自動車保険料率の自由化以降は、各社の約款に違いがあって当然です。しかし、この人身傷害の支払い基準の差について、保険契約の際に契約者が理解・選択することはほぼ不可能と思います。パンフレットからは到底読み取れない補償の差があることは、やはり消費者保護の観点から望ましいことではありません。
「差額説」vs「絶対説」の裁判が続く中、平成23年6月、北海道の消費者団体がこの問題について、「訴訟基準差額説」or「人傷基準差額説」のどちらで支払うのか損保各社に質問状を送りました。回答は以下の通りです(簡略化しました)。「絶対説」が退けられることは、各社、覚悟していたと思いますが、「訴訟基準」か「人傷基準」かは不明確で、これを約款に反映させる過渡期にこの質問・回答を行いました。人身傷害約款の不整備、もしくは改定中の損保に対し、会社の見解・方針を聞き出す画期的な活動だったと思います。
※特定非営利活動法人 消費者支援ネット北海道様から、引用・掲載のご許可を頂きました。
会社名 |
賠償義務者への |
人身傷害保険の |
|
改訂時期 |
回答 |
回答 |
|
あいニッセ同和 |
H22.10.1 |
訴訟基準 |
訴訟基準 |
アクサ |
H22.4.1 |
人傷基準 |
訴訟基準 |
イーデザイン |
H23.4.1 |
その他 |
訴訟基準 |
共栄火災 |
H23.4.1 |
その他 |
その他 |
セコム |
H23.4.1 |
訴訟基準 |
訴訟基準 |
セゾン |
H23.3.1 |
訴訟基準 |
訴訟基準 |
全労済 |
H22.4.1 |
その他 |
その他 |
ソニー |
H23.2.1 |
訴訟基準 |
訴訟基準 |
損保ジャパン |
H23.4.1 |
訴訟基準 |
訴訟基準 |
東京海上日動 |
H22.7.1 |
その他 |
訴訟基準 |
日新火災 |
H23.4.1 |
訴訟基準 |
訴訟基準 |
三井住友 |
H22.10.1 |
訴訟基準 |
訴訟基準 |
三井ダイレクト |
H23.7.1 |
訴訟基準 |
訴訟基準 |
AIU |
H22.10 |
訴訟基準 |
訴訟基準 |
JA共済 |
H23.4.1 |
その他 |
その他 |
SBI損保 |
H23.4.1 |
訴訟基準 |
訴訟基準 |
赤字の部分は「人傷基準」もしくは「比例按分説」(「絶対説」「差額説」とは違うもう一つの説。混乱しますので説明は割愛します)に近い計算方法、もしくは会社独自の計算を用いています。
この表はあくまで3年前の回答です。現在はほぼ全社「訴訟基準差額説」に乗っ取った対応となっています。赤字はつまり、約款改定が遅れていた会社と言えます。
しかし不思議です。「訴訟基準差額説」と回答していながら、いざ請求すると「人傷基準」を提示してくる会社が、まだあります。この表で「裁判基準」と回答しているにも関わらずです。まさか、担当者が自社の約款を読み違えているとも思えないのですが・・この場合、弁護士から強硬に請求した結果、渋々「訴訟基準」となります。まるで弁護士や請求者の足元をみているような対応です。この点、約款をわかりづらくしている効果を感じます。
このように、現場では人身傷害の支払い基準は会社ごと、担当者ごと、事案ごとにグラグラに揺れています。約款の規定は何処へやら、不安定なのです。
そしてアンケート上、「訴訟基準差額説」が大勢を占める中、「差額説」判決と同じ年の24年6月、高裁にて「人傷基準差額説」を支持する判決がでました。
つづく