ご存知と思いますが、ニュースで勝手に婚姻届けを出された男性の事件が流れました。なんとも珍妙な事件ですが、詳しい弁護士先生に聞くと、そこそこ起きる事件のようです。
何故このようなことが起こるのか・・・役所が「届出主義」と言って、法律の要件を満たす文章を提出された場合、必ず受理をしなければならない決まりとなっているからです。役所にしてみれば、不法に作成された婚姻届けを見抜くのは難しく、一々、窓口審査などしていられない事情もあります。そもそも、法は、故意に不実の婚姻届けをする悪意者など、想定できていないと思います。
(テレビ朝日Newsさまより)
被害者男性:「(婚姻の事実を)全く知らなくて。Xで(夫婦の記載が)見える戸籍情報を公開していて。本当にそうならヤバいと思って」、それで市役所に戸籍を取りに行くと、婚姻関係にされたことが事実だと判明。実際に提出された婚姻届を見せてもらいました。
被害者:「完璧に書かれた婚姻届ではなかったので、対策できなかったのかって、役所に怒りをぶつけてしまった」
当然、取り消してもらえるだろうと考えた男性。しかし、男性は思わぬ事態につきあたります。
被害者:「婚姻届で、僕が被害者じゃない扱いになる」
警察に相談すると、届け出が偽造されたとしても、被害者は市役所で、男性が被害届を出すことはできないというのです。
市役所に取り消しを申し入れると、家庭裁判所で夫婦関係にない証明をする必要があると言われてしまいました。
被害者:「家庭裁判で婚姻無効になるまで半年はかかる。だいたい1年は覚悟してと、弁護士に言われた・・・」
結婚するには、戸籍法で定める婚姻届を役所に提出しなければなりません(民法739条1項)。民法は「届出なければ結婚なし」という届出婚主義を採用しています。
法律では、「結婚」のことを「婚姻」といいます。届出がなければ、いくら事実上の夫婦生活が続いていても、法的な婚姻にはなりません。法律の根拠がない=「事実婚」と区別します。
また、届出は、当事者双方および成年の証人2人以上から、口頭または署名した書面でしなければなりません(民法739条2項)。 条文は以下の通りです。
民法739条(婚姻の届出)
1. 婚姻は、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その効力を生ずる。
2. 前項の届出は、当事者双方及び成年の証人二人以上が署名した書面で、又はこれらの者から口頭で、しなければならない。
今回の事件は、勝手に婚姻届に署名して提出したので、有印私文書偽造罪が成立します。が、相手がどのような罰を受けようが、婚姻の無効を訴え(婚姻無効確認調停)、その手続きをすることになるのは被害者なのです。弁護士に頼めば、報酬を払う必要もあるでしょう。その費用や慰謝料を相手に請求しても、回収は相手次第(懐具合や差し押さえ財産の有無)なのです。
婚姻に詳しい弁護士さんから、事前に「不受理届」というものを出しておくという予防方法を聞きました。ただし、不受理届を提出するようなシチュエーションに普通はならないと思います。そんなヤバい奴の存在を知って、未然に防ぐことなど出来るのでしょうか・・。
行政手続き、時にはホラー映画のようです。