人身傷害は保険会社が予め金額を決めた傷害保険なのか、
 
 加害者を肩代わりする賠償保険なのか?

 
 言い換えると、保険会社の支払い基準に準じで計算される定額保険なのか、加害者と被害者が交渉の末に合意した金額を払う「つぐない」の保険なのか? 現在も個別案件で絶えず問題となっています。

  

 平成24年2月の最高裁判決後、各社約款の改定を進めてきました。一部の会社を除き、「裁判での和解・判決なら、その金額を損害総額と認める」約款に改定、もしくは実際の運用でそうしています。すると、裁判外で合意・示談した賠償金総額は、この約款を盾に認めません。そこから交通事故・第2の戦いになります。人身傷害への満額請求こそ、私共にとって一貫したテーマなのです。
 
 この3年は大きな約款改定の動きはないようです。詳しくは、
 ⇒ 人身傷害の約款改悪シリーズ 人身傷害保険の支払限度は結局、人傷基準 ①
  
 この問題を一から説明するのは難解で時間がかかります。一言で言えるものではありませんが、早い話、自動車保険の契約時には夢のような補償を説明しますが、実際に支払う際に裏切られることがある、と言うことです。
 
 人身傷害保険発売以来、その売り文句は以下の通りです(某社パンフレットを参考に図示)。

 この説明ですと、人身傷害保険に加入していないと・・・事故で自らに40%の過失があった場合、加害者からの賠償金が40%差し引かれることが説明されています。人身傷害に入っていれば、この差額2000万円が支払われることになります。これを目にすれば、「これは入らなきゃ」と思うでしょう。

 しかし、落とし穴が存在します。人身傷害保険にはその決まった支払い基準が存在し、必ずしも相手の賠償金の計算基準と一致しないことがあるからです。この図における相手からの賠償金はあくまで、保険会社の対人賠償金が、人身傷害保険の基準と同じという前提のケースです。実際は、相手保険会社の提示そのままで合意した場合に限られます。

 もし、相手保険会社の担当者と交渉の結果から著しく増額させたり、紛争処理センターで斡旋を受けて示談した場合、弁護士に示談を任せた場合、これらの賠償金総額は、多くのケースで相手損保の提示額を上回ることになります(ほとんど変わらないか減ってしまうこともありますが、あくまでレアケースとします)。それに対して、人身傷害保険に自身の過失分として差し引かれた、その総額の40%を請求しても・・・
 
「弊社の人身傷害保険の基準では、その40%分は0円となります」
 
 人身傷害基準の計算によっては、
 
「弊社の人身傷害保険基準ですと、その40%分は1000万円の計算になります」
 
 と回答されるのです。パンフレットの2000万円は支払われません。これでは、下線部の「実際の損害額を補償」は嘘に聞こえます。当然、契約者さんは「話が違う(怒)!」と憤慨します。契約の際に説明した代理店さんは「困惑」、と言ったところでしょうか。 

 当の対人・人身傷害の担当者の解釈は・・「過失分引かれた対人賠償(≒裁判基準)と、過失分ひかれない人身傷害(人身傷害基準)、どちらか多い方を受け取って下さい」と、まじめに説明する始末です。なんで選択に?、筋違いも甚だしいと思います。パンフレットの「全額補償」など、端から守る気がないのです。

 それなら、せっかくまとまった相手との示談内容を反故にして、人身傷害保険の(満額)支払いの為にわざわざ裁判をするのか? ・・被害者さん(=人身傷害の契約者さん)はこのような窮地に置かれるのです。

 だまされた気分になりますが、約款には各社揃って、まず「人身傷害保険基準で支払います」と書いてあります。各社、これを自動車保険のパンフレットまでには書いていないか、隅っこに小さく注意書きがあるだけです。もっとも、書いてあっても「何のこっちゃ?」わからないでしょう。
 
 どの商売でも、売り文句を前面に、注意を小さく(あるいは約款のみに記載)はあると思います。しかし、自動車保険の場合、その額は、このパンフレットを観ても1千万円単位になることがあるのです。それでも、この程度は広告規制に払拭しないと、保険会社は思っているのでしょう。
 
 この問題は、確かに少数例かもしれません。しかし、秋葉事務所には毎月のように、「人身傷害基準での不支払い・減額」の相談が入ります。最高裁判決から10年、いい加減この問題に決着をつけるべきです。被害者から依頼を受けた弁護士には、人身傷害の満額請求を決して譲らず、相手との示談交渉だけでなく、人身傷害を含めた全額回収を図る仕事が望まれます。 

 全国の交通事故を扱う弁護士先生に期待するしかありませんが、このからくりを知らない先生が普通で、知っていても「約款に書いてあるから仕方ない」、「(人身傷害への)保険金請求は弁護士の仕事ではない or 契約にない」と切り捨てる先生が大多数に感じます。どの保険会社に対しても対策が可能で、最初から裁判前提と、しっかり全額回収できる弁護士先生はほんの一握りなのです。

 ここで、私が愚痴をこぼしても仕方ないのですが、人身傷害保険に対する問題提議と個別の対応は、しっかり弁護士と取り組んでいきたいと思います。小さな火かもしれませんが、消えないよう炊き続けなければなりません。