平成24年6月7日高裁で「人傷基準差額説」判決が出ました。先に賠償金をもらって、差し引かれた自分の過失分を後で自身契約の人身傷害特約に請求した場合、その計算は「訴訟基準」の総額か、「人傷基準」の総額かの判断が下されました。
わかり易くするために、例によって矢口さんと加護火災に登場してもらいましょう。
「人傷基準差額説」だと以下の通り、全額はもらえません
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TUG損保の賠償金800万円 + 加護火災の人身傷害100万円 = 900万円 「え~っ?」
そこで、矢口さんの代理人である後藤弁護士が加護火災に「訴訟基準差額」で払うべき!と裁判基準の総損害額1000万円の過失分200万円を求め、訴えを起こしました。以下、双方の意見と裁判官の判断を聞いてみましょう。
「人傷基準差額説」が通った理由
「求償(代位)、つまり人身傷害保険を先に受取り、後に賠償金が入った場合、加護火災が取り戻す保険金は『保険金請求権者の権利を害さない範囲』と先ごろ最高裁で決まったではないですか。だから請求の順番が代わっても訴訟基準で計算すべきでしょ。差額の200万円を払って!」
「確かに弊社の約款『代位』にはそう書いてあります。でも、本件は求償(代位)ではなく、単なる保険金の請求ですよね。だから約款『保険金の決定』および『保険金の計算』に書いてある通り、弊社の算定基準で支払います。したがって100万円だけね。」
さて、裁判官の判断は・・・
「加護火災の言い分が正しい。判旨(理由)は以下の通り。」
「確かに約款の『代位』では”請求者の権利を害さない範囲で”と書いてあるけど、『請求』の条項にはそう書かれてないよ。」
①「それに各社、保険の自由化以降、約款の支払い基準が違うんのだから”算定基準もいろいろ”でいいんじゃない」
>①「でも、パンフレットに請求の順番によってもらう金額が変わるなんて書いてないよ!」
②「そもそも、請求の順番が変わることで契約者に損得が生じるのはおかしいではないですか」
この主張に対して裁判官から驚きの回答が・・・
>②「賠償金の請求と人身傷害の請求のどちらを先行させるかは、そもそも契約者の自由ですから・・」
③「それに人身傷害は簡易迅速に保険金を支払う傷害保険なので、これだけ普及した今は賠償金請求より先に請求する人が大多数だと思うけど」
>②「賠償金を先行させた方が人身傷害の支払いを少なくできるなら、損保は絶対『先に賠償金請求して!』と言うに決まっているじゃないか!」
>③「大多数?そんなことないよ~。加護火災は和解まで(払う金額が少なくなることを)黙ってたんですよ!まるで居直り強盗にあったようなものですわ」
>②「監督庁の厳格な監督下にある損保会社がそんな卑怯なことするわけないでしょ」
>③「加護火災はわざと支払いを遅らせたわけじゃく、後藤先生を含め、皆で話し合って裁判を先行したのでしょ」
「そりゃ、確かに約款に問題があると言えるけど、それは約款改定で正すのが筋じゃないかな。本件は約款に書かれている通り、人身傷害は”傷害保険”なんだから加護火災の算定基準で支払う、ということで判決ね。」
う~ん、「約款通りに」ですか・・おっしゃる通りですが・・。これを読んでいる法律関係者の皆さん、被害者の皆さん、この裁判官の解釈はまったく交通事故の実情を知らない、冷徹な文理解釈であると思いませんか?
文句は明日に。