健忘≒記憶障害?同じ意味で解釈されることが多いようですが、医学的には健忘は記憶障害の1形態で、記憶障害の主だった症状とされます。健忘も3つの症状・種別に分かれます。

1.逆行健忘 retrograde Amnesie

 逆向性健忘とは、記憶障害の一種で、障害のあった期間だけでなく、それ以前の期間に遡って、記憶が失われていることをいいます。逆向性健忘は、記憶を呼び出す「想起」の障害で、ある時点から遡った記憶が引き出せない状態になります。逆向性健忘による記憶が失われる期間は、数分や数時間、数日~数週間になることもあります。逆向性健忘は、頭部外傷、一酸化炭素中毒、てんかん、尿毒症、心因反応などで見られます。

2.前向健忘 anterograde Amnesie

 逆向性健忘に対し、障害のあった時点より以降の記憶が失われていることを「前向性健忘」といいます。「度忘れ」「物忘れ」がひどい状態で、昨夜の夕食に何を食べたか思い出せない、一時間前の会話を覚えていられず同じ質問を繰り返す、つまり記憶の「保持」ができません。これらは短期記憶障害に分類されることがあります。

 ちなみに高次脳機能障害で多くみられるワーキングメモリー喪失について短期記憶障害に分類している本も多いようですが、これは暗記ができない状態で健忘と違います。電話番号や暗証番号を覚えられない、カップラーメンにお湯を入れて、「誰が入れたの?」→自分の行動が覚えられない、本や新聞を読んでも内容が頭に入らない、2桁以上の計算ができない・・・これは記銘力の低下です。健忘は記憶の保存である「保持」と、その保持を引っ張り出す「追想」「想起」の障害を指します。

3.コルサコフ症候群 

 記銘力の極端な低下を中心とした独特の精神状態です。主に認知症やアルコール依存症に由来するビタミンB1の欠乏が原因と言われています。
 古い記憶は比較的保たれます。特徴は時間や方角など自分を取り巻く環境を正しく把握できなくなる(失見当)、迷子になる(地誌的障害)、会話もいいかげんな作り話(作話症)などが目立つようになります。アルコール依存症の経過中に、意識混濁と身体の震えをおこす発作(振戦譫妄(せんもう))のあとに発現することが多い。そのほか、頭部外傷、一酸化炭素中毒のあとや、脳軟化、老年痴呆(ちほう)の症状としても現れる。
 1887年、ロシアの精神病学者コルサコフにより発表されました。さすがアルコール中毒が世界一多い国です。