえ、100kは体重です」
秋葉と相談会一同:「??? 相手の女性は100kg!・・・kmではなくkgかっ!」
(それを言うなら、「100kで ぶつかった」ではなく「100kが ぶつかった」でしょうと突っ込みたいところですが・・)
真面目に計算すると、3の例の通り3.5mの高さからの落下衝撃です。
ただし、相手はバイク以上の重さ100kgのふくよかな女性、対するカローラに乗っていたEさんはやせ型男性で、体重は55㎏だそうです。つまり、重量比が接近しているのです。
(Eさん)1300+55=1355kg (Fさん)90+100=190
1355:190 ≒ 7:1 です。
う~ん、微妙ですね。確かに190kgが3.5mの高さから落下してきたら・・相手が7倍以上の重量だとしても、ただでは済まなそうです。
ここまで自賠責が細かく検討するとは思えません。本件は相談だけで結果は聞いていませんが、恐らく非該当だと思います。Eさんが若干、気の毒に思えました。
このような落ちでよろしいでしょうか(実話ですよ)。