問題のある業務シリーズとなってしまいました。今日はケーススタディで考察を進めます。
<実例 3> 保険会社との直接交渉は有効か?
交通事故の保険・賠償金の基準は大きく分けて以下3分します。
自賠責保険基準 < 任意保険基準 < 裁判基準
① 自賠責保険の支払基準については定額がほぼ明示されています。
② 任意保険基準は平成10年の保険料率の自由化以降、各社独自基準となっています。しかし各社大差なく旧基準を準用しているようです。
③ 裁判基準と呼べるような明確な基準はありませんが、弁護士会の「赤い本」「青い本」などが有名で、実際に用いられています。
保険会社は当然、任意保険基準で提示してきます。しかし3か月以内の通院のケガではほぼ自賠責保険の基準と変わりがありません。単なるムチウチやちょっとした捻挫、打撲がこれにあたります。自賠責保険の範囲で支払が完了すれば、実質保険会社の支払は0円です。なるべくこの0円で押さえたいのが営利企業の本音です。
しかし後遺障害を残すケガなど賠償金がかさむ場合、会社の持ち出しが増えるので減額に必死となります。この理屈が被害者への低額な賠償提示となるわけです。
では保険会社と交渉する3者を見てみましょう・・・
(1) 交渉事に長けた被害者Gさん
保険会社にあの手この手で理屈を持ち込み、賠償額の引き上げ交渉を本人が直接したとします。しかし保険会社の内部的な運用規定(代理店はおろか部外の社員でさえ見せてくれなかったです)で若干上乗せするにとどまります。裁判基準と同じ額を求めても例外(特殊事情です、例えば大型代理店やスポンサーの圧力、ヤクザ)などを除いてほとんど跳ねつけられます。裁判基準レベルは望むべくもありません。
車屋さんで新車購入の際、「粘りに粘って(最初からある)値引き枠を引き出して満足!」と似ています。
(2) 次に交通事故専門をうたう行政書士のH先生
この先生は自ら作った渾身の賠償請求書や判例、資料を持ち込んで交渉してみます。この分野には弁護士より精密に勉強をしている強者が存在します。素晴らしくよくできた賠償提示を行って成果を上げているようです。しかしその額が裁判や紛争センターの斡旋案を上回るものではありません。保険会社もこの交渉に応じる理由は、紛争センターに持ち込まれて裁判基準に近い額を取られるなら、その7~8割程度で手を打とう、といった時間短縮のための打算です。
したがって、このH先生は被害者に保険会社との示談は裁判や紛争センターと比べ、2~3割少ないことを被害者に明示しなければなりません。紛争センターでは解決まで平均4か月を要します。この失った賠償金と4か月を天秤にかける相談が必要です。裁判の場合は半年~数年です。
しかし、裁判になっては弁護士先生に報酬が発生するので、行政書士自身としては自らの報酬が減ります。ですので被害者に「早期解決」を説いて保険会社と示談し、増額した分から報酬を受け取ります。もしくは昨日の実例(交通事故業務について考察 4)のように、陰で紛争センターに介入、増額分から報酬請求します。
はぁ~(ため息)。誠実に仕事している先生の方が少ないような・・・
(3) 今度は弁護士法人のJ大手事務所が乗り出します
全国組織で大勢の被害者を救っています。後遺障害等級が高ければいいのですが、14~12級程度に数か月もかけていられません。スピード解決&大量処理が命です。ですので被害者が保険会社と争いたくて門をたたいたにも関わらず、この保険会社と裁判基準の7~8割で妥協的示談をしてしまいます。スピード解決=被害者の利益ですが、もらいそこなった賠償額を被害者に明示したのか疑問が残ります。
法律屋さんどころか法律ディスカウントショップのようです。このやり方も一概に問題とはいえず、紛争処理の一形態として社会的に有用かもしれません。あまりに合理的ではありますが・・・。
どうでしょう?結論を急ぐわけではありませんが、
すべてそれぞれの立場で、それぞれの都合で事故が処理されていませんか?
もちろん、裁判や紛争センターを利用せず、保険会社との交渉がベストのケースもあります。最近の例では相手保険会社の担当者が何を血迷ったのか高齢者に高めの逸失利益や介護費用を提示したケースがあります。これは裁判で厳しく審議されては大幅に減る危険性のある項目です。また公務員で休業補償や傷病手当をたくさんもらった方に保険担当者が休業損害をまともに提示したケースです。これも裁判では賠償金から間違いなく引かれる項目です。・・・つまりお粗末な保険担当者により、裁判を避けることも得策となることがあります。
その辺の臨機応変な判断がプロには望まれます。
明日はいよいよ結論です。