今日は高次脳機能障害が疑われる被害者さんの病院同行でした。症状固定はまだ先ですが、先月、早めに「意識障害の所見」を主治医に記載していただきました。しかし意識障害の続いた時間は高次脳機能障害の要件を満たす基準には至っていません。画像上、比較的脳への損傷は明瞭なので、意識障害の所見をもって障害が否定されることはないと思いますが、より被害者の受傷直後の様子を説明するために、受傷直後における健忘の状況について追記していただきました。
健忘とは「もの忘れ」で記憶障害の1つ。つまり自分がしたことを忘れる症状です。健忘について今日明日と続けて説明します。
「記憶」は以下の3つの要素から成り立っています。
1、新しい情報を知覚し、脳裏に刻み込む「記銘」
2、記銘したものを心の中に持ち続ける「保持」
3、保持されたものを再び意識の上に浮かび上がらせる「追想」or「想起」
「健忘症はそのうち「追想」の障害で起こります。まず忘れる範囲によって二分します。
a.自分がどこの誰であるか分からない、出生から以降のすべてを忘れてしまう「全健忘(全生活史健忘)」。これは記憶喪失ですね。
b.部分的に忘れる「部分健忘」。痴呆症の多くは部分健忘です。
そして健忘の原因ですが、
①心因性健忘症
「脳の組織に突然過去の記憶が全くなくなったり、部分的に空白になる「心因性健忘症」。精神的なものが原因で職場や家庭、学校での人間関係によるストレスの積み重ねが関与していると考えられています。
② 器質性健忘症
健忘症の多くは脳血管障害や脳腫瘍、老人性痴呆など脳に器質的病変があって起こります。器質性健忘は、交通事故や転倒によって頭部(脳)へダメージを受けた場合の他、アルコールや一酸化炭素、薬物中毒に伴うケースも含まれます。従って高次脳機能障害の立証ではCT、MRIフレアによる脳萎縮・脳室拡大の観察を続ける必要があります。つまり内在的、病的変化による脳組織の損かいによるものでないことを確認しなければなりません。