いよいよ、人身傷害特約をめぐる争いの世界に突入です。覚悟してついて来て下さい。
交通事故でけがをした場合、事故相手(相手保険会社)だけではなく、自身も人身傷害特約に加入していれば、双方に請求することが可能です。
まず、被害者が先に自らが加入している保険会社(以後、人傷社とします)に人身傷害特約を請求・取得し、その後に裁判等で賠償金を取った場合を想定して下さい。その賠償金は加害者が任意保険に入っていればその保険会社(以後、賠償社とします)が支払うことになります。この場合、先に人身傷害を支払った人傷社がその賠償金からすでに払った人身傷害保険金をどれだけ求償できるのか?を争った裁判です。
人傷社は「既に支払った全額を返して!」と「絶対説」を主張し、被害者は「過失関係なく全額補償するのが人身傷害特約でしょ?」と主張しました。そして、裁判の結果、「被害者の賠償金全額を超えない範囲で求償しなさい」と、人傷社の全額求償を否定しました。これが「差額説」です。
これから続けます人身傷害約款の問題点に触れる前に、この「絶対説」「差額説」の理解は避けて通れません。難しい話なので裁判の判旨を読んでも弁護士しか理解できないでしょう。今日・明日は人身傷害の「絶対説」vs「差額説」を世界一易しく解説します。これは昨年の「弁護士研修」の講義の内容からです。
「絶対説」では全額補償とならない?
矢口さんは自動車で走行中、交差点で出合頭の衝突事故でケガをしました。腕を骨折し、半年後、後遺障害12級の認定を受けました。過失割合については相手と事故状況が食い違い、争っています。治療費は相手のTUG損保(賠償社)から支払われていましたが、後遺障害の話となると険悪となってしまい、話し合いが進みません。 そこで矢口さんが加入している加護火災(人傷社)の人身傷害特約から、先に保険金500万円を受け取りました。
⇒ 500万円
「人身傷害特約は過失に関係なく100%お支払いしますよ!」 「助かるわ!」
続いて、矢口さんは加害者に対して裁判を起しました。判決で賠償額は1000万円となりました。そして、過失割合は20(矢口さん):80(相手)で決着しました。つまり、矢口さんはTUG損保から1000万円×80%=800万円の賠償金を受け取ることになります。
「800万(泣)」 ⇒「やった!」
しかし、加護火災はすでに500万円を支払っている立場上、裁判に参加して「すでに支払った500万円全額返して」と主張しています。そうなると矢口さんはすでに受け取った500万円を差し引かれた300万円が追加されるだけです(結果、すでに受け取った500万円と併せて合計800万円が総受取額となります)。
⇒ 800万 -500万 = 300万円のみ加算?
「判決額を払います(泣)」 「既払い500万を求償します!」 「合計800万‥あれっ?全額補償にならない!」
矢口さんは保険の加入の際、「人身傷害特約に加入すれば、自身にも責任があって相手から全額もらえない場合、この特約から補てんされますよ」と聞いていました。したがって、既払い分の500万円を差し引かれた結果、賠償金が1000万円の全額とならないのはおかしいと文句を言いました。
対して加護火災の返答は「弊社の算定基準ですと矢口さんの損害は500万円です。そして、その保険金額は相手からの賠償金を差し引いた額と約款に書いてあります。したがって、800万円の賠償金ですから、そのうち500万円は弊社が優先的に返していただきます。」
確かに人傷傷害の約款に、「支払い保険金の計算において、相手の対人賠償から支払われる額を差し引く」と書いてあります。
・・この約款にて、支払った人身傷害保険金・全額を求償するのが「絶対説」です。
この説は保険会社が有利で、被害者は自身の過失分も含めた全額補償が受けられません。矢口さんは「これはおかしい!」と加護火災に訴訟を起こしました。「加護火災が求償できるのは契約者が1000万円をキープできるよう、300万までではないか」と主張しました・・・。
つづく