シリーズ再開! かつて相談会に参加した相談者さまの実例から計算してみましょう。
その前に、2019年10月にシリーズ化したまま途絶した前回記事は以下の通り。
👉 受傷機転について、その衝撃を科学する ② 自動車事故の衝撃度
1、自動車の単独事故 ~ 壁に衝突した場合
Aさんは小型自動車(日産マーチ 940kg)で壁に衝突、つまり自爆事故で負傷しました。その時のスピードは30kmだっだったそうです。マーチは全損となりました。シートベルトをしていなかった為、フロントガラスに顔面を強打、10針を縫うケガに。6か月の通院の後、後遺障害は醜状痕の9級16号、頚椎捻挫14級9号が認定されました。
どの位の衝撃か、例の「ビル落下衝撃度」から計算してみましょう。
○ 時速36km = 秒速10m/s の場合・・・5.1mの落下衝撃となります。
では、Aさんの自爆事故、時速30km ≒ 秒速 8.3m の場合では、
8.3m × 8.3m ÷ ( 2 × 9.8 )= 3.5 m
つまり、3.5mの高さ(ビルのおよそ2階)の落下の衝撃になります。
時速30km・・思ったより強い衝撃です。フロントガラスが割れたことに疑問はありません。マーチを3.5mから落下させた破損具合はメーカーの実験記録にありそうですが、フレームが歪み、エンジン部も損壊するはずです。小型車ですから、全損でも不自然さはありません。もっとも、顔を縫ってまで、車両保険目的の偽装事故はしないでしょう。
さて、この計算から、今度は追突を受けた側の衝撃度に置き換えてみましょう。
2、マーチの追突を受けたベンツの場合
側突のイラストしかなくてすみません
愛車のベンツ(Rクラス 2270kg)で信号待ちのBさん、後続の小型自動車に追突を受けました。直ちに知人の修理工場に入庫、なんでもフレームが歪んだので修理費が500万円、格落ちもあるので、買替の要求です。一方、アジャスターを派遣した相手の保険会社、事故の衝撃度から「この衝撃でこの損傷、そしてこの修理費はあり得ない」と対決姿勢です。
結局、Bさんと修理工場は損保側の強硬姿勢に屈し、バンパー交換を主に30万円程度の修理費で示談したのですが、損保側の主張は以下の通りです。
損保「追突した小型自動車は日産マーチ(車両重量 940kg ※)で、停車状態でブレーキから足を離した、いわゆるクリープ走行(現象)です。刑事記録の実況見分調書によると、マーチは時速5kmとの記録です。よって、以下の計算からバンパーならまだしも、フレームが歪むような損傷は物理的におきません」
時速5km ≒ 秒速 1.4m 1.4m × 1.4m ÷ ( 2 × 9.8 )= 0.1 m
つまり、10cmの落差でマーチ(940㎏)が落ちてきた衝撃程度で(しかも後ろからバンパーに)、頑丈で有名なベンツ(2270kg)のフレームが歪むことはない!との論拠になります。
Bさんは工場とグルになり、修理費の水増しを工夫したのでしょうが、アジャスターの目はごまかせません。その根拠は上の計算の通り、仮に裁判で争ったとしても、有力な証拠として裁判官の判断を容易にすることでしょう。
※ 車両重量・・・車両重量とは車体本体の重量に加えガソリン満タン状態、エンジンオイルや冷却水の規定量にバッテリー等を含めた重量になります。つまり、人が乗る前のすぐ運転できる状態が車両重量です。
車両総重量・・・乗用車の場合、上記の車両重量に加えて、車に最大乗車定員が乗った状態の総重量を指します。車両総重量の計算式は以下になります(乗車定員1人の重量を55kgとしています)。貨物車の場合は、さらに最大積載量の荷物を積んだ状態になります。 乗用車の車両総重量 = 車両重量+(乗車定員○人×5kg)
自賠責保険の後遺障害認定でも、自動車の破損程度は人体の後遺障害を計る上で重視されています。「その程度の衝撃で、そんな重傷になるの?」と疑念を持つからです。
もう一回、つづく ⇒ 受傷機転について、その衝撃を科学する ④ 自動車事故の衝撃度