人身傷害特約は「安心の実額補償」「夢の全額補償」との宣伝で輸入された保険自由化の目玉商品です。
「実額補償」とは、契約時に決められた死亡で1000万円、入院1日10000円、の定額ではなく、実際の治療費や休業補償、逸失利益や慰謝料の相当額が計算されて払われることです。「全額補償」とは自分に過失があって、相手から全額の補償が受けられなくても、差し引かれた過失分を人身傷害が払ってくれることです。そりゃ、代理店時代に初めてこの保険の説明を聞いた時は「いい保険が出たものだなぁ~」と感じ入っていました。
しかし、「実額」とは言ってもあくまで保険会社の基準で計算されること、そしてそれは裁判などで用いられる基準に比べて著しく低いことが、後に様々な問題・矛盾をもたらしました。その結果、宣伝とは異なり「全額」の補償が受けられないことが起きるのです。
いよいよシリーズも最終局面に突入です。矢口さん&後藤弁護士と加護火災、最後のバトルです。(何度も言いますが、登場する個人・組織名は架空です)
人身傷害特約は自分の過失分も出る保険なのに何故?
矢口さんは自動車で走行中、交差点で出合頭の衝突事故でケガをしました。腕を骨折し、半年後、後遺障害12級の認定を受けました。そして弁護士の後藤先生に交渉を依頼しました。
後藤弁護士は「赤い本」で計算した損害額を請求、TUG損保と交渉しました。結果、TUGは請求額のほぼ全額を飲みました。過失割合については判例通り矢口さん20:相手80です。TUGは後藤先生と裁判をやっても結果は変わらないと踏んだのでしょう。TUG損保は800万円の賠償金の支払に合意しました。
続いて、矢口さんは自分が契約している加護火災の人身傷害特約に自分の過失分(20%)である200万円を請求しました。全額補償してくれる人身傷害に入っていて良かった!
しかし、加護火災の回答は・・・
⇒⇒
500万 × 20% = 100万円のみ支払い?
「弊社の計算では総額は500万です」「その20%ですから」「100万円を支払います・・あれっ?1000万にならない!」
加護火災は後藤弁護士とTUG損保でまとまった総損害額1000万円を認めず、自社の基準での総総額500万円から計算して支払うというのです。これでは「夢の全額補償」となりません。
後藤弁護士は、加護火災に抗議しました。
「人身傷害は全額が補償される保険との宣伝ではないか。それに最高裁判決『保険金請求権者の権利を害さない範囲』と求償の範囲を定めた『差額説』を尊重すべきでしょ。TUG損保と交渉でまとまった総損害額を認めて200万円を払うべきではないかね」
対して、加護火災の言い訳は・・
「弊社も最近、約款を改定しまして・・1000万円が裁判で決まった額なら、その20%の200万円を払います。でも交渉で決まった総額の1000万円はダメですよ。弊社 算定基準の総額500万円の20%=100万円の支払いになります。」
なんてこった・・つづく