直接請求ができることと、保険会社がすんなり支払ってくれることはイコールではありません。
約款の(2)を解説します。事例に乗っ取り、一つ一つ確認していきましょう。
(2)当会社は、次の①から④までのいずれかに該当する場合に、損害賠償請求権者に対して(3)に定める損害賠償額を支払います。
ただし、1回の対物事故につき当会社がこの対物賠償責任条項および基本条項に従い被保険者に対して支払うベき保険金の額(同一事故につき既に支払った保険金または損害賠償額がある場合は、その全額を差し引いた額)を限度とします。
「直接請求されたと言っても、支払いには条件があります」とのことです。以下の①~④のどれかが条件です。「ただし」以下の後段の意味は「正当な金額までですよ」です。
事例で説明します。香取弁護士に修理費の見積もりを突きつけられた東京ダイレクト損保の中居氏、仕方なく事故対応に応じました。しかし約款上①~④のいずれかに該当しなければ払わないと応答してきました。
① 保険者が損害賠償請求権者に対して負担する法律上の損害賠償責任の額について、被保険者と損害賠償請求権者との間で、判決が確定した場合または裁判上の和解もしくは調停が成立した場合
東京ダイレクト損保は「稲垣さんと草薙さん(代理人 香取弁護士も含む)との間で裁判をしていただき、判決か和解、もしくは簡易裁判所での調停が成立したなら払います。」との意味です。なんだ結局、裁判が必要なの?と思いますが、この条文で保険会社への回収の見通しがつくことになります。
② 被保険者が損害賠償請求権者に対して負担する法律上の損害賠償責任の額について、被保険者と損害賠償請求権者との間で、書面による合意が成立した場合
「稲垣さんと草薙さんの間で示談が成立した場合、支払います。」との意味です。かなり可能性の低い条件です。そもそも事故状況が食い違い、稲垣さんが逃げに回っている事件です。
③ 損害賠償請求権者が被保険者に対する損害賠償請求権を行使しないことを被保険者に対して書面で承諾した場合
草薙さんが稲垣さんに対して「僕は稲垣さんに一切修理費を請求しません。」と念書を交わすことです。しかし本件のもっとも深い部分、ここでは稲垣さんの意図ですが、本当は自分に責任があると感じながら ⇒ 来年の保険の掛け金が上がるのが嫌 ⇒ 保険を使わないで逃げ切ろう、ではないでしょうか。するとこの念書のやり取りに発展するのかは微妙です。
④ 法律上の損害賠償責任を負担すべきすべての被保険者について、次のア.またはイ.のいずれかに該当する事由があった場合
ア.被保険者またはその法定相続人の破産または生死不明
イ.被保険者が死亡し、かつ、その法定相続人がいないこと。
つまり加害者、ここではア:稲垣さん破産で支払い能力0となった、イ:稲垣さんが死んでしまった・・仕方ないので東京ダイレクトが草薙さんの修理費を支払います。との意味です。この条件は保険会社の社会的役割の美徳ですね。
明日は最終回、事例の解決を見届けましょう。草薙さんは修理費を得ることができたのか?