途方に暮れる草薙さん、いくつかの法律事務所に相談しましたが、電話の段階で「30万円請求の物損事故?」ではどこも相手にしてくれません。なぜなら経済的利益が30万円程度の事件では弁護士事務所も利益が薄く、仮に20万円ほどの報酬で受任しても、「相手が保険を使ってくれない=回収の見込みがない」と敬遠してしまうのです。そして加害者が保険を使ってくれない、だから保険会社も対応しない、という相手保険会社の対応に一様に納得しているようです。”交通事故に強い”と喧伝している弁護士も「相手が保険を使わないなら修理費の回収は難しい」との回答です。
それでも無料相談会を開催しているジャーニー法律事務所を訪れました。そして対応した弁護士・香取先生から目からうろこの回答を聞きました。
草薙さん:「やはり相手の稲垣さんに法的手続きを取るしかないのですか?それでも30万円は取れないのでしょうか?」
香取先生:「相手の稲垣さんに法的手段をとって請求することは可能ですが、やはり回収の問題があります。そんな面倒なことをしなくても、保険会社の東京ダイレクトに請求しましょう」
草薙さん:「えっ、でも稲垣さんは保険を使わないと言っていますし、東京ダイレクト担当者の中居さんも『契約者が保険を使わないと言っているので対応しません』と取り付く島なしなんですよ。」
香取先生:「この場合、保険約款上の直接請求権を行使します。つまりあくまで東京ダイレクトに請求をします」
草薙さん:「直接請求権?初めて聞きますが、それは何ですか?それで何とかなるのですか?」
香取先生:「損害賠償請求権者、本件では草薙さんですが、事故相手の保険会社に直接請求を行うことが約款上、認められています。その請求に対し、一定の条件はありますが、保険会社は対応せざるを得ないのです。支払いに対してはやはり稲垣さんの同意が必要ですが、ひとまず交渉の窓口を開かせ、中居さんに稲垣さんを説得させる効果はあります。」
草薙さん:「では、今までの”稲垣さんが保険を使わないなら、東京ダイレクトは動かない”・・これは間違っていたのですか!」
香取先生:「中居さんがとぼけていたのかどうかはわかりませんが、保険会社の担当者も弁護士も困ったことに直接請求権を知らないのです。 手続きですが、あくまで東京ダイレクトに修理費の請求書を突きつけ、『保険約款 第〇条(損害賠償請求権者の直接請求権)にもとづいて請求を行います』と通知します。おそらく30万円程度なら保険会社も支払いを検討するはずです。ここで稲垣さんの同意が得られないと支払い拒否の回答をしてきたら、稲垣さんに法的手段を講じると揺さぶりをかけます。ここで稲垣さんが折れて結局、保険使用に進むはずです。」
草薙さん:「それでは、香取先生、是非お願いします!」
香取先生:「報酬は多くいただけませんが、お受けしましょう。」
さてようやく請求の目途が立って一安心の草薙さんですが、なぜ紆余曲折したのか、問題は「直接請求権」につきます。これを説明する場合、実例を踏まえずに約款解説しても何のことやら?になってしまいます。
前置きが長くなりましたが、明日は「直接請求権」について解説します。